俳句好きの転生奇譚

戸塚 小夢(こゆ)

第一話 ここどこ?

俺は竹頭たけどう草子そうし

なんていってる場合ではない。

「どこだよここーーー!」

俺は心の中で絶叫したが、落ち着いて現実と向き合った。

周囲には共に昼休みを過ごしていたはずのクラスメイトが意識を失って団子状態。

俺たちは死んだのか?

180度どこをみても白い西洋風の壁、扉なんて見当たらない。

なのに。

“ガチャッ”

「ガチャ?」

扉がないと思っていた俺は警戒して周囲を見渡した。

すると、ちょうど真後ろに長老とでも言うべきな老人がいた、数人の若い男を連れて。

「ホホ、よくきたのう、少年。気がついておるのは君だけかの?」

「ど、どこだよここ。というか誰。」

「おいおまえ!いくら勇者御一行とはいえ神殿長様に敬意を持たん者の命はないぞ」

「まあまあダロン。わしが誰なのか分からなければ、敬意も払えまい。その前に、皆を起こすとしようかの。」

ホイッと言って何やら身長ほどの杖のようなものを何もないところから出現させた老人は、謎の言葉を発して杖の先から光を振りまいた。

「ん・・・なんだ・・・」

するとクラスメイトが目を覚まし始めた。

「うむ、全員起きたかの。では自己紹介といこう。わしはランダンド爺じゃ!この国の長老で、神殿長じゃ。昔は一級冒険者だったがの!それで、こいつらはダロン・ガロン・バロンの三つ子じゃ。それぞれ剣士・弓使い・魔法使い・・・だったかの?」

「そうでございます、神殿長様。」

「そなたらの中に勇者様の反応がしたのでのう。ガッコウというところのクラスというものをまとめて転移させたんじゃ。」

つまりこれは・・・クラス転移!?

「で。勇者様はどなたかの?」

皆はまず状況を理解できない様子。

しかし、クラスの陽キャ系男子が声を上げた。

「まず勇者の基準って何なの?でも、一番勇者っぽいのは桐島じゃね?」

「キリシマ・・・?誰じゃ。そこの一番早く目覚めた少年かの?」

「桐島は俺です。桐島海きりしまかいです、神殿長様」

「なんじゃ・・・そやつではないのか。まあよい。バロン。やれ」

「はっ」

またしても杖で光をまいた。桐島だけに。

「わわっ!なんだこれ!」

俺はだいたいの状況を察した。

クラス転移に巻き込まれた俺たちの中には勇者がいて、それが桐島。

そして桐島はお願いされ、魔王討伐の旅へ。

他の人たちは無事現世へ戻され、めでたしめでたし。

どうだ!と思ったら、ひとつだけ間違いがあったようだ。

桐島に光をまいていたバロンが急に顔をしかめたのだ。

「・・・神殿長様、こちらを。」

「なんじゃ?」

バロンの方へ近づいた神殿長様は驚きの言葉を発した。

「カイ・キリシマは勇者様ではない・・・だと?」

「はい。そのようにございます。」

「では誰なのじゃ・・・おい。そこの少年。名をなんという。」

「・・・はい?」

「名はなんじゃと申しておるのじゃ!」

「は、はあ。竹頭草子ですが・・・」

「ソウシ・タケドウ。こちらへまいれ」

「はい・・・」

またしても光。

「神殿長様・・・こちらも違います。しかし、この中では勇者様の次に魔力が多いかと」

「そうか・・・他に自分だと思う者は?」

「神殿長様。私は先祖代々勇者がいたと伝わる家系の者でございます。」

次に声を上げたのは、まさかの超陰キャ女子。

光が舞うが、こちらも外れ。

「神殿長様、こちらの方も勇者様に近いかと」

「そなた、この中に身内はおらぬかの?」

「身内・・・と申しますと、従兄弟がおります。しかしながら、その方は勇者様の家系から少し外れておりますが・・・」

「構わん。連れて参るがよい」

同じく超陰キャの男子が先程の女子に連れて来られた。

「神殿長様!このお方でございます」

「よし。では、魔力量順に役職を振り分けようではないか」

勇者パーティー/◎勇者 久礼雄太くれゆうた

       /剣士 佐坂大聖さざかたいせい

       /魔法使い 竹頭草子たけどうそうし

       /○ヒーラー 久礼梨歌くれりんか

一級パーティー/◎剣士 須崎葵すざきあおい

       /剣士 白井斗真しらいとうま

       /○魔法使い 桐島海きりしまかい

       /弓使い 近藤杏那こんどうあんな

       /ヒーラー 如月穂花きさらぎほのか

その他・・・五級冒険者

なんか、陰キャが勇者パーティーに入り過ぎているのは気のせいか?

久礼たちはいいとして、佐坂大聖も人に対して積極的ではなかった気が・・・

「おい!何なんだよ、この振り分け!おかしいだろ」

無礼にも叫んでしまったやつが1人。

一番に声を上げた白井斗真だ。

「なんで俺と桐島が勇者パーティーに入れないんだよ!?久礼と竹頭は絶対役に立たないだろ!?性格からしても、桐島か俺が勇者とかいうやつだろ!」

「おい、貴様。神殿長様にその口利くのか?命はないと思え」

「ガロン。弓を構えるでない。少し様子を見ようではないか」

「ですが・・・」

「よいよい。仮にも勇者様のお仲間じゃ」

あ・・・これ初期に処刑台かけられるかわいそうなやつだ。と察す草子であった。

「それと諸君。この後転移する際に自分の基本情報と、お仲間への最低限の記憶以外は消去させてもらうでの。異国の地で権力を振るわれても困るでな」

おいおい、ウソだろ・・・


―――――――――――


実戦訓練初日

勇者も所詮人間。やったことのないことはできない。

との神殿長様の一言で、これから二週間は旅にでる前に実戦訓練をすることとなった。

「勇者パーティーの皆様は、人並み以上の実力を持って頂かなければなりません。そのため、この国の騎士団長レベルでなければ教育を施すことは不可能と判断されました」

この二週間勇者パーティーに付いてくれるという、アルマが説明をしてくれた。

ちなみにアルマの正体は不明である。

「つ・・・つまり、団長様とやらに教育をしていただけると、」

気になったらしい佐坂が聞いた。

「えぇ。国務行為として国王様の許可もいただいております。」

「こ・・・国王様でございますか」

俺も気になることを聞いてみた。

「ちなみに、ここはどこで、どこに向かっているんですか?」

「神殿の中・・・としかお伝え出来ませんね。向かっているのは、古代敵襲訓練場です」

「古代敵襲訓練場・・・とは何ですか?」

「国宝級に厳重保存されている最古の訓練場です。在処すら、国の重臣と私しか知りません。魔力さえ注いでいれば、どれだけ損傷しても独りでに元通り、半永久的に敵が出てきます。一方で、一級冒険者以上の魔力量がなければ数分で魔力切れを起こすほどの消費量ですね」

それは・・・勇者パーティーの魔法使いが魔力を注ぐのか?

「あのぉ・・・それ、誰が注ぐんでしょう」

俺にそんな魔力はないが・・・

「ご心配なさらず。二週間は私の仕事でございます。」

「え・・・失礼極まりない質問であることは重々承知の上でお聞きしますが。どのような役職でいらっしゃいますか?」

「あ、自己紹介、まだでしたね。私は特級冒険者ギルド受付嬢のアルマです」

う、受付嬢!?下手すれば俺より魔力ないのでw・・・

「10才から兄に付いて冒険者をしていた元特級魔法使いです!兄の紹介で飛び級したので早々に特級になれたんです。特級冒険者を経験していないと特級の受付嬢になれなくて、憧れあったんですよね~」

すいませんでしたぁっ!と心の中で盛大にジャンピング土下座をしておいた。

「すごいですね!私もいつかやりたいな~」

ここにきて初めて梨歌がしゃべった。よほど共感したらしい。

「でも~皆さんは勇者パーティーですから、受付嬢になれるとしたら相当先ですね」

「そうですね~まあ気長に待ちますよ」

「アルマ・・・様の方がいいのでは」

雄太もしゃべった。確かに、もはや様付けの方がいいように思う。

「いえいえ!そうはいきませんよ。勇者様の方がはるかに上でございます」

「そう・・・なんですね」

「あ、着きましたよ!ここです。私はこちら側の休憩スペースにいますから。魔法使いとはいえ多少の治癒能力は持っていますから、お怪我された際と、訓練終了の際にはこちらへお越しくださいね」

「「「「はい」」」」

元気よく返事をしたはいいものの、振り返り、騎士団長を見て全員固まった。

超強面、長身、そして長刀という見事な固まる三大要素を持ち合わせた男が立っていた。

「アルマ、ありがとうな。魔力も頼むぞ」

「はい、!」

兄上だとぉぉぉーーー!!!

「エルマ!魔法使いとヒーラーたちはまかせるぞ」

「はい、!」

またしても兄上ぇぇぇーーー!!!というかエルマって誰!

この瞬間、俺はいつも以上に心の中で叫んだ。

「あ、紹介しますね。エルマは私の双子の妹です。同じく魔法使いですが、私とは違う流派の使い手です。私は治癒や遠距離といった完全な後衛ですが、妹は直接的な攻撃魔法が使えるので、中衛向きです。もちろんお二人にはどちらも習得していただきます」

悪魔のささやき降臨。

「そしてこちらは兄のレオノアです。私たちとは7才差で、同じく特級冒険者の経験から現在は騎士団長を務めています」

「す、すごいですね。兄妹揃って優秀とは・・・」

「あ、いえ。もう一人姉がいますよ。リエナといって、元特級冒険者ですね。今は国王秘書をしています」

「俺が言うのも何だが、きっとこれからもうちの一家に関わることになるだろうから、片隅にでも覚えておいてくれ」

覚えておくも何も、印象が濃すぎて忘れられない一家である。

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俳句好きの転生奇譚 戸塚 小夢(こゆ) @Koyu_minaraidesu

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