【第21話】私の怒りと、ミーナの機転
ーーーこれが、モテる男なのか?
いや、確かに、確かに!“イケメン”……それは、才能といって良い。
そこに居るだけで幸せな気持ちにしてくれる。
してくれるが……これは流石にー……
(
カインは着席してから今に至るまで、「お、おう……」な感じの自慢話を延々と続けている。
イケメンに見えていない私どころか、一緒に来たミーナまで、ここしばらく「流石公爵家ですわね」「そうなんですの」「まぁ…」「なるほど」「はぁ」と相槌メインで、しかもその相槌もクオリティーがだだ下りになってきている。
(おいい!子分その1・その2、親玉をとめてくれっ)
取り巻き二人を、脳内で子分呼ばわりしてしまっているからか、2人の名前が覚えられないでいる。
失礼だとは思いながらも、既に“子分呼び”が脳に刷り込まれて、二人の名前が脳を滑って転げ落ちていく。
二人のヨイショに、気分良さそうにカインはまだまだ自慢話が止まらない。
身振り手振りまで加わって絶好調である。
……そういえば前世でも、存在するだけで素晴らしいほどのイケメンというのは、二次元限定の話だったかもしれない。
(お兄様は別格なのでこの限りではないとする!)
いくらイケメンでも、避けられるようになる人はいたし、それにはそれなりの理由があった。
丸まんま、カインに当てはまるのではないだろうか。
……いや、ミーナが特殊なだけで、普通の令嬢はウットリとこの自慢話に耳を傾ける可能性もあるか。
(ないわーっ!ないっわぁーーー!)
第一印象最悪でした!でも、後から案外良いやつじゃん!のギャップで返り咲くというパターンもあるが、残念ながらカインは、第一印象から更に悪化して行っているという、私にとっては、非常に困った存在である。
ところで私達は今、不本意ながら二杯目のお茶をここでいただいている。
(ミーナが不本意かどうかは定かではないけど)
実はお茶の最後の一口を飲みながら、席を立つタイミングと文言を考えていたところ、さっきの給仕がさっと来て、おかわりを注いでいったのである!
(ちくしょう!さっきチラッと給仕を呼んだのはそれかよぉ!なんでありがた迷惑なとこだけスマートなん?!)
お陰で、いまだにここで二人して相槌を打っている……というわけだ。
「ところで……」
カインが気を引くように、少しだけ張った声を出しで、意味深に溜める。
(今度はなに?!)
「アメリア嬢には、兄上が居るそうだが、今回は……今回も、かな?参加しないのかい?」
「…………」
笑顔を貼り付けたまま見返すと、さぁ言ってみろと言わんばかりの表情でこちらを見下してくる。
(こいつ……っ!)
カインのような人にこそ、お兄様のことに触れてほしくなかった。
「そうですわね。お兄様は、夜にお祝いしてくださいますの。わたくし、楽しみにしておりますのよ」
カインの「今回も」とわざわざ言い換えるところが、“事情は知っている“と物語っている。
「それが何か?」という気持ちを込めて、約束があることを強調する。
約束があるのは、返事をもらってないとはいえ、事実なのも手伝って、嬉しいという顔で見返す。
すると、カインは良い笑顔を浮かべて言った。
「へぇ、どうやらアメリア嬢はとても慈悲深いご令嬢なんだね!素晴らしいよ!我慢強くて、優しく美しいだなんて。そうそう真似できることじゃないよ!」
ーーーぷ つ ん
ふっ……と耳に届く音が遠くなって、カインがまだおかしな称賛を私に送っているようだが、内容が頭に入ってこない。
「お「アメリア様」ー…っ……」
「お顔色がよろしく有りませんわ?お茶の飲み過ぎかしら?ご気分が優れないのではありませんか?」
言いかけた私にミーナが声を被せて遮った。
声だけでは止まらなかっただろう。
だけどミーナは、小さく震える両手で、私の肘の当たりをやんわりと……だけどしっかりと包み込んでいた。
その温もりが私を止めた。
「……えぇ…」
(危なかった……)
今、ミーナが止めてくれなかったら、「おまえーー!!!」と大声で怒鳴っていただろう。
ソファから降りて私の膝に寄り添うように屈んだミーナが、顔を覗き込んでくる。
「まぁ、大変!お熱もあるのでは?!」
言いながら、視線で”さぁ行きましょう“と促してくる。
カインとの間に体を割り込ませて、実際の顔色を隠してくれている。
多分、意識してやってくれている。
(……すごい)
ミーナの好意に全力で乗っていこう。
「……実はお茶の2杯目を飲み始めたあたりから、気分が良くなかったのです。初めての事が多くて、疲れているのかもしれないですわ」
「あぁ、それは大変だ。無理しないで、もう休んだ方が良いのではないかい?」
無駄に紳士な所のあるカインは、知ってか知らずか、これ以上の無理強いはしないようだ。
私を背に隠すような位置で、ミーナが暇を告げてくれる。
「ではカイン様、お茶にお誘いいただきありがとう御座いました。アメリア様に付きそいますので、私も下がらせて頂きますわ」
「……ではカイン様、お言葉に甘えて失礼致しますわ。ありがとうミーナ。お願いするわ」
「ああ、よく休むようにな」
こうしてミーナの素晴らしい機転で、あの場でぶち切れるのを回避した上に、カインの前から逃げる事にも成功した。
今回は、逃げるが勝ちを適応したい。
(お兄様の事になると、冷静で居られなくなるのは、なんとかしなきゃだめだなぁ……)
「リアっ……大丈夫?本当に気分も悪いんじゃない?」
肘を支えて貰ったまま、開場前にいたサロンへと二人で下がったところで、ミーナが心配そうに声を掛けてくれる。
サロンに着くまでは、あえて黙って支えてくれていたのだろう。
「大丈夫よ、ちょっと頭に血が上っちゃったようだけど、体調には問題ないわ」
(もうホント、感謝しかない!マジで私と同年代の幼女のやる事とは思えんっ!)
正直大人でも、こんな対応そうそう出来ないんじゃ無いだろうか?
ミーナこそが神童に相応しい!!!
(ミーナ様!一生ついていきまっす!)
実際、ミーナが隠そうと思った位には、顔色もたいして悪くない。
挨拶で疲れていたのも、ミーナとの食事の時間でかなり回復していたのだ。
「それよりも、さっきはありがとうっ!本当にありがとうミーナ!あの時怒鳴ってしまうところだったの」
「うん、そうかなって思って……でも、あんなひどいこと言うなんて……止めないほうが良かったかなって思ったくらい!」
「うぅうん、止めてくれてよかった。子供同士とはいえ、相手は格上の公爵家だから、両親に迷惑かけちゃうところだった」
「うん、リアなら後でそう思うかなって」
「ふふっ!流石ミーナね!一生ついていくわっ!」
「やだ、リアったら、どちらかと言えば私が
ついていく方でしょっ!侯爵令嬢なんだからっ!フフッ」
(その上こちとら中身25歳+6歳なんだけど、全くミーナの前を歩ける気はしない……)
「今日会ったばかりだけど、一生友達でいてね!私もミーナのために出来ることは何でもするからねっ!ミーナ!」
私が改めてそういうと、嬉しそうに破顔してミーナは言った。
「うん!ズッ友だよ!リア!!」
「……うん?」
「え?……あ!つ、つまり……ずうっと友達だよってことよっ!」
「…………」
しどろもどろなミーナを、“もしかして”……と見つめる。
ちょっとジト目になっていたかもしれない。
すると、人の目ってこんなに泳ぐのかってくらい、ミーナは目を泳がせながら、言い募ってきた。
「へ、変な言葉を使ってごめんなさい。両親にも変だからやめなさいって言われてるのに、たまにポロッと出ちゃうの。嫌いになる……?」
「………」
(どうしよう……さっきもラッキーだのレアだの、こっちで聞かない言葉を言ってたのは、ミーナならではなのかも)
“もしかして元日本人ですか?”
聞きたいのは山々だ……だけど、違った場合、今度は私がヤバイ奴である。
少し考え込んでしまっている間に、ミーナは悲壮な顔になって、涙目になっていた。
(いやいやいや、ミーナを泣かせるのは違うでしょ!)
ミーナが悲しむくらいなら、やべー奴結構!
(判断がおそいっ!ミーナを泣かせるなんて!)
「ねぇ、ミーナ……日本って……知ってる?」
「ぱっ?!!!!」
ミーナは謎の声をあげた。
驚きで涙がひっこんでいるところを見るに、心当たりがありそうだ……
ーーーーーまじか?
絵に描いたような王子様な兄を、イケメンウォッチングする私の話 ましぇり @maceri
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