第12話 開かずの本

当時、私の通っていた中学校に「開かずの本」というものがありました。


それは校長室の戸棚に封印された一冊の本で、なぜかガムテープでぐるぐる巻きにされている。


その本は決して読んではいけない。それがこの本に対する不文律でした。


でわ、なぜ、読んではいけないのか?


それはこの本が「悪魔の書いた詩集」だからです。


その昔、初代校長が呪物を蒐めるのが趣味の好事家で、珍品を求めては各国を飛び回っていたそうなんです。


そして蒐めたコレクションは校内にも展示し、自ら生徒に解説なんかもしていたらしいんです。


しかし、そんなある日のこと、校長は海外に住む友人から妙な本が手に入ったと連絡を受け、早速海を渡ってその友人に会いに行ったそうなんです。


そして、それっきり消息を絶ってしまった。


つまり、失踪してしまった訳なんです。


最初は家族もあまり心配してなかったそうなんですが、流石に一ヶ月も過ぎるとヤバいと思ったらしく、そこでようやく警察に捜索願いを出したそうなんです。


そして半年後、突然学校に奇妙な小包が届きました。


差出人はなんと失踪したあの校長本人。


驚いた関係者がその小包を開けると、中にはガムテープでぐるぐる巻きにされた一冊の赤い本が入っており、疑問に思った教頭がまずカッターで封を切って中を読み始めたそうなんです。


すると途端に教頭は奇声を発しながら持っていたカッターで次々とその場にいた教員たちを切り付け、そのまま失踪。


幸いにも切り付けられた人は軽傷で済んだんですが、教頭は未だに行方不明のままなんです。


ただ本だけは翌日、何故かちゃんと校長室の戸棚に戻してありました。


それからしばらくして今度は別の教諭が「開かずの本」を開き、やはり奇声を発しながら今度は三階の窓から飛び降りて亡くなってしまったそうなんです。


勿論、即死でしたよ。


その後も「開かずの本」を持ち出す者が後を絶たなかったため、学校側はいよいよ凄腕の霊能者を呼び、本を校長室の戸棚に厳重に封印してしまったそうなんです。


それがうちの学校に伝わる「開かずの本」の噂です。


実際私もこの「開かずの本」を生で見たことがあるんですが、確かに眺めていると、その表紙の先に一体何が書かれているのか?どれほど危険で甘美な文章が綴られているのか?と、とても読みたくなる衝動に駆られます。


あと、これは余談なんですが私が卒業した後、再び「開かずの本」が持ち去られたと風の噂で聞きました。


恐らく「開かずの本」の誘惑に負けたのでしょう。


無理もありません。


あのガムテープの隙間から見える艶やかな赤い装丁。


あれはまるで舌舐めずりするかのように濡れて光っていましたから。



────あ、そこのアナタ、その本、もう返さなくていいですからね。了

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