竜と人の命

レオンと空中で対峙する。レオンの竜は竜の中でも稀な黄竜。黄金竜とも呼ばれ、ほかの竜より身体能力が高く2種のブレスが使えるとも言われている。いずれにせよ一切の油断は許されない。

「リオス。僕と決勝で剣を交えるなら君だと思っていたよ。他じゃ相手にならない」

肩をすくめるレオンの一挙一動を見逃さず神経を尖らせる。無言を貫く俺に対し、レオンがため息をついた。

「全く君はつまらない男だね。少しぐらい僕に付き合ってくれてもいいじゃないか」

「...生憎俺は」

レオンの戯言を終わらせようと口を開けばその瞬間レオンが斬りかかってきた。受け止めたが、重い一撃だ。本気で来ている。

「随分いい性格だな」

俺が喋り始め、少しだけ意識が逸れたタイミングを確実に狙ってきた。

「なんだい?試合中にお話してたから負けましたとでも言い訳するつもりだった?」

「なら貴様はお喋りして隙を狙ってまで負けましたと泣きつくんだな」

レオンの顔が少しだけ不快に歪んだが、すぐに先程と変わらぬ余裕の笑みを浮かべ直す。

「ほざいてなよ」

不意にレオンの竜が上昇を始めた。落下の危険もあるため、コロシアムの倍以上の高さでの試合は禁止されている。

ということはーー

不意に竜が宙返りし真っ直ぐ俺に向かって落ちてくる。

「ネフィ!」

ネフェレーは即座に大きく羽ばたき右に動く。だが、読んでいたようにレオンの竜も同じように動いてきた。

「どうする!?自分だけ避ける!?大事な竜と自分どちらを選ぶかな!?」

レオンは勝ち上がってきただけあって勿論実力がある。竜の降下の勢いとやつの本気の一撃を受ければ確実に剣が折れるだろう。だが、自身が身を逸らして避ければ剣が折れる程の一撃がネフェレーを裂く。不意にあの少女ならばどうするだろうと思った時俺はーー


飛んだ。


予想外の動きにレオンも目を見開いた。そんなレオンに飛びかかり、手綱を持っている手を踏みつけ、緩くする。そして自身の自重も使いレオンの襟首を掴み、黄竜から引きずり落とした。

二人揃って宙に放り出される。

「馬鹿か!!僕と共に自殺するつもりか!?」

「生憎俺にそんな趣味はない」

驚きのあまり状況の判断のついていないレオンの手を蹴りあげ、手から剣を落とす。俺は剣を持っていない手でレオンの腕を掴んだ。

「ネフィ!!」

地面に叩きつけられる寸前、ネフェレーの背が俺を受け止めた。翼の風圧が俺の下降の速度を和らげ、衝撃を緩和した。

「さすがだな。ネフェレー」

ネフェレーは明らかに怒りを露に吼えた。

「すまん...」

無茶をした自覚はある。ネフェレーに負担もかけたことを謝罪すれば、人間のようにはぁとため息がつかれた。全く...と呆れられているような気がした。

俺は腕を掴んでいるレオンを見下ろす。

レオンは地に足つかぬ状態のまま呆然としていた。

「剣を落とした以上俺の勝ちだな?」

「ばっ...」

「ば?」

「ばっっっっかじゃないの!?!?」

お綺麗な顔を全力でゆがめ、レオンが怒鳴る。

「試合で死ぬ気!?君の竜が間に合わなかったら僕も巻き添えで死んでたんだよ!?」

「間に合うと思ったからやったんだ」

「馬鹿なの!?可能性で言うなら君は僕の一撃を避け、竜に受けさせていればその後普通に立ち回れたでしょ!?」

「竜を傷付けて立ち回るのはそうしなければ生きれない時だけだ」

俺の言葉に汚いものでも見るようにレオンが顔を歪める。

「意味分かんない...。竜は僕達の何倍も頑丈で生命力が強いんだよ」

「知ってる。だからと言って傷付けていい理由にはならないだろう」

「...付き合ってらんない. ..」

レオンの竜がそっとレオンの足元に来たため、レオンの腕を離せば黄竜に股がった。

「こんな馬鹿に付き合ってたら命がいくつあっても足りないよ。僕の負けでいい」

レオンはそう言って両手を挙げて降参を示した。

「勝者!騎士リオス!!」

歓声と共に紙吹雪がコロシアムを包むように撒かれる。その様子を見てネフェレーは嬉しそうに尻尾を振った。

「お前のお陰で勝てたよネフェレー。ありがとう」

ネフェレーの首を撫でれば嬉しそうに喉を鳴らした。

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竜騎士と竜の世話人 日明 @nekonoesa

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