第44話

「気にするな明日香。あんなのキスの内に入らない」




水を飲ませてくれたあの熱い唇を思い出す。




ドキン……。




あれは光輝先輩だったんだ。




そうわかると、急に意識してしまう。




「付き合ってるのにキスもできないヤツがひがみか?」




「なんだとお前!」




喧嘩になりそうになる2人を慌てて止める青葉さん。




でもそんなのも私の耳には入ってこない。



心臓がドキドキとうるさくて、光輝先輩をまともに見れない。




あんなファーストキスなんて、本当は嫌。




もっと、ちゃんとしたキスがいい。




でも……。




だけどね?




恋愛野獣会の活躍を見たあとだから……嫌じゃないって、思えるんだよ。




私はまだ言い合いを続ける白夜先輩の手を掴んで、光輝先輩を見た。




「光輝先輩のばーかっ!」




そう言って、思いっきりベーッと舌を出す。


だけど、大好き。




みんな、大好きだよ。




「うわっ、明日香?」




白夜先輩をグイッと引っ張り、生徒会室を出る。




昼食時だから廊下には人が少ない。




「おい、どこ行くんだよ」




「ファーストキス、取られちゃったから」




「え?」




少し歩き、人影のない場所で立ち止まる。



「初めてじゃなくても……いい?」




我ながら、大胆な発言だと思う。




白夜先輩、珍しく赤面しちゃってるし。




でも、今したいって思ったんだ。




白夜先輩と、ちゃんとキスしたいって……。




白夜先輩の制服をギュッと掴んで、背伸びして……驚いて目を丸くする先輩の唇に、キスをした――。


☆☆☆


私たちがキスをした夜の事。




突然の嵐が訪れた。




「こんにちは、明日香ちゃん」




管理人さんが食堂に通したそいつが、ニヤリと微笑む。




自分の顔からサッと血の気が引いていくのがわかる。




家に来ていたヤクザだ――。




「どうして……」




「どうしたもこうしたもねぇよ。お前の親勝手に逃げちまうもんだからよぉコッチも困ってんだよ」




逃げた……?




お母さんとお父さんが!?



「少ぉしはえぇけど、お譲ちゃんに働いてもらうしかねぇみてぇだなぁ」




嘘!?




ガッチリとつかまれた腕。




「わ、私まだ18じゃないです!」




「まぁ気にすんなや。年齢くらいいくらでも誤魔化せるからよぉ」




ほら、行くぞ。




そう言ってグイッと引っ張られる。




すごい力で、引きずられるようにして食堂を出た。




「嫌だ! 離して!!」



本当に売られちゃう……!





必死で抵抗するけれど、ビクともしない。





私、まだキスしか経験してないの。




やっと色々な問題が片付いて、好きな人と一緒に暮らして行けるところなの。




なのに、こんなの嫌――!!




ジワリと涙が浮かんだ、その時……。




「おっさん。なにしてるの?」




そんな声が後方から聞こえてきて、ヤクザは足を止めた。




そして振り返ると――4人が余裕の笑顔を見せて立っていたんだ。



「なんだお前ら? ここの寮生か?」




「あれぇ? ボクたちのことしらないの?」




クスッと笑う優人先輩。




「じゃぁ、教えてあげた方がいいね」




そう言う、青葉先輩。




「ついでに、明日香を乱暴に扱った事を後悔させてやらなきゃな」




パキパキと指を鳴らす光輝先輩。




そして……。




「俺たちは、恋愛野獣会だ」




白夜先輩が最高の笑顔でそう言った――。



エピローグ


「あんなお金あったんだぁ」




「親の会社が倒産しても、ある程度の貯蓄はどこでもあるだろ。お前のところの借金はなくなったんだから、そのうち親も戻ってくるさ」




ヤクザがここへ訪れた日。




白夜先輩はありったけのお金を集めてきてくれたんだ。




『金ならいくらでもやる。だがな、明日香だけはぜってぇやらねぇ』




そう言ってくれたのを思い出すと、今でもキュンッと胸がなる。




そのお陰で、いまもこうして寮生活を続けられている私。




本当に、恋愛野獣会には守られてばっかりだ。




感謝しつつながらも、頬を染める私。




だって……だって……。



可愛い笑顔で『おいで』と白夜先輩がいうものだから、ついつい来ちゃったんだ。




ソファに座っている白夜先輩の膝の間に……。




真後ろから甘い香り。




時々後ろから手が伸びてきて、テーブルの上のリモコンをいじる。




ってことで、さっきから私の心臓はドキドキしっぱなしで……。




「ね、ねぇ」




「うん?」




「そろそろ横に座っていい?」




「なんで?」




「なんでって……」




心臓がもたないから。




なんて、いえないじゃん!



いいじゃんここにいれば」




「でも……」




「明日香、後ろ向いて」




「え?」




言われて、素直に首だけ動かす私。




そのふいをつかれて――チュッ。




小さなキスが降ってきた。




カッと赤くなり、すぐに前を向く私。




「ほら、そうやって前向くと、お互いの赤面顔見られなくていいだろ?」




なんて言って、白夜先輩は私をギュッと抱きしめたのだった。






END

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恋愛野獣会 西羽咲 花月 @katsuki03

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