発光器

ばやし せいず

発光器


「もっと大きくなったらね」


 そうさとすと、俺の娘はスーパーの床に大の字になって泣き叫んだ。


「かってよおーっ!」


 四歳児が必死に懇願こんがんしているものはお菓子ではなく、ボイルされたホタルイカだ。パックにうじゃうじゃと詰め込まれた旬の海産物を買え、と言って号泣しているのだった。



 争いの結果、我が家の食卓にはホタルイカが並べられている。「最初から買ってやればよかったのに」とは言われたくない。娘は大の偏食家なのだ。目玉のとび出た宇宙人のようなこの食べ物を受け入れるはずがない。

 それに、この生き物は光るらしいではないか。名前に「ホタル」が付くとおり。なんとも奇妙だ。


 しかし意外や意外、娘は一口かじると「おいしい」と笑顔を見せた。そのまま一心不乱に、次々と口に運ぶ。

 ついに完食してしまった。


「すごいじゃないか!」


 久々にタンパク質を摂取せっしゅすることができた娘に感動しながらも思い出す。あるパパ友が嘆いていた。蜜柑みかんを食べすぎたせいで、彼の娘の肌が黄色くなってしまったのだと。


 日がかげり、室内も薄暗くなる。娘の体が青白い光で照らされていた。近付いてよく観察する。照らされているのではない。皮膚そのものが発光しているのだ。


「わたし、おおきくなったかな?」


 彼女が微笑む。

 光量が増した。



「発光器」 了

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発光器 ばやし せいず @bayashiseizu

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