第二王女
「皆さん、本日はお集まりしていただきありがとうございます」
訓練場へと到着し、しばらく経った頃。
セリシアがお淑やかで上品な笑みを浮かべながら皆の前で軽く頭を下げた。
『うわっ、あの人めちゃくちゃ可愛い……』
『あの人、聖女って呼ばれているぐらい治癒魔法が得意らしいぜ?』
『アカデミーにはこんな綺麗な子がいるのか。めっちゃテンション上がってきた』
ヒソヒソと、セリシアの姿を見て特待生枠の受験生がヒソヒソと話し始める。
それも当然。アカデミーでの呼び名だけでなく、セリシアは同性の中でも群を抜いた容姿を持ち合わせている。
同じ女の子だけでなく、男の子も一目見てテンションが上がるのは間違いない。
「アカデミー三学年、セリシア・カロイツです。本日、特待生枠の試験監督を務めます。どうか皆さん、よろしくお願いします」
自己紹介が終わると、ちょっとしたざわめきが起こった。
なんかやる気漲ってきた、と。どこかでそんな声まで聞こえてくる。
そんな声を、集団の中で聞いたユーリは―――
(セリシア姉さん、相変わらず初めましての人にも人気だなぁ)
ユーリは何度かセリシアのお願いで教会やら街やらに足を運んだことがある。
そこで何度もセリシアの容姿と優しい性格に目を惹かれ、よく注目が集まっていた。
だからこそ、今目の前に広がっている光景はそれに似ているような気がして、ユーリは知人ということもありどこか誇らしくなってしまった。
(けど、聖女ってどっかで聞いたことがあるような……?)
はて、どこで誰だったか? と。ユーリが思い出そうと首を傾げていると、皆の前に立つセリシアがこちらに向かって微笑みかけてきた。
ちゃんとやれ……そう言っていたような気がするのに、早速視線がこちらに向いている。
公私混同。そのことに、ユーリは思わず苦笑いを浮かべてしまった。
すると―――
「ねぇ、あなた」
小さな声と共に、ユーリの肩がそっと叩かれる。
気になって少しだけ振り返ると、そこには自分と同じ支給された名札を胸につけている少女の姿があった。
(うわぁ……)
ユーリはその少女を見て、思わず見惚れてしまう。
燃えるような赤の長髪。端麗で美しい顔立ちに大人びた雰囲気を醸し出す。体つきはスラッとしていて、どこかアリスを大人っぽくさせたような感じだ。
見惚れていたユーリを見て、少女は思わず首を傾げる。
「どうしたの?」
「あ、うん……ごめん、見惚れてた」
「あら、そう言われると悪い気はしないわね」
「じゃあ、もっと見てていい!?」
「少しは遠慮を知りなさい」
悪い気はしないと言っても、遠慮はした方がいいらしい。
「私の名前はリゼ・シュターレンよ、よろしく」
「あ、僕の名前はユーリです……って、シュターレン?」
こちらもまた聞いたことのある名前だ。
ユーリは再び小さく首を傾げる。
「……これでも、結構顔は知られている方だと思ったのだけれど」
「そうなの? もしかしてアイドル候補生?」
「私が歌って踊って客席に笑いかけるように見える?」
「ごめん、お金を払っても見られそうにもないと思う」
どちらかというと何もしていないのに有名人になってしまう……みたいな感じだ。
自発的に動くというよりかは、人気と知名度が勝手についてきてしまいというか。とにかく、雰囲気的にファンサービスを自発的に行うような性格には今のジト目を向けてくるリゼからは見られなかった。
「……一応言っておくけど、私はこの国の第二王女」
「へぇー」
「へぇーって……なんでそんな反応になるのよ」
「だって───」
ふと、ユーリの脳裏に試験前日のアリスとのやり取りが思い浮かんだ。
♦️♦️♦️
『いい、ユーくん……アカデミーでは、絶対にお貴族様とかには反応『塩』で行くこと!』
『待って、反応『塩』ってなに?』
『反応『塩』っていうのはね、ぞんざいかつ無関心、あとタメ口&テキトーを貫くことなんだよ!』
『ですが大将! 変わり者のアリス姉さん達は許してくれたけど、普通は不敬罪とかそっち方面で首チョンパされるんじゃないでしょうか!?』
『大丈夫! 今のお貴族様達は反応『塩』がマイブーム! そういう反応はむしろばっちこい! あと、変わり者じゃないもん、ユーくん大好きな女の子だもん!』
『なるほど、今時のお貴族様はそういうブームが……』
『(っていうより、こう言っておかないと目をつけられそうだし……)』
『え、なんて?』
『なんでもないやいっ!』
♦️♦️♦️
「僕は分かってるよ……こういう興味ない反応が好きなんだよね」
「あなたの家の教育方針が気になるところだわ」
きっと、変わり者に育てられたからだろう。
「まぁ、私も畏まられるのとかあまり好きじゃないし、いいのだけれど……なんか複雑ね」
本来は王女という名前を聞いたら、少しぐらいは驚くはず。
なのにあまりにも淡白で関心を持たれない反応をするユーリに、リゼは思わずため息をついてしまった。
「それで、結局何か用? 試験に緊張してるっていうなら手を握っていてあげたりさり気なく体も温めてあげるけど……」
「そのさり気なさにセクハラを混ぜるのやめなさい、訴えなくても勝てるわよ?」
そうじゃなくて、と。
リゼは頬を少し膨らませると、受験生の陰に隠れるようにしてユーリの襟首を掴んで引き付けた。
いきなりのことと、美少女の綺麗な顔が近づいてユーリは思わずドキッとしてしまう。
そして───
「あなた、さっきセリシアさんと一緒にここに来てたわよね? どういう関係なのかしら?」
リゼは小さな声で、そんなことを言ってきたのであった。
いつも家に入り浸って甘えてくる過保護な姉の親友達が実はアカデミー最強。だけど、僕の方が強いらしい。 楓原 こうた【書籍6シリーズ発売中】 @hiiyo1012
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