第163話 シンプソンダンジョン終息戦・西口②
大量の下層のモンスターが溢れ出てきた。その中には階層ボスやレイドボスも居て、現場は大混乱だった。
「『退けー! 退けー!』」
「『一旦結界の外に出ろ! 体制を立て直すぞ!』」
「『後衛は攻撃でモンスターを牽制しろ! 前衛が結界の外に出るまでの時間を稼げ!』」
体制を立て直すため、大量の下層モンスターの群れから結界の外に退避する。
しかし、その中に一人…いや、一体? のメイドが逆に前線へと向かう。
「『え! メイド!? なんで!?』」
「『おい! ここは危険な場所なんだぞ! 分かってるのかアンタ!?』」
「『とりあえず、誰か彼女を止めろ!』」
周りの探索者達がメイド——アトラの事を止めに入ろうとする。
『『全探索者に継ぐ! 急いで結界の外へ退避せよ。尚、もし、メイドの姿をした女性を見たら彼女に道を譲るように。彼女は『白の錬金術師』のホムンクルスだ。我々が体制を立て直す為の時間稼ぎを引き受けてくれる。これは総司令からの厳命である!』』
すると、戦場全体に待機場の本部から放送が入る。
総司令からの厳命ということもあり、アトラの事を止める者はいなくなる。
しかし、それよりも効果があったのは、『白の錬金術師』のホムンクルスという説明だ。
真白の
そして、数分後、全ての探索者が結界の外に出た事を確認したアトラは戦闘準備する。
因みに、探索者達全員が結界の外まで退避するのを待ったのは、アトラのスキルは下手したら周りを巻き込む可能性があるからだ。真白曰く、アトラは実戦経験が無いから危ないとの事だ。
「きてください。『エレクトロンソード』」
そして、アトラは右手首に付けている真白がアトラに渡したバングル型の時空間袋から一本のロングソードを取り出した。
そして、アトラはその剣に魔力を通す。
すると、剣身部分の周りだけに青白い電気が放電し始めた。
「さて、マスターの命を実行しますか」
アトラは迫ってくるモンスターの群れを見ながら剣を構える。
「なるべく早く終わらせるよう言われておるので、最初から本気で行きます」
それから、アトラはモンスターを近くまで来るのを待ち、スキルを使う。
「……【時間魔法】、『クロックアップ・ワールド』」
その時、アトラの視界には全てのモンスターが止まった様に映る。
正確にはただ物凄くゆっくり動いているだけなのだが、それでも分からない程だ。それはまるで、時が遅くなった様な光景だ。
アトラはもうスピードでモンスターの群れに突っ込み、数万ものモンスターの群れを次々と斬り倒して行く。
ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!————
まるで日本刀で絹豆腐を切っているみたいだ。
それは、アトラの持つロングソード、『エレクトロンソード』には、電子を自在に操るスキル、【電子操作】が付与されているからだ。
アトラは今、剣に魔力を通し、剣身の周りに電子を放電させ、発生した電磁力で粒子を集めて超振動させているからだ。
【超振動】というスキルもあるが、それは、ただ物質を振動させるだけで、扱う者の力量次第では、【電子操作】の方が威力が有り、応用などが出来る。
————ザシュッ!
そして、時間にして一分、アトラは下層の通常モンスターを約八割斬り倒すと、再び時の流れが元に戻る。
「「「「「「「『ッ!?!?』」」」」」」」
今、ここに居る探索者やこれを配信で観ている者達ほぼ全員同じ事をを思っただろう。何が起きたと。
彼らが見たのは、アトラが剣を構えてスキルを発動したら、もう既に大量のモンスターが斬り刻まれた姿で倒されている光景だった。
先程、アトラの視界は時が遅くなった様だと言ったが、本当はただアトラが超々高速で動いて戦っただけである。
某平成仮面ライダーが敵と戦う時に使う物理法則を無視した高速移動と同じ様なものだ。
「『……う…嘘、だろ』」
「な、何が起きた……」
「『あの数のモンスターをどうやって……』」
この光景を見ている者達は目の前で起こったか事に頭の処理が追いついていない。
「……ふぅー……マスターの言う通り、かなり魔力を使いますね、【時間魔法】」
アトラの使う【時間魔法】は、時間の流れに干渉し、時を操る魔法である。
アトラが発動した【時間魔法】の『クロックアップ・ワールド』は、自分の動きや体感時間を加速させる魔法だ。
通常の時間軸をA軸とし、アトラの『クロックアップ・ワールド』の時間軸をB軸とすると、アトラはB軸では一分間の活動をしていたが、A軸ではたったの1/2000万秒しか経っていない。
B軸の1秒は1クロックであり、この場合のクロックとは、コンピューターのクロック周波数の事である。
詳しい説明は難しい為省くが、1クロックは1/12億秒である。
それはともかく、アトラの高速移動は時間軸に干渉したもので、普通のスキルでは無い。
しかし、時間に干渉するという、チート級のスキルだ。魔力消費は半端なくデカく、一度使うと数分は発動出来ない。
そして、アトラは今ので自身の最大魔力量の六割を消費した。剣に流した魔力も含めると、八割以上消費している。
「魔力の殆どを消費しましたが、私にはマスターから頂いたコレがあります」
そして、今度は左手首に付けている腕輪に魔力を少し流し、起動させる。
すると、腕輪が光出した。
しかし、それはたったの一瞬。時間にして0.5秒も経っていない。
だが、光が消えた瞬間に、魔力を殆ど使った筈のアトラの魔力が完全回復していた。
「……やはり、これは凄いアイテムです」
アトラが使った腕輪は『魔吸の腕輪』というアイテムで、真白が作った最高傑作アイテムの一つである。
その効果は、使用者の魔力を魔力が僅かでもある限り、何度でもフルに魔力回復が出来ると言う、魔法職にとって神器にも等しいくらいのチートアイテムだ。
真白はとある理由によって必要なくなった為、仕舞っていたのだが、アトラの持つ【時間魔法】の魔力消費を補う為にとアトラに渡したアイテムだ。
つまり、アトラは例え【時間魔法】で魔力を大量に消費しても、僅かでも魔力が残っていれば『魔吸の腕輪』で回復し、何度でも【時間魔法】を使える事になる。
反則級のチートだ。
「では、魔力も回復した事ですし。続きをやりましょう」
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