第164話  シンプソンダンジョン終息戦・西口③

「…シッ!」


 アトラは再びモンスターの群れに突っ込み斬り倒して行く。

 そして、その後方でも動きがあった。


「『ここからは高ランク探索者が主に前線に出る! Cランク以下の探索者は後方支援に徹するように!』」


 一度結界の外に退避した探索者たちも体制を立て直し再び前線へと復帰する。


「『階層ボスやレイドボスは彼女が主に引き受けてくれる! 我々は主に通常モンスターの掃討をする。だが、相手はS級ダンジョンの下層モンスターだ、最低でも七人一組で油断せず戦え! そして、もし階層ボスが来たら近くのグループと協力する様に。そこは臨機応変に対応してほしい』」


 総司令のテイラー総会長が全体に指示を出す。


「『それでは、かかれー!!』」

「「「「「『うぉーーー!!』」」」」」


 オセアニア州の国やその他の国の探索者たちも再び前線に上がり、戦いを始める。


「桐島会長。会長は日本部隊の頭なので、指示する係に徹して下さい」

「しかし佐藤。私はこんなんでもSSランクの探索者だぞ。戦力はあった方が良いだろう」

「会長が出るのは、非常事態の時だけにして下さい。それまでこちらで待機していて下さい」


 桐島は会長であると同時にSSランクの探索者でもある為、自分も前線に出ようとしたが、佐藤に止められる。

 しかし、ここにはもう一人前線に出るのを止められている者が居る。


「石井君。ここからは貴方は後方支援に徹しなさい」

「そうよ。少し戦えるからって、あなたは生産職なのよ。真白ちゃんじゃあるまいし」


 龍也も相良と麗花から前線に出る事を止められている。まあ当然だ。


「でも、会長の出番は無いかもしれませんよ」


 佐藤はそう言いながら遠くを見る。

 その視線の先には、次々とモンスターを屠っているアトラの姿があった。


「……そうかもしれんなぁ」


 桐島も戦うアトラを見て、自分の出番は無いと思った。


「結局、殆ど白岩さん頼りか……」

「仕方ないと思いますよ」

「佐藤。白岩さんはSSSランクで、我々とは次元の違う強さだ。けど、彼女はあれでも高校生なんだぞ」

「……………」

「ここ最近よく思うのだ。彼女と自分を比べると、どうしても自分が情けなくなる」

「落ち込んでも何も変わりませんよ。今は貴方に出来る事をして下さい。会長の気持ちはなんとなく分かりますが、生憎、私は探索者ではありませんので」

「探索者の殆どは力に関しては優越感や劣等感を抱くもんだ。佐藤、お前もあっただろう。探索者でも無いお前が優秀過ぎるあまり、その若さで副会長の地位まで出世したことで、周りの者達からの反発も凄かっただろ」


 佐藤は探索者協会の副会長だが、探索者ではない。

 しかし、優秀な頭脳と人当たりの良さや周りからの信頼も厚く、二十八という若さで副会長という地位にまで上り詰めた秀才だ。


「別に好きでなった訳ではありません。けど、今ではこの地位のお陰で色々と動きやすいのでなって良かったと思います。それに、反発してくる輩は大体裏で何かしてますので、ポンポンと叩けば埃が出て来ますよ」

「……そういう所が怖いんだ、お前は」


 佐藤は頭脳面なら下手したら真白以上かもしれないと桐島は思っている。その中でも特に怖いのが、自分に害意を持って接して来た者に対しての報復だ。

 ちなみに、真白に対しても同じ事を思っていたりする。

 真白は法に触れるギリギリの範囲で周りを巻き込み派手に相手を追い詰める。対して佐藤はバレずに影に隠れながら気づいた時には遅い所まで相手を追い詰める。

 真白は佐藤のことを接しやすい人と思っているのも、もしかしたらこういう所が似ているからかもしれない。


「会長。どうやら通常モンスターは殆ど片付いたみたいですよ。アトラさんが階層ボスの掃討に掛かりました」

「本当に私の出る幕が無いな」


 終盤に入り、戦いも終わりが見えてきた。

 重軽傷者は居るが、奇跡的に死者は一人も出ていない。これは、戦力を集中させたのと、アトラの存在が大きい。


「『!? 大変です! 異常なほどの魔力量の暴走を観測しました!』」

「『何! 場所は何処だ!!』」


 しかし、トラブルはまだまだ続く。


「『……シンプソンダンジョンの…深層からです。…氾濫場所は…西口です』」


 ドーーーーーーーーーン!!


「「「「「『!!!!!!』」」」」」


 観測者の報告が終わると同時に入り口から大きな音がした。


「『…おい。なんだよ、あのデカいモンスター』」

「『見た事ねえぞ』」

「『深層の階層ボスも居る』」

「あのデカいの…明らかに階層ボスじゃねえだろ」

「『も、もしかして……』」


 シンプソンダンジョンの最高到達階層は63階層だ。状態異常攻撃を持つ敵が多くて人気が無く、あまり攻略が進んでない。だから誰も知らない。


「『……深層レイドボス』」


 誰かがそう呟く。

 それは、この場に居る全員が思っただろう。未確認のレイドボスモンスター。しかも深層。情報も何も無い。


「『て、撤退ー! 撤退ー!』」

「『に、逃げろーーー!!』」

「『うわぁぁぁーーー!!』」


 もう戦場はパニックだった。

 突然の未確認モンスター、しかもレイドボスの登場に皆我先にと逃げる。


「ハァッ!」


 そんな中、アトラは果敢にモンスターを倒していく。

 けれど、それは攻めではなく、時間稼ぎの戦い方だった。


「もう少しで【時間魔法】のクールタイムも終わります。それまで耐えましょう」


 そろそろアトラも【時間魔法】が使える様になる。そしたらまた同じ様に高速移動でモンスターを倒せばまた形勢逆転出来る。


「私の後ろには一匹も通しません!」


 アトラは探索者たちが無事に結界の外に逃げられるよう前に出る。




 パリン! ————ドン!!!!



 だが、アトラが前に出る前に、突然結界が消えた。いや、破壊された。

 そして、同時にモンスターの群れの中に大きな砂埃を立てて何かが落ちた。

 

『ほうほう、深層の大部屋の主レイドボスか。しかも、この状態の我よりデカい竜とは』


 そして、姿がはっきり見える様になり、そこに居たのは、大きな巨人不滅巨人だった。

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史上最強の錬金術師のダンジョン探索‼︎〜生産職だけどバカにするな!〜 モノクロ・ノワール @eternily

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