~極点編~ #2 人工異世界ムーネ

 めざめた。……筈だ。なんだろう。えらくもやっとしている。


 「繧ェ繝ャ繝イ繧ソ繝弱す繝槭そ繝ュ!!!!」


 正面。真っ二つに割れた半顔の左側、不定形ふていけいな音と共に黒くドロついた奴の上め、黒球こっきゅうがそいつの両脇から広がり大きくなる。そこから感じる。強烈な力が━━━


 『真神眼<<マシンガン>>、起動。』

 ━━球から黒いビームが━━

 「……っ!」


 ━━━刺すように鋭く黒球から放たれた黒いビームを、奴に対して右斜め後ろ、脱力しながら倒れる様に身体が動き、回避していた。


 黒い線は身体左上を空間を裂きながら、鋭く無機質に通過していった。


 目覚めて突然の攻撃に戸惑うも、身体が戦闘慣れしていたのだろう、鍛え抜いていた直感が肉体を身勝手に動かし、回避行動をとっていた。


 倒れる勢いのまま両手を床にバシィッ!と叩いた。直立した体勢のままブワッと浮き上がり、ふわりと後ろに回転して着地した。


『(……うふふ、やはりワタシの思った通り♪以前より力が弱くなっているわぁ♪)』


 テレパシーのように悪魔あくまの意思が言語化されて伝わってきた。


 僕はまだまだ完全に記憶を取り戻せていない。しかし、あの悪魔あくまは、あの森と塔の世界に、僕とコノヨを追い込んできた事は覚えている。おそらく、この目覚めの隙を狙ってきたのだ。


 ヤツの割れた半顔の断面からズズっと、また真っ黒なバケモノが出てきた。意識のような物を感じない。……デコイか?どう使う?そもそも触れられるか?


━━━いや違う。あれは魔者まものだ。


 突然、バチッ!と雷撃が落ちたような衝撃と共に、その単語が海馬の奥底。記憶の雲からお届けされてきた。魔者まものと、悪魔あくまの違いはまだ分からない。思い出せない。


 だが、魔者まもの、閃くかのように咄嗟に浮かんだ言葉。わざわざ分類して覚えてるんだ。何か決定的に見逃してはいけない何かがある筈。


 しかし、今は考えている暇はない。今はそれでいい。徐々に思い出していく中で、きっとその意味を思い出す時が来るだろうから。


 「ズ彁彁彁彁彁彁彁彁彁彁彁彁!!!」


 突然だった。ノータイム。


 ━━━黒い殺意が顔面の右側を通過していた。


 魔者まもの悪魔あくまと同じように黒いビームを飛ばして攻撃してきていた。反応はできてない。


 急に刺される様な感覚にゾッとした。モロに喰らったと思った。顔面に直撃していた筈だった。しかし、またしても無意識。身体が攻撃に対して、さらりと左へ軽く反って綺麗に避けていた。しかも今度は、回転したり倒れたりもしない。最小限の動きでだ。


 魔者まものは首を傾げ、ゆっくりとこちらに近づいてくる。その動きはまるでゾンビのようにトロい。どうやら少なくとも今の僕でも奴らの攻撃は無意識で勝手に回避できる。次はこちらから仕掛けても良いだろう。


 そう思い、様子見として試しに格闘による打……


 ━━━戦い方が分からない以上、一旦逃げに徹する選択肢を選んでいた。


 今度は時間が飛ぶような感覚に襲われた。景色が広々とした空間から突然、通路のような空間にいて、僕は全力で走っていた。そして、徐々に中抜けした記憶が後からついてくる。


 そうだ。様子見として試しに、格闘による打撃を試みようとした瞬間だった。魔者の奴は一瞬で僕の目の前に瞬間移動して来た。奴の黒い拳が僕の眉間から約3cm程度前のところまで来ていた。


 そしてヒット寸前。起動していた"真神眼マシンガン"が先手を捉えていたのだろう、僕はまたしても綺麗に回避していた。ビームのように腕が伸びるパンチだった。僕は頭をゆっくり、ネットリと移動させて避けていた。この間、僕の意識は無かった。


 ……おそらく、覚醒直後の黒ビームも、ただの直感ではない。真神眼マシンガンの予測機能が次の行動を正確に捉えていたのだ。


 真神眼マシンガン。その呼び名の通り機械で作られた人工眼。


 この眼には、眼という機能の持ちうる全ての可能性が詰まっている。全てを見通し、影響し影響させる。真に神を観る為の神の眼。かみの目。メタ視の眼。


 機能が半無限大に存在する故、使いこなせる人間は限られる。そして、使いこなせる一人であっただろう自分は、その使い方の殆どを忘れてしまっていた。


 ただ開発者も多くの人間は使いこなせない事は見越していたのだろう。通常機能として限られた機能を簡単に使えるようにしていた。


 この通常機能は身を守るための行動を常にフルオートで予測し、脳?に伝達する。そのあまりにも早すぎる予測スピードは、まるで直感で行動したかの様な錯覚を引き起こすのだ。


 そして、それは絶対的な行動権限をもつ。場合によっては、使用者の意識より真神眼マシンガンの命令が優先される。


 例えば人体では反応不可な攻撃に襲われる等、絶対絶命な状況に陥った事によって予測処理が走るとする。


 すると、直感という感覚を超え、先の未来が突然先に来て、辻褄を合わせるように過程が後からじわじわと羅列されるかような、世界を置き去りにしてあとから世界が追いついてくるような、そんな不可思議な感覚に陥る。


 そして結果、命は消滅を免れているのだ。


 ━━━突然正面から来た黒ビーム3発を宙に浮きながら避けていた。


 黒線3発はそれぞれ、顔面左5cm、股下30cm、右脇の右10cmを綺麗に掠めていった。


 ……ごらんの通りだ。


 元の記憶が徐々に蘇る。そして、それらが全身の血と肉を高性能に、異常な早さで作り変えていく。体内を巡る超極小の機械が体内を駆け巡り覚醒を促しているかのように。


 だがしかし、まだここが何処かは正確には思い出せない。ひたすら白タイル床の無機質な通路。そして、通路の両脇の壁にズラりと張り付いた無数の扉。見覚えがないワケではないが、記憶はおぼろげだ。


 ふと真後ろに気配を感じた。魔者まものの気配だ。それも4体。


 「縺薙m縺吶°縺励〓縺矩∈縺ケ!!」

 「螳?ス∝ス∝ス∝ス∝ス∝ス∝ス∝ス!!」

 「繧ヲ繝√ヮ繝ィ繝。繧オ繝ウ繧エ繝。繝シ繝医Ν!!」

 「繧ヲ繧ア繝医Ξ縲√が繝槭お繝上う繧ュ繝ュ」


 この世のものとは思えない不気味でバグったか様な声が真後ろから圧倒してくる。魔者まもの4体一人一人から黒ビームが1発、計4発が放たれ、そのうちの最後の一発が左頬を掠めた。


 左頬に黒い跡が線状になって残った。


 一瞬で魔者まものに追いつかれた。ビッシリと両脇の壁に、無数に張り付いたドアのどこかに入り、目をくらませようと考えたが……。


 ━━━違和感。走るという行為自体に違和感を覚えた。


 ━━━浮遊しながら高速で移動していた。


 真神眼マシンガンの予測機能が走った感覚。今度は両足で走っていた違和感の自覚と共に、走る足が浮き出し、ホバー移動のように、慣性を無視した座標移動をするような、そんな感覚に襲われていた。


 そして事実、浮遊したまま移動を始めていた。ただその速度が尋常ではない。音すら置いていくような異次元のスピードで移動している。あっという間に魔者まものとの距離が開いた。


 両膝を軽く曲げ、両腕は自然に開く。側から見ると、その腰からワイヤーで釣られたような飛び姿はとてもシュール極まる絵面で、滑稽にすら見える時があるだろう。


 しかし、妙にしっくり来ていた。かつて、きっと僕はこの移動スタイルに慣れていたのだ。そんな姿勢を保ちながら、浮遊した身体は入り組んだ通路をイカズチの如き超高速で移動している。


 バッチィィィィン!!バチッ!!バチッ!!


 黒いビームもとんでもない速度で追尾してくるが、壁や床にぶち当たりつつ次第に距離が離れ、見えなくなっていった。


 真神目マシンガンに映るHUDを確認。現在の移動速度、時速3万6900km。西暦式ロケットに届くような速度で、入り組んだ通路の迷宮を未だに彷徨い続けている。


 と、その奥の奥。人が1人入れるような狭い八角チューブ状の空間を視認した。


 僕は特に考える事も無く自然と、スーパーマンのような前傾姿勢をとり、移動速度を更にあげていった。4万5700km……28万8925km……56万8924km……392万6626km……699万6877km……


 空間を切り裂いて更に速度は増していく。景色が無数の光の線と化していく。更に速度が上がると、周囲の景色は段々と、遅くゆっくりになっていく。一部の光の線たちは徐々にその長さが短くなっていき、点となっていく。そしてまた加速し始め、逆方向に伸びていった。


 完全なる真空中での光の速度はおよそ時速10億7900万km、物理的情報はこれ以上の速度で移動しないと言われていた。しかし真神眼マシンガンのHUDが示した現在の速度は時速5395億km。光の速さの500倍。あり得ない数値を指していた。


 光子の豪雨を意識が突き抜けていく。


 そして真神眼マシンガンが通路の最奥のドアを捉えた。スピードを下げつつも、その勢いに任せそのまま右足で蹴抜けた。ドアごとぶち抜けたと思った。


 ドアをすり抜けた。


 中は球状のとんでもなく広い空間となっており、棺桶かんおけのような形の機械が、その空間の内側にビッシリと規則正しく並んでいた。


 そしてそれらは相変わらず、真っ白に統一されていた。


 「(そいつを逃すな。)」


 悪魔あくまの声がどこからともなくそう響くと、その場の異様な気配が一斉にこちらへ向けられた。


 吐き気をもよおすような感覚に一瞬陥った瞬間。


 ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ


 あの黒いバケモノ、魔者まものが、無数にある棺桶状の機械一つ一つから蓋を派手にぶち飛ばして、一斉に襲いかかってきた。


 棺桶状の蓋の大群が宙を舞い、視界を覆っていたが、それをもあの黒い魔者マモノの群団が視界の一面を支配した。


 ちょっと考えれば簡単な話だ。一対一でも彼らの攻撃を真神眼マシンガンに頼って避けていたってのに、この数は流石に処理しきれない。詰んだ。終わった。そう思った。


 ━━━そう思った頃に、僕はその魔者達を一つ残らず首を切り屠っていた。


 ハッとその光景が突然目の前に飛び込んできた。その時には、既に記憶のフラッシュバックが始まっていた。


◾️◾️◾️

 着用していた宇宙服のような白コートのフォルムが袴の様に変形し、黒い刃が自身の黒い手から生成されていた。


「……っ!?」

 その刃は驚く程、異常なほどの強い念を放っていた。


 その強い念は非常に頑なで、研ぎ澄まされていながら慈悲に満ちていた。


 道具にはには魂が宿る。そう言ったら信じる者はどれほどいるだろうか。道具には機能があり、それは目的と精神性に従ってその形を作りあげる。


 小説であれば、より良い表現を目指して文章が構成される。


 伝える事が目的であれば、読みやすい、使いやすい文章に変化し、娯楽目的であれば、よりその世界に誘う為の要素と構成が込められる。


 この武器。この殺人の刃の持つ目的とその姿には強い信念を感じる。


 異常な数の層が刃に織り交ぜられ、余計な装飾も一切ない。


 これしかあり得ないと言わんばかりの、一点の曇りもない完成された姿。


 細部に宿る異常なまでの拘り。鍛え上げられた柔軟さ鋭さとその重量。


 そう、こいつは自分が何かを殺す道具、”人を殺す武器”であるという事を、

他の存在に死を与えて主を生かすという事を、殺害という、苦しみと恐怖と理不尽さを十分に理解しているのだ。


刀<<カタナ>>


 一撃必殺を目的とした。信念の刃。そしてその一撃必殺を実現する為にはそれ相応の技量とその技量を実現させるだけの鍛錬と、その鍛錬を実現させるだけの信念と、その信念を確立させうる思想が、信仰が、願いが、見えぬ魂の同調が必要不可欠なのだ。


 僕はその信念と願いが集積されたその姿に、強い魂を感じた……。


 今の僕はこの魂に釣り合えているのだろうか。


 まるで時間が停止しているかの様に、ゆっくりと時間が過ぎていく。


 刀……手放すべきでは?


 ほんの記憶の片隅、1%その言葉がよぎった時だった。


 「導いてやる。」刀がそう応えたように感じた。


 魔者に対して、僕は既に居合の構えを行い、ただ斬ろうと念じた。


 すると丁度、クリフォトの森でコノヨが斧から斬撃を発生させた時と同様斬撃が発生していた。


 聞こえたのは「ザァァァァァン……」という荒々しく魂喰らう声。


 鞘から刃を引き抜いた時、既にこの球状空間内の魔者の首は全て刎ねられ、赤い鮮血が床を染めていた。


 刀の名はヤタガラス。


 「黒刀・ヤタガラス。」と、刀の彼はそう名乗ったように感じた。


 フラッシュバックが終わった。目の前に広がる血沼のむこう。すり抜けたドアの方向。扉のその先。


 入ってきた通路。奥の奥数千km先、最初に追ってきた魔者の姿がそこにはあり、高速でこちらへ向かって来ていた。


 接触まであと0.0007秒。


 この刀であれば、あの魔者も意図も容易く殺せるだろう。一瞬で慈悲を以て苦しみなく。


 そう思い握る持ち手に力を入れたそのときだった。


 ━━━身体が強烈な拒否反応を起こした。


 ━━━━━身の毛もよだつような気持ち悪さだ。


 しかし思考は確信していた。やらなければやられると。目の前にいるのは敵だ。倒さない理由など無いのだから。


 目の前だ。来た。前方約500m。

 ダメだ気持ち悪い。手が動かない。

 身体が止めろとうるさい!


 生きる為には仕方ないのだ。

 生きる理由も分からないのに。

 生きようなどと思ってないのに!

 死んでいたかったのに!!!!


 それなりにチカラを取り戻していたのだろう。奥底の言葉にならない巨大な悲しみのまま、怒りに任せて身体がこれまで以上の軽さで力強くすっ飛んだ。


 その速度はもはや肉薄という表現すら相応しくない。それは瞬間移動だった。


 構えていた刃を魔者まものの首元まで持っていっていった。


 僕は、僕自身が何をそんなに悲しんでいるのか、よく分からなかった。


 ただ理由も無く死んでいたかった。その気持ちだけがずっと胸の内に残っていた。


 何故なのかずっと考えていた。あの森の世界にいる間もずっと頭の片隅で燻らせていた。


 人は必ず最後は例外なく死ぬ。死ぬ為に生きている。ならさっさと死ぬべきだ。効率良く、迷惑かけず、無駄なく、無理なく、安らかに、誰にも迷惑かけずに、手をかけずに、死ぬべきだ。


 大宇宙でのイレギュラーは寧ろ生き物の方だ。生き物など居る方が異常なのだ。僕は死ぬ。死こそ正常。それにあらがう馬鹿がどこにいるというのだ。そうしない理由などどこにあるというのだ。


 生きる事に意味などない。全てなくなる全て消える。そして自身もこんなに死にたいと思っている。死んであたり前だ。死ぬべきだ。


 そういう思いが慢性的にふつふつと湧き上がってくる事が、何故か途方も無く悲しかったのだ。


 ……そうだ。思い出した事がある。


 かつての僕はそういった想いが積み重なり、力を高める事に溺れていったのだ。


 気がつけば人生の全てを、力の高みに注ぎ込んでいた。分からないから、分かるまで力を高めた。まるで逃げる様に高めていった。そして身体の寿命を能力で保管し、自然の理を超え、更に力を高めていき……そしてその結果。この世界の、あの草原と青空の空間で、ただ閉じこもった。


 そんなある日、僕は自死を試みた。心臓を一瞬で停止させ仮死状態を永遠に続ける事による結果的な死だった。それが不老不死の自身を殺す方法だった。


 完全に心臓が止まった瞬間だった。白髪の少年、アダムが、僕の娘だと言う少女を連れて来たのは。


◾️◾️◾️


 ━━━強烈な拒否反応は鳴り止まなかった。しかし、身を守る為には攻撃せざるおえなかった。魔者を斬った。首の辺りをスパッと切りつけた。


 ただ、おかしかった。黒刀ヤタガラスはそいつの首ではなく、その纏っていた暗黒の衣だけを切っていた。そしてその選択は正しかった。中に何かいたのだ。

 

 人間……。

 長髪。白髪。

 シワシワでやつれた、知らない。

 見覚えの無い、老婆だった。


 衝撃が走った。魔者は倒すべき敵でしかない。ただのバケモノかなにかかと思っていた。


 ━━━魔殻マカラという言葉が突然脳裏によぎった。


 魔殻マカラは万物を覆い隠し、その正体をつかめなくさせる。


 魔殻マカラに包まれた生物を魔者マモノ魔殻マカラ自体が実体を持ったモノを我々は悪魔アクマと呼んでいた。


 魔者まものの大群を切り捨てた際に吹き出したのは赤い鮮血。周辺の魔者の残骸は見覚えのある頭蓋と身体の海。そう、大量に切り捨てた魔者の正体は人間だったのだ。


 残骸達は身体の一部が紅い粒子となって空中に漂い始めた。


 あの老婆はまだ息があるようで、もごもごと小さく動いていたが今にも事切れそうだ。


 僕は一心不乱に、老婆の元に駆け寄っていた。何故かは分からないが強烈にその衝動に駆られていた。


 彼女を抱き抱えると、僕の素顔を確認して安心したのか、その瞳に雫が溜まり始め、頬を伝っていった。


「ああ……やっと、、、会えた、、、」

 か細い声で彼女はそう言った。


「ハ…カ…セ……。」


 その呼び方で呼ぶ人間は1人だけ。その突きつけられた事実に震えた。拒否すらしようとしたが、そんな事できなかった。


 なぜならそれは、彼女は、僕の元にやってきた、血のつながりを持つ、娘だったのだから。だから確認した。


「……コノヨ……なのか?」


 彼女はコクリと頷いた。その事実を受けてどうしたら良いかわからなくなった。娘が老婆の様な姿になって、今にも息を引き取りそうになっている。こんな風な姿にした奴を恨めば良いのか、何かの夢かと逃避するか、何か解決できる事は?


 僕は彼女を抱きしめる事しか出来なかった。


 『みつけたよ。さあ、もう一度あの世界で君たちを守ってあげる!!だからはやく。私にもう一度取り込まれなさい!!』


 一息つく暇もない。突如テレパシーで、あの悪魔あくまの声がそう聞こえた。その瞬間だった。


 ━━━全ての力の使い方を思い出した。そして、あの悪魔あくまの位置を本体の位置を捉えた。その位置は……。僕の内側。半顔のもう半分。奴がこちらの位置を見失わなかった理由。


 黒い手から生成したのは、黒い拳銃。魔殻マカラをベース素材とした、脳内に巣食う特定の悪魔あくまのみを浄化する波動銃である。


 悪魔あくまの位置を、違和感のある場所を、直感で探る……。


 眉間の少し上。ここだ。


 ズドォオオオオオオオ……


 躊躇なく引き金を引くと、脳天を衝撃が貫き、低い耳鳴りのような音と共に、大気が震えた。


 あの立方体を真っ二つに切り分けた半顔の悪魔が、後頭部から撃ち出される様に、僕の肉体から剥がされ、後ろへ飛ばされた。


 飛ばされた悪魔の方を観た。悪魔は何かを吐き出して、さらに遠くへ吹き飛んでいき姿が特定できなくなった。悪魔の割れた断面から何かが吐き出された。人間だ。


 吐き出された人間は白いシャツに、白い半ズボン、中性的な顔立ちの、白髪、紫の瞳の少年。


 「アダム……!!」


 コノヨを最初に連れてきた、白い少年。人類の始祖を名乗る人物がそこに居た。


 『時は来た。悪魔イヴがくる前に済ませよう。カズヤ。』


 アダムのテレパシーだろうか。その声が頭に直接響いた時だった。


 通路の区画で魔者に付けられた頬キズ。なぜか真神眼マシンガンが回避しなかったそのキズに、周りにぶちまけられた仲間の姿だった紅い粒子がそこへ一気に吸い込まれていった。


 それらは何かこうなる事を望んでいたようにも思えた。


 全ての赤い粒子が左頬の黒い線跡に収まったとき、アダムは口を開いた。


「継承……完了。……キミは……全てを思い出す時が……来たんだ。」


 僕は、コノヨを強く抱き抱えた。

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はてなきときのユートピア すたーげいざー @eiminnumakura

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