意外な告白
帰りは、はしけでは無くて、はしけを引っ張っていた小舟に揺られてラクス湖東岸へ向かう。
はしけを動かすのは大げさだったし、それはそれで優雅だ。
離宮にいたのは二点鐘ぐらいだったのだろうか?
陽は傾き始め、空は黄金に。小さなさざ波は湖面を繻子のように輝かせる。
小舟はそんな湖面を滑ってゆくのだ。
なんて絵になる光景――なんて事は想像だけだった。これだから
現実は揺れる。
もしかして王家の嫌がらせではないのかというぐらい。
小舟と言っても、それなりに大きいので転覆するような危険は感じなかったけど、漕ぎ方が雑なんだわ、きっと。基本ははしけを引っ張ってる船だから?
何かスケジュールがあったとか……そこまで王家が気を遣ってくれるとは考えない方が良いのね、多分。
妃殿下は「ラティオ」のファンではあるし、こういう嫌がらせを今更するとは思えないのよね。
ただそれでも妃殿下は名目上は私の姑になるお方なのか。
……なんだか、それも嫌だなぁ。
いや、ニガレウサヴァ伯が姑というのもそれなりに覚悟は必要だったんだけど、覚悟の種類が違う気がする。
ウィルはかわいい小姑だったんだけど――うん? これはこれで継続する関係な気がする。
つまり私には姑が二人?
それは一般的に見て、かなり危険な状態なのでは?
「お嬢様。ご気分が優れませんか? もう少しで到着しますので頑張ってください」
私の横に腰掛けるアウローラがそう声をかけてくれた。
日傘をさしかけようとしていたのを止めて、お互いの体にしがみついた状態であるので、私の顔色の変化にすぐに気付いたのだろう。
まぁ、その理由の半分は小舟の揺れにあることは間違いないので、ここは素直に頷いておく。確かに桟橋はもうすぐそこだ。
アウローラの声に導かれるように、視線を上に向けると――
「よう! お疲れ様!」
クーガーがそこにいた。
白いふわふわ髪を黄金色に輝かせながら。
~・~
岸に着くとアウローラはさっさと宿に引き上げてしまった。
日傘は自分で持てとばかりに、私に押し付けて。
クーガーが婚約者に戻ったので「あとはお好きに」みたいな、懐かしい動きになっている。
考えれば離宮に行く前に「謎解きしに行くのだ」と言われたけど、そんな展開は無かったし。
クーガーについては王家の方々も説明できないながら理解してくれていたようだし、いきなりイラッハ伯を虜にしてしまったことも私の指示では無いと受け止めてくれているようだ。
あれから結構な時間が経ってるし、その辺りの調査は終わっているのだろう。
それなら謎解きって……ああ、クーガーが私にこだわる理由かしら?
でもあれは偶発的に起こった「謎解き」だったし、アウローラも慌てていたし……やっぱり現実に全て理屈をくっつけるのは無理みたいね。
「なぁ、そのドレスで会いに行ったのか?」
「違うわよ。
並んで歩きながら、クーガーとそんな話をしている。
「湖の宮殿」前に自然とできた街なので、それなりに都会だけど街の名前は……なんだろう?
世の中には名前を付けられないものがたくさんあるわね。
私が知らないだけの可能性もあるけど。
私の今日の普段着ドレスは黄色くて花柄の小紋の生地でレースは少なめ。
それに斜めに帽子をかぶり、日傘も自分でさしている。
確かにこの方が目立たなくていいわね。
……そうなるとアウローラの掌で泳がされた疑惑がますます濃厚になるんだけど。
で、クーガーはどういうわけかニガレウサヴァ伯爵家の軍服姿だった。
着慣れているとか、そんな理由なんだろうけど、立場的に微妙なような……
王家の家庭内でもどう扱うべきか定まっていないのだろう。
私がこんなあやふやな格好していたら、アウローラが許すとは思えないし。ああ、それでアウローラは……
「何だか疲れてるな。でも仕方ないよな。俺もあの島何だか緊張するし……結局、あそこは王家の連中の縄張りなんだよ。『湖の宮殿』はまだましだな」
「縄張りか……」
確かにそんな感じかも。
けれどクーガーもそんな風に思うなんてね。
……私と同じに。
それが何故か嬉しくなって、照れ隠しに、
「あなたもこっちに来てるなら一緒に来てくれても良かったのよ」
なんて嫌味半分、本音半分でそう言ってしまった。
するとクーガーは大げさに手を振りながら、
「え~? 俺がいたらややこしくならないか?」
と、鋭いことを言う。
確かに……その可能性が高かった気がする。やっぱり、この子の危機回避能力は確かだけど説明できないわね。
でも、そうすると……
「何でここにいるの? 『湖の宮殿』で仕事でもあったわけ?」
という疑問が浮かび上がる。
本当に今更なんだけど。
「ああ、仕事と言うかキンモルと一緒に近衛兵相手に遊んでたんだけど」
「遊んで……」
「スイーレに言いたいことがあったの思い出してさ。こっちに来たんだ」
何だろう?
確かにしばらく会ってはいなかったけど久しぶりではないのよね、実は。
二週間前ぐらいにも会ってるし。
私が首を傾げながらクーガーを促すと、こんなことを言い出した。
「新刊のさ。タイトル忘れたけど操車場がガランとなる奴。あれ面白かった。それを伝えようと思って」
私が今日一番の驚きに目を見張ったのは言うまでもない。
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