【第20話】私と、心の友ミーナ



 私が声を掛けると、フェルミーナはパッと華やいだ嬉しそうな笑顔を浮かべ、テーブルの横でカーテシーをしてくれる。


「改めまして、お誕生日おめでとうございます。アメリア様。お声がけありがとう存じます」


「ありがとう存じますフェルミーナ様。唐突で申し訳ないのですが、その……良かったら、お互いもう少し言葉を崩しませんか?」


 フェルミーナは挨拶の時からニコニコとして居て、とても印象が良かった。

その上、精神的に疲弊して居た私は、丁寧な言葉で長たらしく話すのが少々煩わしくなってきて居たので、同性かつ同年代と会話する時くらい、気を抜けないものかと、ダメ元で聞いてみた。

 疲弊して居ようとも、にっこり笑顔を絶やさずお願いしてみると、少しの間キョトンとして、それから満面の笑顔で了承してくれた。


「もちろんですわ!では、気が早いかもしれないけど、わたしのことはミーナって呼んでね!親しい人にはそう呼ばれてるの」


(んは!かわええっ!)


 大成功である!

楽だし、可愛いくてほっこりする。


「ありがとう!私も愛称で呼んでもらいたいところなんだけど、両親にもアメリアって呼ばれてて……」


 愛称呼びに是非とも乗りたいが、アメリアの愛称ってなんだ?と頬に手を当てコテリと首を傾げると、フェルミーナは頬を染めて私を見ながら、おずおずと提案してくれる。


「リア…様なんてどうかしら?」


(チラチラと上目遣いで窺ってくるの、ズルない?!)


「様は要らないわっ!いいわね!じゃぁ今から、ミーナとリアねっ」


「うんっ!よろしくリアっ!」


 幼女二人で手を握り合ってキャッキャうふふ。

初めての友達は、とっても素直で可愛いミーナ、君に決めたっ!


(複数人で会話するより、このままミーナと二人で過ごしたいなぁ……小腹も空いたし、誘ってみよ)


「ミーナ、お料理はもう食べた?私少しお腹すいちゃった。お料理取りに行くの、付き合ってくれると嬉しいなっ」


「うん!わたしもお菓子が食べたいし、一緒に行こっ!」


 二人で手を繋いだまま仲良く歩いて行って、給仕に頼んで好きな料理をとってもらう。

 立食パーティー形式なので、このまま立って食べても良いが、ホールの壁付近に幾つもテーブルセットが設置してあり、空いているテーブルは好きに使っていいので、座って食べることもできる。

立って食べるのは余り好きでは無いので、目立たない柱のすぐ横のテーブルに目をつけ、ミーナを誘導する。


「ミーナ、ここで食べましょ」


「うん、ここ落ち着いていいね」


「ふふっ、わかっちゃった?」


「うん、ちょっと目立たない感じ!ふふふっ」


 どうやらミーナとは、本当に気が合いそうだ。

 そうして、食べては話し、皿が空いては他の料理、果てはデザートまで食べる頃には、お互いにかなり気心が知れてきていた。


「へぇ!リアは絵を描いてるのね。わたし絵をみるの結構好きなの!今度リアの描いた絵を見に来てもいい?」


「もちろん!まだ侍女以外には見せたことがなくて、今夜お兄様に見せる以外は、まだ見せる予定なかったんだ。ミーナに見てもらえたら嬉しいな!」


「わあぁ!じゃぁレアね!2番目に見せてもらえるなんて、ラッキーだわ!」


(……ん?)


 この世界では、未だ耳にしたことがない語彙がチラホラあったが、自分の人付き合いの狭さと、日本語に聞こえてるので、“そう”変換されたのだろうと、小さな違和感をサラリと流した。


「今描いているのはお兄様でね、自信作なのよ!」


 えへん!と胸を張って言うと、ミーナは申し訳なさそうな顔で訊いてきた。


「リアのお兄様は、パーティーにはいらっしゃらないの?」


「……うん、事情があって……来られないの。後で二人でお祝いしましょうって、お誘いはしてるんだけど……」

 

 しょんぼりを隠せずに話すと、ミーナは何かを察したような顔をした後、「そっかぁ、残念だよね……」と本当に残念そうに呟いた。

 おそらく“事情”を察した顔をしていたのに、私の残念な気持ちに共感してくれたのが、とても嬉しかった。

きっと他の子に言ったら、内心「その方がいいじゃない」ってのが透けて見えるような顔で言ったに違いない。

なんだかそう思えるほどに、パーティーの挨拶では、仲良くなれそうな子が少なかった。

ミーナ以外では、最初に挨拶した公爵家のミハイルが一番印象が良かったくらいじゃ無いかな。

他の子は、獲物を狙うような目を向けてきたり、おべっかを使ってきたりで、とにかく居心地が悪かった。


(ミーナと友達になれて、ホントに良かった!)


「今は来られなくても、夜の招待にはリアのお兄様が来てくれるといいわね!」


「うん!ユリシスって言うんだけど、凄くかっこいいの!」


「そうなんだ!名前もかっこいいものね!うらやましいー」


「へへ、ありがとう!」


 初めてお兄様の事を話せる友達に、心の中で歓喜のジャンピング土下座をしながら、「ミーナ様ああ!」と敬った。

 

 じゃぁ後は紅茶でも飲んで寛ごうか、と二人で席を立つと、三人の令息が私達の前に立った。

 

(げっ……公爵家のカインと……その一派って感じ)


 内心げんなりとしながら、目上の公爵令息が話しかけてくるのを待つ。

いっそ公爵令息が無視を発動してくれたらいいのだが、むしろ向こうから来たので、それは無いのが心底残念だ。


「アメリア嬢!……そちらはパウエル家のフェルミーナ嬢だったかな?」


 腐っても公爵令息、よくご存知で……


「カイン様、お声がけ下さりありがとう存じます。何か御座いましたか?」


「ああ、せっかくのアメリア嬢の誕生日パーティーだから、声をかけてあげようと思ってね」


「流石カイン様、慈悲深い!」


「流石です。貴族の鏡です!」


 全くもって、して要らない上から目線な気遣いと、子分その1・その2のヨイショを聞いて、思わず天を仰ぎたくなったのを、ググッと耐える。


「まぁ、お気遣いありがとう存じます」


「ああ、僕と話したがる令嬢は多いからね、だけど今日はアメリア嬢が主役だから、こちらから来てあげたんだ。フェルミーナ嬢も、一緒に話さないかい?」


 恩着せがましい上に、微塵も断られるなんて思って居ないカインに頭痛がしてくる。

実際階級的に、事情でも無い限り断るのは無理だ。


(くっ……やっぱりこの子面倒くさい!)


「そうですわね……お茶を一杯ご一緒させて頂くのはどうでしょうか?」


「ええ、宜しければわたしもご一緒させて頂きますわ」


「ああ、ではあちらで座ろう」


 暗にお茶一杯だけ付き合うと返事をすると、途中給仕に声をかけつつ、自分たちが陣取って居た高位貴族用スペースへと案内された。


 ここは人通りが少なく、落ち着ける角に有り、広いローテーブルにソファがセットされ、寛げる空間になっている。

因みに反対側の角には、ミハイルのロイモンド公爵家が陣取っている。

 席に着くとすぐに、先ほど彼が声を掛けた給仕がお茶を出して行った。


(うん、そういうところはスマートなのね)


 大人気なくイライラしていた私は、心の中で割と酷いことを言ってしまう。

表には出さないけど、折角のミーナとの楽しい時間を邪魔されて、ご立腹なのだ。

 


 早く飲み終わっておさらばしようと心に決めて、お茶に口をつけた。



 この後本気でぶちギレる事になるとは、予想できなかった……

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