第3話
第3話: 第三の心中未遂と即席バースデイパーティ
第3話の登場人物
【リサ】 自殺した妹から甥(ショウ)を託されたが、世話になっていた雇い主のDVから逃れるため浜に逃げて来た。ショウと無理心中しようと沖に向かうが、ジョージとサイモン、マモルに阻止される。
【ショウ】夭逝したジョージの弟と同じ六歳の男の子。浜で愉快なジョージとサイモンに出会ったことで、初めて男であることを自覚し次第に明るさを取り戻して行く。
第三の心中未遂
サイモンとジョージがキャンピングカーに戻ろうとしたとき、マモルが異常を知らせるように”ウフッ”と吠えた。マモルは海の方を見ている。サイモンとジョージはマモルの視線を追った。薄暗いし大分離れてはいるが、誰かが今まさに波打ち際を越えようとしているのが見えた。その刹那、二人と一匹は反射的にその影に向かって走り出していた。
近づくと、その影は女で、子供を抱いている。子供の声は聞こえない。
(死んでいるのか?)
嫌な予感が二人の頭を横切った。
「待ちなさい、やめるんだ!」
サイモンが全力で走りながら叫んだ。
「おい、戻れ!」
ジョージも怒鳴った。マモルも懸命に吠える。女は振り返ったが、またすぐに慌てるように深みへと急いだ。男二人の怒鳴り声と犬の吠える声、そして女の激しい動きと足にかかり始めた波の冷たさで、抱かれていた男の子が激しく泣き出した。
(良かった、子供は生きている)
ホッとした二人は、足を高く上げながらバシャバシャと海に入り、声をかけながら女を追った。二人にはやや遅れるものの、マモルも必死に泳いでついてくる。幸い二人は腰から少し下の深さで女に追いついた。ジョージが女の腕を掴んだのでサイモンは女から子供を奪った。男の子は激しく泣きながらサイモンにしがみついてきた。ジョージが先導するように女の手を引いて浜に向かった。
浜に上げられると女は地面に顔を押し付けるように泣き崩れた。男の子は女にしがみついている。サイモンもジョージも二人は親子だとしか思わなかった。
「子供は肺炎を起こしやすいから、早く着替えさせなさい!着替えはあるの?」
サイモンが強い口調でくと、女はかぶりを振った。
「とにかく車に入るんだ!」
そう言って、サイモンが再び男の子を抱いて急ぎ足でキャンピングカーに向かった。ジョージも女の片腕を取って引きずるようにサイモンに続いた。
キャンピングカーのキャビンに入った時は、男の子の泣き声は大分治まってきたが、相変わらずヒクヒクと泣いている。女はその子を慰めながら自分の体温で温めようとしっかり抱きしめている。サイモンは慌ただしく着替えを探した。ジョージも出された衣服を受け取り手際よくベッドに広げた。
「先ずこの子の着替えだ。濡れた服を脱がして、これで体を拭いて……」
と言ってバスタオルを投げた。
(この子の身体をこの二人に見せたくない)
女は一瞬躊躇した。
女がなかなか着替えを始めないので、サイモンは少しイラッとした口調で急かした。
「何も二人一緒に裸になれって言ってる訳じゃないんだから」
女もこの状況では着替えが先だと思い、バスタオルで男の子の身体を隠すようにぎこちなく衣服を脱がし始めた。女の手際の悪さに、サイモンはまたも、
「モタモタしないでさっさと脱がして、全部!」
今度はもっと強く言った。
その言葉に萎縮したのかリサの手からバスタオルが落ちた。その瞬間、サイモンには女がなぜ男の子の身体を隠そうとするのかが分かった。ジョージも男の子の皮膚の異常さに驚いた。
痩せた男の子の青白い身体には、遊びで出来たものではない痣が幾つもはっきりと見て取れた。どの痣もさほど日にちが経っていないようで、明らかについ最近まで虐待を受けていたと思わせるに十分なほど痛々しい。
「あんたがやったのか⁈」
サイモンが女を責めるような目で尋ねた。
「私じゃありません」
女は直ぐにハッキリ否定した。
「じゃあ、誰がこんなひどい事を?」
「私達が世話になっていた男性で、私が勤めていた動物病院の院長です。私もこの子もいつも暴力を受けていて、いよいよ身の危険を感じて何も持たずに逃げてきたんです……」
「見たところ痣だけで大きな傷はないようだが、骨折とかしてないよね?医者に診せたほうがいいんじゃないか?」
サイモンが心配そうに言った。
「骨折もないようですし、少し様子を見てみようかと……」
女は男の子を医者に診せると、DVを疑って警察に連絡するかも知れないと心配した。サイモンも当然それを察知した。
「分かった。今はそれだけ聞けばいい」
サイモンは遮った。
男の子の痩せた身体を見ていると、ジョージは幼くしてこの世を去ったたった一人の弟を思い出さずにはいられない。ジョージの弟もこの子の年くらいに先立った。病弱で貧乏で、何一つ楽しいことなどない短か過ぎる人生だった。同じように不憫な子供が今目の前にいる。
(こんな自分だが、この子を幸せにしてやれるかもしれない)
ジョージにそんな思いが込み上げてきた。
サイモンは続けて手当たり次第に衣類を取り出しベッドの上に放り出した。
「全部男物だけど我慢しなさい。その子には適当に被せてくれ」
と言った後、ダウンジャケットを女に手渡しながら言った。
「これは二人で羽織りなさい」
オレたちは一旦外に出るから、服を全部脱いで体を拭いてすぐに着替えるんだ」
そう言うと、乗り気じゃないジョージを押し出すように外へ出ようとドアに向かった。
「本当に申し訳ありません」
女が涙交じりに礼を言うのが聞こえ、サイモンは振り返らず手を挙げて応えた。
マモルは一瞬迷ったが、車に残った。
車外に押し出されたジョージは、サイモンにニヤニヤしながら、
「あの母親、すっごい美人じゃねぇ?」
三十半ばの美女が車の中で裸で体を拭いている姿を想像しているのか、妙に落ち着かない。
「そうか?よく見ていなかったからな」
「嘘つけ!オッさんも見とれていたじゃね~か」
ジョージはククッと笑った。
「バカ言え、こんな時にそんな余裕があるもんか」
サイモンは慌てて否定したが、確かに女の美貌には気付いていた。ジョージはまだサイモンの反応を上目遣いに窺っている。
「しかし、まさか同じ夜に三組も自殺願望者が鉢合わせするとはな。これ以上入水自殺者を引き留めると、もう着替えがないぞ」
(えっ、そこ?)
このオッさん、こんな時もジョークが言えるなんて、見上げたものだ、とジョージは感心した。
「ったく、俺の最後の晴れ舞台になるはずがオッさんに続いて親子まで……」
「そもそも、アンタがあんな所でお一人様パーティなんかしてないで先に海に消えていたら、こんな出来損ないのドラマなんて無かったんだよ」
「はあ〜?オレがモタモタしてたからってか?」
「とどのつまり、そういうことだな」
サイモンが笑った。ジョージは“コノヤロー”と言いたげな顔でサイモンを見返した。
「あの車で来たのかな、あの親子?」
ジョージが三十メートルほど離れたところに停めてある軽自動車を見て言った。
「そうらしいな……逃げてきたって言ったけど、さすがに自転車はないだろう、誰かさんじゃあるまいし」
再びサイモンがジョージをからかうように言うと、ジョージはこぶしを振り上げる真似をした。
サイモンが頃合いを見て車のドアを少し開け、
「そろそろいいかな?」
と中に声をかけた。
「あ、ハイ、もう終わりました」
女が詫びるように答えた。
車の中ではダブダブの男物のシャツを着た女と男の子がベッドの縁に座り、ダウンジャケットを二人で羽織り不安げに二人の男を見ている。サイモンは再び着替えを取り出し始めた。
「オレ達も着替えなきゃいけないので、チョット後ろを向いててもらえるかな」
サイモンが言うと、女は「あ、ハイ」と言って男の子を促して二人背を向けるようにベッドの上に正座した。それを待ってサイモンは、
「これでもう最後だ」
そう言って袋に入ったパンツをジョージに渡した。
「ワリいな、今度濡れたらフルチンでいいからさ」
ジョージがそう言うと女が少し笑ったような気配がした。
サイモンとジョージは手早く着替えをすますと、「もういいよ」とサイモンが女に優しく声をかけた。女と男の子はまたベッドの縁に座り直した。
大きなスエットシャツの襟が大きく開いているので、女の白い首や肩がセクシーに露出している。女物の下着は無いはずだから、スエットの下は……ジョージは情況を考えず女に見とれてしまった。
「ボクにはココアを作ってあげよう。体があったまるぞ……お母さんにはホットワインだ」
そう言うと、サイモンは卓上ガスコンロでお湯を沸かし始めた。続いてキャンプ用の小さなガスストーブをキャビネットから取り出し、アルミクッカーにボトルに残ったワインを入れ火をつけた。そしてスナック菓子やチョコレート、ドライフルーツなど腹の足しになりそうな物を取り出してはテーブルに並べた。
「さっきまでパーティやってたんで、食べる物は大して残っていないけど、よかったらどうぞ」
と言って手の平で促した。
「いろいろ申し訳ありません」
とは言ったものの、手を伸ばさない二人を見てジョージがチョコレートを取って男の子に差し出した。男の子は下を向いたままだが、それを受け取り、少しずつかじり始めた。
「うまいだろう?」
ジョージが聞くと、男の子は一瞬顔を上げはにかんで頷いた。すぐにまた目を伏せたが、床に寝そべる犬が気になるのか、チラチラとマモルを見ている。その視線に気付いたジョージが、
「そいつさぁ、マモルって言うんだ、よろしくな!」
男の子はまたコックリ頷いた。
「こいつオスだよ。ほら、おチンチンが付いてるだろう」
男の子は‘それ’を確かめて、
「ボクもおチンチン、あるよ」
男の子はニコッと笑って言った。それを聞いて女は驚いた。
(見知らぬ大人にそんな事を言うとは)
「そうか!おチンチン持っているのか!どれどれ……」
そう言ってジョージはいきなり男の子の股間を触った。その瞬間、女も男の子もビクッと体をこわばらせた。おそらく暴行を受けると思ったのだろう。しかし、ジョージはそれを優しく包むように軽くタッチすると、
「うん、立派なもんだ!」
と言って、男の子にハイタッチを求めた。これが男の子の生まれて初めてのハイタッチなので、遠慮がちに手を合わせた。
「もっと強く!」
ジョージに言われると、今度は大小の手の平が気持ちの良い音を立てた。男の子には"立派なおチンチン“という言葉が何を意味するのか分からないが、褒めてもらったのは間違いないと思い子供らしい素直な笑いを見せた。
(知らない大人の男性は苦手なはずなのに)
女は不思議に思った。
お湯が沸いたので、サイモンはスティックパックのココアをカップに溶かし、
「熱いから気を付けてね」
と言って男の子に手渡した。温まったワインもグラスに移し、女に勧めた。二人共飲み物を両手で持ち、心地良い湯気を顔に当てながらチビチビと飲み始めた。
クッカーには、まだ少しワインが残っているので、
「アンタも飲むか?」
ジョージにアルミクッカーを差し出して聞いた。
「おぅ、サンキュー!だけどなんでオレはグラスじゃないんだよ」
とは言ったものの、ジョージはサッサと口を付けた。
「野趣があっていいだろう、男はワイルドに行かなきゃ」
「何だ、ヤシュって?」
「ヤセイのオモムキ……つまり野性味ってことさ」
「うん、そうだな。オレもこのスタイルが好きだ。しかし、ホットワインってやつもいいもんだね、初めて飲んだけど。これもヤシュのせいかな?」
ジョージがクッカーを眺めながら言った。
「この車で暮らすこと自体が野趣だからな」
そうサイモンが言うと、ジョージが得たり顏で大きく頷いた。
(この車はもうオレんだからな、ゼッタイ返さないぞ)
即席バースデイパーティ
ワインを飲みながら男二人の話を聞いていた女が、
「あのう……、さっきパーティをされていたとおっしゃってましたが、私達お邪魔して申し訳ありません」
と言って頭を下げた。
「いやいや、大したパーティじゃないんで」
サイモンがそう言うと、ジョージはムッとした顔をサイモンに向けた。サイモンはにやりと笑って、
「今日はこの人の誕生日だって聞いたもんだから、ありあわせの物だけで祝っていたんだ」
「えっ、そうなんですか?実はこの子も一昨日が誕生日だったんですよ。でも何もしてやれなくて……」
そう言って女は申し訳なさそうに男の子の頭を撫でた。
「そうか、それじゃあもう一度二人まとめて誕生パーティだ!もう材料が大して残っていないけどな」
サイモンが手を揉みながら男の子を覗き込むように言った。女は目を潤ませて、
「おじさん達がお誕生日のパーティしてくれるって、良かったわね、翔!」
「そうか、ショウ君ていうのか……ショウ君は幾つになったのかな?」
サイモンが優しく聞いた。
「ろくさい……」
男の子は下を向いたまま小さく答えた。
「そうか、六歳か。もう立派な男だな!」
ジョージにそう言われて、ショウにさっきおチンチンを褒められた時のような嬉しさが込み上げてきた。ショウはジョージが話しかける時には顔を上げ、遠慮がちに笑顔を見せるようになっている。
サイモンがパーティの準備に取りかかった。
「オレも手伝うよ」
とジョージも動き始めた。二人の背後に「私も何かお手伝いをします」と女が声をかけた。
「今はショウくんの側にいて、体を温めてあげてよ……、そう言えば、まだ名前聞いてなかったね」
サイモンが女に背を向けたまま聞いた。
「あっ、すみません……私、岩淵リサです」
「私はサイモン、こっちのお兄さんはジョージ。よろしく!」
サイモンが前を見たまま言い、ジョージはリサを振り返って(よろしく)という風に手の平を向けた。
「あなた達、この先に停めてある車で来たの?」
サイモンがリサに聞いた。
「ええ、会社の車で来ました……」
リサは少し言いづらそうに答えた。サイモンもジョージも、男の子の無数の痣や無理心中にまで追い込まれたリサの様子から、その車で必死に逃げて来たに違いないと確信したが、二人とも今は詳しく聞かないことにした。
「こいつが気が付かなかったら、あんたらは今頃サメに食われてるよ」
サイモンはマモルを顔で示して淡々と言った。そう言われると、確かに今こうして二人で生きていることもまた運命なのか、とリサは思った。
ショウは疲れが出たのか夢の入り口をさまよっている。リサは自分達が置かれている状況に戸惑い、これから一体どうなるのか、逃げ続けるか、それとも別の場所で……、考えようとしても頭は混乱するばかりである。
やがてテーブルにホットケーキミックスで作ったスポンジケーキ風の土台に、缶詰のミックスフルーツをのせ上からチョコレートシロップやジャム類をかけた即席のバースデーケーキが置かれた。炭酸飲料の入った紙コップも並んだ。ケーキの周囲はキャンプ用の蝋燭が六個並べてある。リサは感激して、ウトウトしているショウを揺すって、
「ほら、お誕生日のケーキが出来たわよ、見て!」
と言ってケーキを指差した。ショウのとろんとした目が大きく開き、満面の笑みでリサを見た。
(こんな笑顔は久しく見なかったわ)
リサはそれだけで胸が一杯になった。
サイモンがマッチで蝋燭に火を着けると、ショウの顔が赤く照らされた。準備が整ったところで、サイモンがキャビネットからウクレレを取り出し、弾きながらハッピーバースデーを歌い始めた。ジョージとリサも歌いながら手拍子をした。歌が終わるとジョージは拗ねたように言った。
「なんでオレん時はコレ、やってくんなかったんだよ!」
「男二人じゃムードが出ないからな、ハハ!」
ジョージは(フン)という顔をしたが、
(なかなか上手じゃん)
とも思った。
サイモンが思い出したようにキャビネットからゴープロを取った。
「何だ、そのおもちゃのカメラみたいなのは?」
ジョージが聞いた。
「ゴープロって言うんだ。小型のビデオカメラさ。ちっちゃくても高画質なビデオが撮れるんだ」
そう言うと、サイモンはゴープロを構え、
「さあ、目を閉じて願い事をして、それからロウソクを消しなさい」
とショウに促した。ショウは数秒目を閉じた後、一気に蝋燭の火を吹き消した。拍手が起き、それにつられてマモルも(ウォフ!)と吠えて盛り上げてくれた。
自殺未遂者四人の何とも奇妙な誕生パーティだが、それぞれが満ち足りた顔をしている。ショウはもう目を伏せようとはしない。大人達もショウの笑顔がどんどん大きくなっていくのを感じていた。
ケーキが切られ、まず先にショウに配られた。
「ちゃんとしたケーキじゃないけど、ガマンしろよな」
サイモンが申し訳なさそうにショウに言った。
「とんでもない、こんなにしていただいて……」
リサは詫びるだけで精一杯である。
「さあ、いただきなさい」
リサはそう言って、紙皿をショウの方へ滑らせた。
(うん)の答えとほぼ同時にプラスチックのフォークの先がケーキに届いた。大人三人は自分の子供を見るような眼で、ショウがケーキを頬張るのを嬉しそうに見守った。
「どうだ?」「おいしいだろう!」
サイモンとジョージの言葉が重なった。
ショウはケーキを食べながら何度も頷き、
「こんなにおいしいの、ぼく初めてだよ!」
心底満足そうに答えた。それがお世辞ではないことをリサは知っている。普段からちゃんとしたケーキなどあまり食べさせていなかったからだ。
「悪いね、アンタの歳の分のロウソクはないから省略させて貰うよ」
サイモンはケーキの二切れ目をジョージに差し出しながら言った。
「へっ、ガキじゃあるまいし、そんなモン気にしね〜よ!」
ショウと競うようにケーキを食べながらジョージが面倒くさそうに答えた。
三切れ目はリサに勧め、サイモンは最後の一切れを自分の前に置いたが、さらにそれを半分に分けてショウの紙皿に乗せた。ジョージも空になったショウの紙コップに飲み物を足した。そんな二人の気遣いがリサには嬉しかった。
サイモンはずっとゴープロで撮影をしているので、ジョージとショウは小さなビデオカメラに興味津々である。二人にゴープロが向けられると、嬉しそうに身体をくっつけてポーズを決めたりしている。しかし、リサだけがカメラを避けているのにサイモンは気になった。
「撮影したのはどうやって見るんだ?」
ジョージがワクワク顔で尋ねた。サイモンはタブレットを操作して、動画の再生が始まるとジョージに渡した。
「オッ、見ろよ!オレ達映ってんぞ!良く撮れてんな、これ、おもしれ~な!」
ジョージとショウが肩をぶつけ合いながら嬉しそうに映像に見入っている。
「これも貰えるんだよな?」
タブレットを振ってジョージが念を押した。
「iPadか、全部やるって言ったら全部だよ」
サイモンが即答するとジョージの頬がまた大きく緩んだ。
(アイパッド?おかしな名前だな。アイは目、パッドは……パッドだな。目のパッドって言ったら眼帯じゃね~か?イミ分からん)
ジョージはこれ以上自分の無知を喧伝することは辞めようと思い始めていたので、聞くのを思いとどまった。
「この“ごぷろ”ってやつも、貰っていいんだな?」
ジョージが念を押すように言った。
「だから、いちいち確かめるのはやめろよ。だけど一台しかないから時々オレにも使わせてくれ」
「当たり前だろう、オレはそんなしみったれじゃね~よ!」
そう言うなり、ジョージはサイモンの手からゴープロを掠め取った。
「ここを押すのか?」
ジョージが丸いボタンを指差して聞いた。
「ああ、もう一度押すと一時停止だ」
それを聞くや否や、ジョージはショウを抱き寄せ自撮りを始めた。ショウは大喜びで色々な表情を作り小さい指でVサインを出す。カメラはサイモンにも向けられ、続いて車内をぐるっと巡った。リサはまたもレンズが自分を向き始めた時、なるべく不自然に見えないように顔を斜め下に向けた。それに気付いたサイモンがジョージに目で合図した。
クシャクシャ髪で化粧っ気なしの顔を撮られるのが嫌だからだけではないのだろう。サイモンはリサに同情した。ジョージも空気を読んで撮影を止め、ゴープロを置いた。それを見て安心したのか、リサは元の笑顔に戻り、楽しいパーティに戻った。
床に伏せているマモルは、ホロ酔い気味である。
(こいつら自分達だけでまた何か旨そうなモノを喰ってやがる。ヒーローのオレを無視しやがって)
そう言わんばかりに賑やかに盛り上がる四人を恨めしそうに眺めている。
大人三人はしばらく静かに床に伏せているマモルの存在を忘れていたが、動物好きのショウだけは、ずっと三本足の犬が気になっていた。見知らぬ男二人の前で、子供ながら感情を抑えていたのだ。しかしケーキを多めに貰ったので、少し残して紙皿のままマモルへ持って行った。マモルが大喜びでケーキを食べ始めると、ショウは恐る恐るマモルの頭を撫でた。
リサは古い友人のように振舞う男二人に笑顔は見せながらも、インテリそうな中年と、ボサボサ頭に煤けた顔と無精髭、垢の詰まった爪を持つ若い男の組み合わせに戸惑っていた。普通ではコンビになりようがない真逆の二人なのだ。リサは思い切って聞くことにした。
「あのう……、お二人はご一緒にこの車で旅行とかされてるんですか?」
この質問に男二人は戸惑いを見せ、顔を見合わせて笑いあった。
「いや、この人とはさっき浜で会ったばかりなんだ。見ての通り、路上生活者だそうだ」
「路上生活者は当たっているけど、見ての通りは余計だろうが!」
ジョージの目が怒っているが、語気は強くない。
「オレとこのオッさん、そもそも接点なんてある訳ないんだから……このオッさんさ~、こう見えてもすっげ〜インテリなんだぜ。アメリカの大学院を出て“エヌ・ビー・シー”とか持ってるし」
そう聞いてサイモンは‘またかよ’と呆れ顔でジョージを見て
「NBCはアメリカのテレビ局だよ!それより、こう見えてもって、どういう意味だ?さっきのお返しか?」
二人の掛け合いにリサがクスッと笑って、
「それって、MBAじゃないですか?」
と口を挟んだ。
「何だ、知ってんのか。とにかく、インテリのオッさんと中卒の住所不定無職、そもそも接点がある訳ないだろう」
「でも、なかなかいいコンビじゃないですか」
リサは思った通りを口にした。
「冗談じゃない、合わせてやってるだけさ」
ジョージはうそぶいた。サイモンは黙って呆れ笑いをしている。
「じゃ、この車はサイモンさんのですか?」
「そうだったんだけど、さっきこの人にあげたんだ。今は彼の車だよ」
サイモンに言われて、リサはジョージに目をやるとジョージは、
「そっ、オレのもの」
と誇らしげに言った。
「聞いたよね、今の?本人が言ってるんだから誰かに聞かれたらちゃんと証人になってよね」
「えっ、あ、はい……」
(何なの、この人たち?)
リサはますます分からなくなった。キャンピングカーに詳しくなくても、数百万の価値がある事は容易に分かる。そんな高価な物を会ったばかりの見知らぬ人に、それも路上生活者に気前良くあげるなんてフツーじゃない。この若い男もきっと“そうかい、悪いね”とでも言って、あっさり貰ったのかもしれない。そんな二人がよりによってこの浜で鉢合わせ?リサの好奇心は大いにくすぐられた。
大人の会話について行けないショウはさっきからずっとチラチラとルフィーの海賊旗を見ている。そのショウの視線に気付いたサイモンが思い出したように、
「そうだ、誕生日にはプレゼントがなくちゃな」
そう言いながら立ち上がり、海賊旗を持って来てショウに差し出した。
ショウは突然の事に笑顔も作れないほど驚き、目を輝かせて、
「これ、もらっていいの?」
と確かめるように聞いた。
「そうだよ、これからショウくんのものだよ」
「ありがとう!」
ショウは目を輝かせて大判のルフィの海賊旗を目の前に広げた。サイモンがその旗を取ってショウの後ろに回り、肩に掛けて両端を前で結んであげた。リサはショウがワンピースを好きなのは知っていたが、これまで特に話題にすることはなかった。それだけに、ショウの喜びようはこれまで見た事もない程だった。
ショウの満面の笑みを見て、ジョージが負けじとばかりマモルを指差しショウに言った。
「こいつはオレからのプレゼント!」
ショウは信じられないといったふうに、両手で口を押さえるように驚いて許可を求めるようリサを見た。リサはもうこれ以上この子の楽しみを奪ってはいけないと自分に言い聞かせた。
「よかったわね、ちゃんとちゃんと世話するのよ!さあ、お礼を言いなさい」
「ありがとう!(少し迷って)お兄ちゃん」
とジョージに言った。サイモンよりジョージの方がずっと若いのが分かるので、ショウは子供なりに考えて“おにいちゃん”と呼ぶことにしたのだ。
サイモンがバンダナを取って来てマモルの首に巻いた。それだけでマモルがグッと引き立ったし、マモル自身もどこか得意げである。
「ねえ、お兄ちゃん、どうしてマモルの前足が一本ないの?」
ショウが遠慮がちに小声でジョージに聞いた。
「うーん、多分車に轢かれたんだろうな」
「かわいそうだね……」
自分が味わった怖さや痛さを思い出したように、ショウは同情の眼差しで手を前に伸ばし,「おいで」とマモルに呼びかけた。マモルは相手がニンゲンの子供なので、恐怖感を与えないようにゆっくりと頭を低くして男の子に近づき、甘えるように鼻を押し付けて体の匂いを嗅ぎ回った。ショウの喜びようは尋常ではなく、マモルはニンゲンの子供というものがいっぺんに好きになった。
マモルは、これまでニンゲンの子供とはほとんど触れ合う機会はなかった。前足が一本欠けた野良犬には、親達は絶対に子供達を近づけようとはしない。マモルを知らないよそ者の大人達でさえ彼には近付こうとはしないし、中には石を投げたり棒切れで追い払ったりする者さえいる。
この小さい男の子は何のためらいもなくマモルを優しくなでている。これまでにも海に消えたニンゲン達は、マモルの頭をなでたり抱きしめてくれた者がいた。しかしそれは追い詰められたニンゲンの感情がそうさせたのをマモルは分かっていた。この子は彼らと違い、初めから素直に愛情を向けてくれる事に感動していた。
大きいニンゲン達は皆この子を大事にしているようだ、とマモルは感じ取った。
(こっちの臭い男よりこの坊やと一緒にいる方が、この先もっといいことがありそうだな……)
マモルは可愛い坊やとバディになると決めた。
女がずっと何かに怯えている事も、マモルは野生の勘で感じ取っていた。
(ニンゲンの死体を護るのはもう止めだ。これからは何かに怯えているキミたちを守ってあげるよ!)
マモルはそう決意した。
(ノラ公め、オレよりこの子の方が気に入ったみたいだな)
ジョージは少し裏切られた気になったが、男の子の喜びように勝てるはずもなく、
「オレ達一緒に世話しような!」
と言ってショウの肩を抱いた。
「この子はずっと犬を飼いたがっていたんです。私は都内の動物病院兼ペットショップで働いていて、この子は時々店に来て気の済むまで動物達を見ていました。でも、アパートじゃ犬は飼えないし、私は仕事があってとても世話は無理なので……」
リサはそう言って少しづつ自然な形で自分達の背景に触れ始めた。
このうす汚れた三本足の野良犬をショウが飼うことになれば、すぐにでもシャンプーとトリミングをして清潔にしなければならない、とリサは考えた。また、見掛けより優しい若い男へのお礼として、自分で刈ったに違いない不揃いのボサボサ髪もついでにカットしてあげてもいいかな、とも思った。
無理心中未遂という状況下で、素性を知らぬ男二人が演出してくれた誕生パーティ。そしてショウの心を掴んだ、たまたま二人が思い付いただけのプレゼント。六歳の男の子を少年に変身させる魔法の海賊旗、そして自分達を救ってくれたハンディキャップのある犬。ここまでショウを歓喜させた事はかつてなかった。
(自分はこれまでこの子に何をしてあげたのだろう?)
二人で命を絶つ選択しか出来なかった自分を女は悔んだ。
「ゴメンね、ショウ。私、何もプレゼントできなくて……」
女はいつ泣き出しても不思議ではなかった。
「ボク、何もいらないよ!でも……」
ショウが俯きながら言った。
「でも、何?言ってみて」
女はショウの顔を覗き込むように催促した。
「オバちゃんじゃなくて……ボクのお母さんになって」
この一言で、抑え続けてきたリサの感情が解き放され、涙が堰を切ったように溢れ出した。リサの嗚咽が止まらない。
(でも、ホントに私でいいの?ついさっきはあなたを殺そうとしたのよ、それなのに母親だなんて……)
やっとの思いでリサはショウを強く抱き寄せ何度も大きく頷いた。
やっと二人の関係を知ったサイモンとジョージは、目の前の感動劇に言葉を挟むことができなかった。今はただ“母親”の感情の収まりと、彼女が現状を整理するまで待つことにした。
たった今、しかもこの状況で“親子”になったばかりの二人を見ていると、サイモンは自分のこれからの使命が見つかったと思った。
ジョージにはもう一度社会復帰してもらいたい。そしてこの素晴らしい親子には二度と辛い思いをさせたくないし、この先ずっと幸せな親子のままでいさせたい。
一方のジョージも、死んだ弟の生まれ変わりと思い始めたショウに、この世に生まれたことの幸せをこの先何度も噛みしめてほしいと思った。
(このオッさんとオレ、そしてこの親子、マモルに救われた自殺未遂者四人が、この浜でもう一度やり直せば案外楽しい人生になりそうだな)
ジョージのそんな思いはもう決心に近いものだった。
一番大きなプレゼントを貰ったのはリサだった。妹に託されたこの子と生きること以上に大事な事はないと自分に言い聞かせると
ショウの頭を自分の胸に優しく押し付けて決意を新たにした。
車内はしばらく沈黙が支配した。サイモンもジョージも、話しかけるきっかけが掴めない。その時、思いがけない言葉がショウから飛び出した。
「オッさん!」
サイモンもジョージも一瞬(エッ)という顔をしたがすぐに笑い出した。
「オッさんなんて言っちゃだめよ、失礼でしょう」
リサが慌ててショウの両肩を抱きながら言った。
「そっか、オレがさっきからオッさんって言ってるんで、この人の名前だと思ったんだな。この人の名前はサイモンだよ」
「じゃ、サイモンのオッさん」
「いや、オッさんはつけなくていいんだよ」
ジョージが笑って言った。
「それじゃ、ねえサイモン」
「何かな?」
サイモンは優しく聞いた。
「何かほかの歌もやって」
「そうだよな、一曲だけじゃ盛り上がりに欠けるからな」
ジョージも合わせた。
「下手くそだしレパートリーも少ないが……、定番のアロハ・オエでもやるか、ショウのために」
そう言ってサイモンはウクレレを構えて弾き始めた。
潮騒が車内まで聞こえ、ハワイアンと見事なハーモニーを醸し出した。特に美声でも演奏が上手い訳でもないが、しっかりハワイ語で歌った。リサはうっとりとした笑顔で耳を傾け、ショウは興奮気味である。マモルも頭を傾げながら聞いている。しかし、ジョージだけが俯いていた。聞き入っている風でもない。曲が終わりに近付くと、ジョージが鼻を啜った。サイモンとリサが怪訝そうにジョージを見た。
「なに、弟のことを思い出しちゃったんだよ、アイツがハーモニカでこれを弾こうと頑張っててな……」
そう言ってジョージが鼻をしごいた。
「そうだったのか。じゃ、ショウにも弾けるようになってもらおう、な、ショウ!」
サイモンに言われてショウは大きく頷いた。
ショウの目がウクレレを見つめている。
「弾いてみるか?ほら」
サイモンがウクレレをショウに手渡した。ショウは大喜びで何も知らぬまま弾いてみた。勿論雑音しか出ない。
「気に入ったら、これから少しずつ教えてやるよ」
「うん!」
ショウは笑顔でウクレレを差し出した。サイモンが受け取ろうと手を伸ばすと、先にジョージが手を出しウクレレをひったくった。ジョージも興味津々である。ポロロンと弾いてみたがやはり雑音しか出ない。
「よ~、オレにも教えてくれよ」
「そりゃ構わないが、途中で飽きるかもな。子供と違ってオトナは覚えが悪いから」
サイモンはニヤリとした。
「へっ、オッさんのレベルにならすぐに追いつくさ」
そう言ってジョージはウクレレをサイモンに返した。
「そりゃ楽しみだ。そのうちコンサートでもやってくれ」
サイモンはそう言うとリサと一緒に笑った。
‘おかあさん’という大きなプレゼントに抱かれているショウの目はだんだんと焦点が合わなくなってきた。その目は子供らしい無邪気な幸福感を見事に映し出していた。
何も分からぬまま叔母と一緒にこの浜に逃げて来て、無理心中の恐怖から解放され、子供には理解できない展開のまま、おもちゃ箱のような車の中で知らない大人達に誕生日を祝ってもらった。ワンピースの仲間になれたし、優しい眼をした新しい遊び相手が足元で寝ている。僅か六歳のショウには、今このキャンピングカーの中で次から次へと起きていることは、まるで手品か魔法みたいとしか思えなかった。
突然現れた愉快なおじさんたち。ずっとほしかった犬。しかし、何よりも嬉しいのは、これまで母同然だった人を、ちゃんと‘おかあさん’と呼べるようになった事だ。
もちろん二人の関係はこれまでと何も変わらない。ただ、この“おかあさん”を護るのは自分しかいない、という男としての責任感がショウに芽生えた。ジョージがショウのおチンチンを押さえた時に、ショウの男スイッチが入ったのかも知れない。そんな健気なショウも、ついに寝落ちした。
子供の存在を気にしなくてもいいようになった時、サイモンが口を開いた。
「オレはあなたが許せない」
一転して厳しい表情である。その一言に、リサは自分の行動の異常さに引き戻され、再び涙が溢れて来た。でも今はどんな非難でも受け入れる覚悟はできている。
「あなたは大人だから自分で命を絶とうと勝手だが、この子の生きる権利を奪う事は絶対に許されない。どんな事情があろうと、無理心中は殺人行為なんだよ。あなたは……この子を殺そうとしたんだよ!」
少し間を置いてサイモンは続けた。
「この子を道連れに入水しても、二人とも死ねる保証はない。もし、あなただけ助かったとしたら、この子を殺した罪の意識に一生苛まれる事になる。逆にこの子だけが助かったら、自分を殺そうとしたあなたのことを恨み続ける事だろうね……」
確かにその通りだ。妹はショウを道連れにすることも出来た。しかし、妹は自分がショウを護ってくれると信じて子供の将来を託したのだ。サイモンの言っている事が身につまされる。リサは自分の取った行動に再び愕然とした。
「今六歳ということは、来年から小学校でしょう。あなたはこの子の入学式を見たくないのか?子供が小学校に入れるのをどんなに楽しみにしているか考えたことがあるの?亡くなった妹さんだってどんなに……」
リサが肩を震わせて嗚咽しているのを見て、サイモンは途中で言葉を切った。黙って聞いていたジョージが、珍しく落ち着いた口調でリサに話しかけた。
「この子はな、奇跡の塊なんだよ、分かるかい?……猫や犬ではなく人間として生まれたんだ。地球上の数え切れない生き物の中で、最も高等な人間として生を受けた事が奇跡でなくて一体なんだって言うんだ?」
しばらく前にサイモンがジョージに言ったことを、今では自分の信念として、多少アレンジして言い聞かせている。
(こいつ、中卒を自虐ネタにしているけど、それほどバカじゃないな)
サイモンはジョージを見直した。
「この子が小学校に入ったら、すぐに好きな女の子ができたり、クラスの人気者になったり、勉強や運動で優等生になれるかも知れない。中学生になったら初恋もするだろう。高校生になったら彼女ができるかも知れない。それなのにあんたは、この子が学校に入るという最大の楽しみを勝手に壊そうとした。
オレ達たった今出会ったばかりだけど、この子……とてもいい子じゃないか。明るく優しく、利発そうだし。……あんたはついさっきこの子の母親になったばかりじゃないか。母親だったら、これからは“とってもいい子ですよ!”って自慢したらどうだい?」
リサはうなだれて、しきりにタオルで涙を拭いている。
「この子が将来、宇宙に行ったり、ノーベル賞を貰ったり、学者や芸術家や政治家になったり、タレントやスポーツ選手になったり、え〜と、人気ユーチューバーに……」
ジョージは畳みかけるように続けた。
「もうその辺でいいから……」
そこでやっとサイモンが遮った。
(ユーチューブなんて見てないのに、ユーチューバー知っているのか?)
「とにかく、この子の無限の可能性を否定する権利はあんたにはないんだよ!」
ジョージのダメ押しである。
リサが何度も頷きながら涙を拭くので、ジョージもサイモンももう十分だと悟った。
リサは今、自分に身を委ねて寝息を立てている‘我が子’に詫びる事しか出来ない。この先長いショウの人生を自分の一存で葬ろうとした。
(でも、これから一体どうすればいいの?もう少しこの人達に甘えてもいいのかな?)
リサにはもう自分達だけで生きていけるとは思えなかった。
警ら中のブチョーとジュンSirがパトカーで浜に戻って来た。
「あれ、灯りがついてますよ。それに、車が一台増えていますね」
ジュンSir が言うと、ブチョーが停めろと手で指示した。二人はパトカーから降りると小さいほうの車に近付いた。品川ナンバーの軽である。人が乗っていないのは、月明かりでも分かった。ジュンSir が車内をライトで照らしながら中を覗き込んだ。
「キーは指しっぱなしですね。運転席にはハンドバッグが。ドアもロックされてないようだし、中を調べてみますか?」
「止めとこう。持ち主に知れたら厄介なだけだ。戻ってくれば、の話だけどな」
「やっぱし、アレですかね?」
ジュンSirはそう言って何かを探すように浜に目をやった。
「浜には誰もいませんね」
潮騒に交じってキャンピングカーから微かに笑い声が聞こえてくる。
「とにかく、キャンピングカーに行ってみよう」
そう言ってブチョーが歩き出したのでジュンSirも従った。
ショウの足元に伏せていたマモルが、何かに気付いて上体を起こした。それを見たサイモンが冗談を言った。
「また誰か海に入ろうとしてんじゃないだろうな?もうこれ以上は収容できないぞ」
そう言ってサイモンは軽く笑った。しかしマモルは警戒の唸り声を出さず、嬉しそうに尻尾を振りながらドアの方へいった。
サイモンがドアに近付いて窓から外を覗くと、制服警官が二人立っているのが見えたのでためらうことなくドアを開けた。
「こんばんは、ちょっと宜しいでしょうか?」
ブチョーが聞いた。
「はい、何でしょう?ささやかなパーティをやってるんですが……、中を見ていただいてもかまいませんよ」
「では、ちょっと失礼します」
そう断って、警官達は車に乗り込んだ。
マモルはいつも餌をくれる二人を尻尾を振って迎えた。
「お前もここにいたのか」
ジュンSirがマモルの頭を撫でた。
キャビンに入った警官二人は素早く車内を観察した。ジュンSirは浜で会った路上生活者もいるのを見て、
「あ、先程はどうも」
と声をかけた。
ジョージは手を上げて応じ、
「さっきのナントカ巡査部長とダレソレ巡査だよね」
と不愛想に言った。
ブチョーもジュンSirも職質では階級は言わなかったが、ジョージは年配警官を年齢的に巡査部長と呼んだ。
インテリ中年のサイモンはさすがに落ち着いて対応している。ジョージには浜での遣り取りの続きに過ぎない。二人ともまだ死体になっていないので、今のところ誰にも迷惑をかけていないし、警察に追求されるネタもない。しかし、不安げなリサとショウを庇ってあげたいと思う気持ちは同じだった。
「で、今日は何のパーティですか?」
ブチョーが聞いた。
「誕生パーティですよ。この青年とそこで寝ているボーヤの。でももうお開きですがね。ああ、まだ少しワインが残っているけど、一杯ずつどうですか?」
勤務中の警官が断ることを知りながら勧めた。
「それはどうも……、でも勤務中なんで」
(ふん、わざとらしい)
ジュンSirはサイモンの申し出に口元で微かに笑った。
「この車はご主人のですか?」
ブチョーがサイモンに聞いた。
警官の‘ご主人’というお役所用語が、サイモンは昔から気に入らない。
「そうですよ、車検証をお見せますか?」
サイモンが丁寧ながらも`あなた達、少しも歓迎されていないんだからね‘とのメッセージを込めて言った。ジョージは、サイモンが今のオーナーはオレだと言わなかったのをさすがだと思った。それを言ったら説明するのが面倒なだけだ。
「すみませんね。お手数ですが、一応確認させてもらいます」
ブチョーもマニュアル通りの丁寧さで言った。
サイモンが運転席から車検証を手に戻って来るまで、二人の警官はジョージと親子の観察に手を抜かなかった。
サイモンから免許証を添えて渡された車検証を見ながらブチョーは、
「ニシモンさん、ですか」
と聞いた。
「それ、サイモンと読むんだよ」
ジョージがサイモンに代わって答えた。自分とサイモンの近さを強調したい気持ちがそうさせたのだ。
(けっ、この若い男はムラカミハルキ、こっちのキャンピングカーのオーナーはサイモンか。名前はポールだったりして、ククッ)
ジュンSirは思わずニタッとした。
「どうもありがとうございます」
確認が済むと、ブチョーは軽く頭を下げて免許証と車検証をサイモンに返すと、今度はリサに聞いた。
「外の軽自動車は奥さんのですか?」
軽自動車がこの車から距離を置いて停めてあるのに不自然さを感じていたので、ブチョーは突っ込んできた。リサはドキッとして、
「あ、ハイ……」
と小さな声で答えた。
(私、’オクサン’じゃないんですけど)
いつもならそう言い返すのだが、今はそんなゆとりはない。
“事件”の直後に会社の車で逃げて来たので、今頃は盗難車として手配されているのでは、と心配になったのだ。リサの心臓はさっきからバクバクしている。
「こっちのお子さんと一緒に?」
すっかり寝入っているショウを見てブチョーが質問を続ける。
ここでサイモンが助け舟を出した。
「私がここに呼んだんですよ。私の妹とその息子」
リサはホッとすると同時に、今は全てサイモンに任せるのが一番だと思った。
「他に不審な点はありますか?何か事件でも?」
「いや、そういう訳じゃ……」
「このメンバーで誕生パーティをしながら悪事を企てているように見えますか?」
サイモンにそう切り返されては後が続かない。
ブチョーはこの車の持ち主と若い男の繋がりもそうだが、親子が妹だと言うのも怪しいものだとは思いながらも、この聡明そうな男と張り合うのはやめたほうが無難だと悟った。
ジュンSirはムラカミと名乗る男の左手首に、明らかに不似合いな高そうな腕時計が光っているのに気が付いた。さっき浜で見た時は、男は時計をしていなかった。男の足元を見ると、今はお洒落で左右おそろいのスニーカーを履いている。時計も靴も元はこのサイモンという中年男の物だったに違いない。それがなぜ今路上生活者に?この状況からして、盗んだとか奪ったとは考えられない。
(貰った?会ったばかりの住所不定無職のホームレスに、ホイホイと高級時計をあげるなんてどう考えてもありえない!)
ジュンSirはジョージの腕時計が気になって仕方がなかった。
「その時計、すっげ~カッコいいんだけど、高いんでしょうね?」
ジュンSirは興味を抑えきれずジョージに聞いた。
「あぁ、これ?ロレックス!知ってるよね?」
「もちろん、名前くらいは知ってますよ。でも実際に見た事はないけど」
ジョージは時計を外し、顎をしゃくってジュンSirに差し出した。
「スんゲー、(手で重さを感じながら)この重量感、このピカピカ感、これこそオトナの時計ってヤツだな!」
「いいだろう⁈」
ジョージが得意顔で言った。
「こんなスゲ~時計、前から持ってたんスか?」
「バカ言ってんじゃね~よ。食い物も事欠くオレが、ロレックスなんて持ってるわけね~だろうが!」
「そりゃそうですよね〜(言われるまでもないよ)。じゃ、どうしたんです、それ?」
「このオッさんに貰ったのさ。キャンピングカーと一緒に。そうだよなオッさん」
ジョージはそう言って、サイモンに確認するように顔を向けた。
「ええ、間違いありません」
サイモンは即答した。
そう聞いて、ジュンSirは強い嫉妬を覚えた。
(ウソだろう!クルマと時計でン百万の価値はあるんだぞ。そんな話、あり得ない!あるとしたら、何でこコイツなんだ?オレでも良かったんじゃね〜の?)
次の何かを期待するように、ジュンSirはサイモンを見た。
(くそっ!このオッさん、そんなに気前がいいんだったら、オレも取り入って何か貰いたいな〜!でも公務員じゃダメかな〜?ロレックスやクルマも貰えるなら警察なんか辞めちゃうよ!)
ジュンSirは不機嫌に口を結んで、車内と四人の観察を続けた。ブチョーはもっぱらサイモンに興味深い目を向けている。
床に散らばっている濡れた衣類、大人も子供も風呂上がりのようなぼさぼさ頭にだぶだぶの服。自殺未遂の可能性は甚だ大である。大人三人と男の子の繋がりにも釈然としないが、これ以上突っ込んだ職質を続けるには材料が乏しい。ブチョーはジュンSirに目で合図をすると半端な敬礼をしながら、
「それじゃ私達はこれで失礼します。パーティを楽しんで下さい」
(できれば夜が明けるまで浜に降りないで)との願いを込めて言うと、相棒を押し出すように車外に消えた。
「あの人達、一体何なんですかね⁈」
外に出ると、ジュンSirはブチョーの注意を引くように少し前に出て聞いた。
「恐らくこの浜で鉢合わせしたんだろうな、目的は同じだろう」
「という事は、この後皆で入水するんですか⁈」
「あの人達の様子を見ていたら、もうそれはないと思う。この浜に辿り着いたという事は、この先のことは考えてはいなかっただろうし、もう行く当てなんかありゃしない。オレの勘が正しければあの四人、ここで暫く仲良くやって行く事になりそうだ」
そう言って先輩は自信をにじませた笑いを見せた。
「それにしてもあの人達、面白そうな組み合わせですね」
「ああ、いいチームになりそうだ」
(オレも何かもらえるかな?)
ジュンSirに期待が込み上げてきた。
二人の警官は別々の思いを抱き、嬉しそうにパトカーに向かった。
背景の全く異なる四人と命の恩犬である三本足のマモルの奇妙な出会い。にわか作りのささやかなバースデーパーティではあったがそれぞれにとってかけがえのない心の満足感と群れ意識が車内を包んだ。
サイモンもジョージも、リサの事情にはそれ以上触れなかった。申し合わせた訳ではなく、自然とそうなったのだ。
「さてと、俺たちも今日はもう寝るとしよう。この子をしっかり温めてあげなさい」
幸せそうなショウの寝顔を見ながらサイモンが孫を案じる祖父のようにリサに話しかけた。もっとこの美しい‘母親’を見ていたいジョージは、
(もう少しだけいいだろう)
と言いたかったが、それを口に出す勇気はなかった。
「悪いけど、今夜はオレたちも車の中で寝させてもらうよ。ただし、運転席でね」
サイモンが付け加えた。
「私達は床で結構です。お二人はベッドでお休みください」
「ハハ、それはダメだよ。(ジョージをちらっと見て)この人が悪い気を起こさないように見ていなきゃいけないから」
サイモンが冷やかすように言った。
「そりゃ、こっちのセリフだぜ、ったく!」
ジョージはわざとらしく怒りの目をサイモンに向けた。
その時ショウが目を覚まし、
「おかあさん……」
とリサを呼んだ。
(ああ、この響き、私の大事なショウ!)
リサはまた泣きそうになったが、なんとか堪えて「な〜に?」と優しく聞いた。
「……オシッコ」
ショウが寝ぼけ眼をこすりながら言った。
「そうか、オレもションベンして寝ようと思ってたんだ。さあ、オレと一緒に外で立ちションだ!」
ジョージが笑顔でショウを誘った。
(ションベン?立ちション?)
リサからは一度も聞いたことのない単語である。しかし、ジョージが言うと何やら男の世界を感じさせる。ショウは新しい冒険でもするかのようにベッドから飛び降りた。
「それじゃ、オレも付き合うか」
サイモンも立ち上がった。
「そうだ、トイレ使うならここでどうぞ」
リサにそう言いながら車内トイレのドアを少し開けて示した。
「そうだ、歯も磨かなきゃな……」
サイモンは自分用の歯ブラシとコップを取り、使い捨ての歯ブラシを三人に手渡し、シンクでボールにたっぷり水を入れた。
「あなたはここで洗面するといい、コップは適当に使って」
「いろいろありがとうございます」
リサはまたも深々と頭を下げた。サイモンは(気にするな)と言うようにリサに手で制した後、ボールを手に、ジョージとショウを先導するように車外に出て行った。もちろんマモルもショウに付いて行った。
車外には見事な星空が広がっていた。浜に降りた三人は、生まれ変わったように、改めて星空を見上げた。
「わ~、これみんな星なの⁈」
ショウが叫ぶように聞いた。
「あゝ、そうだよ、すごいだろう!」
ジョージが答える。
「すごいね、星がこんなにあるって知らなかった」
「いい所だろう!」
「うん、いいところだね!」
(まるで親子の会話だな……)
サイモンは目を細めた。
「ねえ、ションベンってなに?」
ショウがジョージに聞いた。
「何だ、おまえ、ションベンを知らないのか?ショウベン、オシッコの事だよ」
「それじゃ、タチションは?」
ショウは続けて聞いた。
「外で立ったままオシッコすることさ。男しかできないんだぞぅ!」
ジョージにそう言われて、ショウは何か悪さを始めようとする子供の顔でニッコリ笑った。
三人は横一列に並んで放尿した。大小三本の放物線が月明かりに輝きながら地球に吸い込まれて行く。
「男っていいだろう!」
ジョージが身体を上下に揺らしながらショウに言った。
「うん、オトコっていいね!」
ショウが嬉しそうに答えた。
立ちションしながら、サイモンがオナラをした。ショウが声を出して笑った。ジョージもショウを見て大袈裟に笑って見せた後、少し遅れて自分もオナラをした。
ショウが両手で口を押さえてクックッと笑って肩を揺らす。そしてショウも、しかめっ面をして何かを待っているようだったが、すぐに(ぷっ)と可愛い音が出た。
「ちょっと情けない音だけど、まあいいかッ!」
ジョージが言って、三人が大笑いした。
その笑い声は車の中のリサにも聞こえ、ジンと嬉しくなった。マモルだけが不思議そうな顔を三人に向けた。
(ニンゲンって、時々つまんない事で笑うんだよなァ)
ニンゲンの尿の臭いもそれぞれ違う事をマモルは知った。
(そうか、これは縄張りのマーキングなんだ)
そう思ったマモルも、短い前足を石に乗せてバランスを取りながらマーキングに加わった。
(これで、オレも仲間だ!)
マモルは満足そうに三人を見上げた。
「アッ、星が落っこちた!」
満天の夜空を見上げていたショウがその方向を指差し、ジョージに驚いた目を向けた。
「ショウは流れ星をみたことないのか?」
「うん、初めて見た」
「都会の空を見上げても見れるものじゃないしな……」
ジョージはまたもやショウが可哀想になった。
「知ってるか?流れ星が消えてしまう間に願い事をすると、神様が叶えてくれるんだぞ!」
ジョージはショウに夢を与えるように言った。ショウは大きく頷き、流れ星を待った。そう言った本人も、流れ星を待った。
そう言えば自分も子供の頃そう信じていたな……サイモンは可笑しくなった。そして、叶う訳ないだろうけど、もう一度娘のメグに会えることを願ってみようと思った。
「アッ、ながれぼし!」
ショウが叫んだ。
「まだまだ、もっと大きいヤツを待ちな!」
「……ほら出た!今だ!」
三人が一斉に息を止め、祈った。マモルは人間たちを見て首をかしげた。
立ちションの後はボールの水を使ってお互いに手を洗った。何かの禊をするように。そして三人は並んで歯を磨き、交互にボールから水を含み口をすすいだ。ジョージが派手な音を立てて口をすすいだ後、その水を勢い良く噴き出した。その様子をショウも真似て口から見事な放物線を描いた。「グッジョブ」と言ってジョージが再びハイタッチを誘った。今度はためらうことなくジャンプしそうな勢いで手を合わせた。
下と上からの放水は、リサと二人の時はショウには思いもしなかった快感である。ジョージと自分の男同士の波長を感じたのか、ショウの目は星の下で野生児のように輝いている。
車内に戻ったオス達は一様に満足した表情である。マモルの表情は人間には分からないが、群れの一員になった歓びに溢れているのが体の動きで明らかである。
サイモンはミネラルウオーターを二本ベッドに投げ、ジョージにも一本手渡した。空になったボールに再び水を入れマモルの側に置いた。サイモンの落ち着いた所作に、ジョージもリサも彼がリーダーとしての素晴らしい才能がある事を認めざるをえなかった。
寝る準備が整うと、サイモンはキャビンのライトを消し、自分達の保温のため、身体にかけられる物を幾つか手に取ると、後ろ髪を引かれていそうなジョージを急き立てるように背中を押し、キャビンの仕切りカーテンを閉め運転席に移った。
「いろいろ申し訳ありません。お言葉に甘えてここで休ませていただきます。ありがとうございます」
二人が見えなくなって、リサはそう言って頭を下げた。二人からの返事はない。
どうせシートで寝るのなら運転席だと思い、ジョージはさっさと先に座った。助手席に座ったサイモンは、リクライニングの方法が分からないジョージのためにシートを倒してやり、自分もシートを倒して身体を預けた。
ジョージにとっては、車の中で寝れるだけで熟睡の条件を満たしていた。雨風、蚊やその他の害虫、浮浪者狩りの悪ガキなどを気にせずともいいのだ。
「アンタはオレの入水と親子の無理心中を引き止めた責任がある。自分自身これからどうしたいか、振り出しに戻って考えて見るんだな」
サイモンが声を落として言った。
「あゝ、分かっているよ」
低い声でジョージが答える。
「オレたちがお互い自殺を止め合ったから、あの子と新しい母親を助ける事が出来たんだ。偶然とは言え、凄くいい事をしたとは思わないか?親子のために何かしてやろうとは思わないか?」
サイモンが年の離れた兄貴のようにジョージの顔を伺うように言った。
「あゝ、今夜死ぬつもりでここに来たんだけど、生まれて初めて人助けをするとはな……。確かに……このまま放ってはおけないな」
眠いのか、途切れがちにジョージが答える。
「オレたちがここで鉢合わせしたのも縁か運命かは知らないが、あの子に素晴らしい世界を見せてやろうじゃないか」
そう言ってジョージの反応を待ったが、もう何も返ってこない。もしやと思い横を向くと、青年は素直な顔で寝入っていた。
(よし、明日は朝から皆で作戦会議だ)
自分に言い聞かせるようにつぶやき、目を閉じた。自分自身と三人の人生を如何にリセットするかを考えているうちに、いつの間にか記憶が立ち消えた。
どのくらい時間が経ったのか分からないが、ショウを庇うように抱いて寝ていたリサは悪夢に襲われた。
男がショウを折檻している。ショウは激しく抵抗するが、避けられるはずがない。リサがショウを護ろうと男に組み付く。すると男はリサに暴力を振るう。それを見たショウが、部屋にある物を手当たり次第に男に投げつける。灰皿が飛んで男の額に当たった。激痛が走ったので額を押さえた男の手に鮮血が付いた。こうなるともう手が付けられない。男は狂ったようにショウに襲いかかった。
(ショウが殺される)
そう思ったリサは、テーブルの上にあったハサミを手に取り、目を閉じて無我夢中で男に向かって行った。ハサミの先端がスーッと男の腹に消え、温かい液体が手を包んだ。
そこでリサはビクンビクンと痙攣して目を覚ました。咄嗟に手を見たが、血は付いていない。ショウも安らかに寝ているので安堵したが、リサは両手で顔を覆い大きな溜息を吐いた。
第4話に続く
第4話では、チームサイモンと地元を愛するハーレーチームが意気投合し、四人の社会復帰と自殺名所の負のイメージ払拭のためのプロジェクトが動き始めます。
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