はてなきときのユートピア

すたーげいざー

~極点編~ #1 悪魔の森と神なる塔

───何かやらなければ。何か使命があった筈……僕はもう、それを思い出せなくなっていた。


“忘れた”という事はさほど大切な事では無いのかもしれない。

でも、わざわざその使命を僕に託したという事は、その人にとっては大事な事だったのかも……?

いやいや、やっぱり大した頼みでは無い?


分からない。


僕は一体何を信じれば良い?

何に従えば良い?


本当に忘れているだけ?


結局生きて、考えて、見つけて、実際に確かめるしかない。だから、進み続ける。

生き続ける。

何が好きで、何が嫌いで、何を望んで、何を託されたのかを思い出す為に。


───確かそんな事も言った気がする。


ここはクリフォトの森。

死を司るセフィロトの塔と対になる、生を司る黒き悪魔の森。

長く居れば居る程、その幻惑に強く罹り、

そして、その幻惑は万物を忘却させ、幻を見せるという。


……確かそうだった筈だ。たぶんあってる。

自分の身体に宿る生存本能が、微かに覚えているのだ。

要するに直感。元も子もない怪しげななんとなくではあるのだが、

この感覚を今は信じる事にする。


瞼を開くと、

白黒の2色だけの景色が広がっていた。

自分の姿ですら二色のツートンカラーとなっている。


「別に普通の景色のはずだ。」

ふと、何故そんな事を言ったのかは分からない。


この森でやる事は、この森で木をきって、そして、あの光り輝くセフィロトの塔へ持ち帰り、還元する事だ。


僕は不意に左に装着した黒い手の掌を見る。

赤く紋様が浮き上がっている。

『経過時間:測定不能。"第一地球時間換算"にて、約"9千億年以上"が経過しています。』

『緊急通知:警告!警告!潜入限界期間から13カ月以上経過しています!至急帰還してください!』


黒い手の掌に交互に赤く点滅する、不快な紋様。


意味のある絵の列のようにも感じるが、その意味は良く分からない。

一体何がしたい?

正直、気味が悪いし、見て居たくもない。

もしかしたら、かつての自分はこの意味が分かったのだろうか?


思い出せない。

でも、今の僕はとても平穏に、平和に暮らせている。

これ以上も以下も考えられない。

ここは完全なる世界。ユートピアだと僕は思っている。

その筈なのに、僕の心のざわめきは止まらなかった。


━━━はてなきときのユートピア。


住めば地獄。実態は天国。

住めば都。実態は地獄。

そんな相反する言葉が頭から交互に浮き上がっては消え、こびりついて離れなかった。


カァーン……。カァーン……。


黒い樹海に鳴り響く斧の打撃音。

ふわりと足が宙に浮き、その音の方へ飛行しながら向かうと長い白髪の少女がアホ顔で立ち尽くしていた。

「あっるぇ!?きれんぞコレぇ~?」

彼女は僕と同じく、白いコートに黒い手を着用している。

どうやら仲間のようだ。


「その樹は横ではなく、縦に切るんだ。」

咄嗟にそんな言葉が出た。別に何か考えたわけではない。

不思議とほぼ条件反射的に口がそう言った。


「おぉ!?なるへそ~!!」

少女は頭に電球のアイコンが出たような顔をした後

右手に持つ黒い斧を上にかざした。

彼女の長い白髪がブワッと広がり、斬撃が縦に発生。

「セツダァァァァァン。」と、そう斬撃の声が森にこだました。


しかし、樹は依然としてそこにそのまま立ち尽くしていた。

「ん~~~?やっぱ斬れないよぉ?」

「根まで一気に斬ってみるんだ。」

「なるへそ~!!」


与えたアドバイスを元に彼女は再び黒斧を上にかざすと、

その質感不明の斧の刃の部分が一瞬キラリと光り、

「セツダァァァァァン!!「スパコォォォォォン!!」」


切断の声と、樹が切断される声が同時に森へ響き渡った。

樹は真ん中から根っこまで斬られ、真っ二つに縦に割かれていた。

「おぉぉ~……!!」


感嘆の声を漏らした彼女は、

パキパキと倒れた樹をバラバラに砕いて拾い集めはじめた。


僕も自然と、樹の回収を始めた。


彼女が縦に斬った時点で手ごたえはあった。

カァーンと音がしたのではなく「セツダァァァァァン」と声が響いてきた。

更に木肌に入った傷。これは横に斬っていたら入らない物だ。


「君はずっとここに?」

「貴方もずっと一緒だったよ?」

「忘れてしまっていたみたいだ。」

「思い出した?」

「分からない。全てではないが、君は?」

「わかんない。でも……」


言葉が止まった彼女はどこか悲しげな顔で

僕を見ている。

「……どうした?」

「ううん……なんでもない。」


◼️◼️◼️

樹は無事に回収し終わった。

僕達は回収した木材を背負って、身体が覚えている方角へ向けて歩き出した。


「うわぁっ!」

飛行を試みようと走った白髪の少女は、転んでしまった。心配はしなかった。この装備は怪我をしないからだ。さっさと置いて先に行こうとした。


「大丈夫か?」

なぜだろうか。彼女を置いて行くなんてできなかった。僕は彼女を起こして、彼女の乱れた髪を整えた。

「よし。これで良い。飛行は危険だ。この樹は背負うと、そういった性質も持ち合わせているかもしれない。……歩いて一緒に行こう。」

「うん……!」

身体は意思に反して勝手に動いた。

何故かは結局分からなかった。

そして、彼女が少し照れていた理由も。


白と黒だけのモノクロ色の樹海を進んでいく最中、セフィロトの塔の眩い光が僕達を照らし始めた。


暖かいが暑い。苦しい。

日焼けでジリジリと熱線に焼かれるような

熱を受けて歩いていくと、僕は、咄嗟に彼女にこんな事を口走った。

「不思議な物だ。どうもこの世界が現実だと信じる事ができずにいる。」

次々と湧き上がる言葉が放流されていく。

疲れる。

「へぇ~。なんでぇ?」

「……縦にしか斬れない樹。上にかざして念じるだけで切断現象が発生する斧。

そんなもの、本来現実にありはしない。普通はない筈なんだ。」


苦しい。辛い。死にたい。死ねない。

だって、不死身の不老不死だから。


「はぁ~?そうなのぉ?」


光は更に強くなる。内側にあった物が、炙り出される。記憶の壁がギリギリと削られるような……。吐きそうだ。これはマズい。


「あぁ、そうさ。それにこの森は忘却と幻惑の森。もしかしたらこの景色すら偽物。僕もキミも偽物。この感覚も感情も意識も偽物。僕達はずっと呼吸もしてない。汗もかいてない。僕らは小説の中の文字の世界の人間か何かで、誰かに沸いたイメージなだけの存在。何も無いんだ。全部偽物なんだそうとしかなんだ!……でもどうしてこんなに苦しいんだ?」「……っ!?……ねぇ!ダメだよ!ダメっ!ダメなのっ!」


全身の鼓動が異常な速さを観測している。呪言が次々と思考を足にして次々と感情を吐き出していく。

急速に何かが落下していく様な感覚に陥っている。

隣にいる彼女の涙目はボヤけて正常に認識できない。とまらない!


「意味なんて初めから何もないんだ。僕は死ぬべきだ。だってこんなにも死にたい想いで一杯なんだ!死ぬ事の何が悪い!死ぬ事の何が悲しい!?死ななければダメなんだ。そう…………僕は死ななければならない。」黒手から黒いナイフを産み出し、躊躇なく心臓に突き立て、肉体を抉る。それが正しいと思考が訴えかけた。罪には罰を。罰が罪なら更なる罰を。大きくなり続ける罪を積み重ねて、バツをつけながらツミあげていくのだ。バツバツとツミあげていくのだ。それらはやがて巨大な塔となり……「死ね。死ね。死ね。「やだ」死ね。死ね。「やめて!ダメ!……ダメーーーーっ!」死ね。死ね。死ね。」何度も心臓に黒いナイフを突き刺さすが何も起きない。切断現象の様な物も発生しない。声すら届かない。なんで、なんで、なんで「……なんで死なないんだよ!」「自分の身体だろう……!自分の好き勝手にできる筈だなんだ!なのに……!」黒い銃を黒手から生成、「えっ…いやだ……」銃口を頭に引き金を引いて

「いやだあああ「ズガーーーーーン!!」あああああああああああああああっ!!!!!!」


何かに強く掴まれたり、揺さぶられたりしたが、難なく成功した。衝撃と共に目の前が真っ暗に……。

なったが、すぐさま意識が戻っていく。どうやら僕は不死身のようだ。

望んでもいないのにどうして?なぜだ?


白髪の少女の顔が僕の顔を覗き込んでいる。彼女の瞳から雫がぽたぽたと頬に落ちてきて……。

なんでそんな悲しそうな顔をする?……辛そうだ。

なぜだ?もっと他にする顔があるだろう?なぜ泣く?なぜそんな表情を?

……彼女は一体……なんなんだ?


セフィロトの光は僕を更に焼きこがしていき、目の前が彼女を飲み込んでまっしろになった。

ポタリと雫の感触が僕の頬を伝った。

■■■

「彼はね、君の遺伝子の半分を持っている。つまりパパなんだ。」

「パパ!!」白髪の少女が無邪気に、きらきらとした光り輝く瞳でこっちを見てくる。

「違う。」(そんな目を向けられて良い人間ではない。)

「パパ!パパ!パパ!あははは!!」

「抱きつくな。……違う。僕は……キミの……。」

「はは、彼女の言う通りだったね。私もキミがそんな慈愛に満ちた表情をするのは初めて見たよ。」

「……。」

■■■


そんな夢を見た気がする。


……気が付いて、僕は瞼を開いた。両目が濡れている感覚があった。僕は必死に声をかけてくれていた彼女に抱きしめられていた。

「ハートを忘れて、マインドに呑まれてはいけないって。……ハカセ。あなたに教えてもらったんだよ。沢山忘れても、それだけは忘れてはダメなの。絶対に。」


「……ごめん。あぁそうか、そうだったのか。僕はハカセで、キミはコノヨだったね。」

「うん。」


たぶん、僕は多くの事を忘れてしまっているのだろう。ただ、僕はハカセ。君はコノヨ。僕は君が大切で、君は僕の事がだ◯◯◯だった。

それだけは思い出せていた。


「使命は……覚えているね?」「うん。この木をあの塔に持っていくの。」

「私はハカセの事信じてるから。」「うん……ありがとう。僕の大切な子。」


コノヨの頭を優しく撫でると、彼女は嬉しそうにほほ笑んで、

もう一度僕を抱きしめた。


彼女の事は、まだあまりよく思い出せない。

ただ、彼女は思い出すとか出さないとか、そんな事気にしていないようだった。


僕に対して強く親しい感情を抱いている。

なにか、それを表す言葉があった気がする。

だ○○す○。


よく思い出せないが、今はこの気持ちだけで十分だった。


先へ進み、光り輝く塔の前まで来た。

不思議とあの異様な暑さはなく、あたたかだった。

「この塔の中に入れば、僕たちはこの塔に暴かれる。それは、僕たちの存在も正体も暴かれ、もう二度と会えなくなる可能性がある。例えば僕たちがそもそも死んでいたとしたら、この塔に入った瞬間お互いに消滅する事になる。もしも僕たちの正体が宝石なのだとしたら、宝石の姿に戻るだろう。」「でもぉ、この牧をこの塔の最上階まで持っていく事が私達の使命なんだよね。」「あぁ。」


「でも、怖いよな。」「ハカセと一緒ならいいの。」

「離れ離れになってしまうかもしれないよ。僕が生きて、君が消えて。」

「ならハカセの幸せを祈るの。幸せになってねって。」

「逆に僕が消えて、君が生きたら?」「……だいすきっていうの。」

なぜか、また目頭から溢れてきそうになった。

そうか、だいすきと言う言葉すら僕は忘れていたのか。


「ハカセはどうなのぉ?」「……正直、耐えられないかも。」

「どうして?」「どうしてだろうな。たぶん君よりはずっと長生きだからさ。歳を取ると素直さを失う事がある。そうしてため込んで、言葉に出来ずに耐えられなくなって、本当はどうなのか言えなくなって、どうでもいいやと後悔と一緒に忘れてく。」

「本当はどうなの?」「コノヨと一緒に決まってる。」

「えへへ、ハカセめんどぉくさいね。」「ふふっ、そうだな。さぁ、また大切な事を忘れてしまう前に、……いこうか。」


「うん。」


塔の中に足を踏み入れ、僕たちの正体は暴かれた。


暴かれた僕たちはどうなったのか端的にいうと、僕たちは互いに消滅しなかった。

特段肉体にも精神にも影響はなかった。


しかし塔の外を見ると、様々な僕たちが映し出されていた。

・独りになり泣き崩れ、僕は自らの脳と心臓に杭を刺した。

 それでも僕は死なず苦しみ続けていた。大切だったんだ。あの子の事が。

 独りで行かしてしまった自分に罰を与えたが完全無欠最強無敵の

 不死身の身体にはどんな罰も罰になり得なかった。罪だけが積み重なっていった。 end。

・独りになり立ち尽くすコノヨ。立ったまま石になり動かなくなっていた。

 生命は気枯れていくと鈍重になっていき、やがて石に、意志だけの存在になる。

 コノヨはイシになった。end。

・僕たちは、青と赤の宝石だった。2人は一対の割れた石。

 ようやく一つになれたのだった。end。

・「私は生きるよハカセ。生きるのは死ぬこともセットなんだよ。」

 ああ、知ってる。知ってるからこそ、戻ろう。クリフォトの森でもう一度

 悠久の時を…… end。


と言った具合に、ハカセとコノヨ。

互いのあり得た可能性が次々と投影されていった。


「なに、これ?」

「あり得たかもしれない可能性の僕たちだ。」

「……真相とは何かが分かったよ。それはあらゆる状態を複合しているという事だ。」

「どういう事?」

「僕たちは、宝石にも成り得たし、お互いに消滅、取り残される事もあり得た。もしかしたら敵同士で殺しあってたかもしれないし、結ばれていたかもしれない。可能性は無限大で全てが複合されている。」

「じゃあ沢山ある可能性の中で、私たちは何故ここにいるの?」

「一つは、僕たちがそう心からそう想った。祈ったからさ。そうなりたいって思ったから、何かに伝わった。

そして、その何かはこの世界を操った。そして僕たちはここにいる。その何かは、もっと僕らが認知しえない存在だという事もあり得る。例えば、僕たちに繋いだ作者の様な存在がいるとして、その作者がそうなるように祈った。イノリした。この未来に導かれた。もしかしたら、読者だってそうイノった。想った。夢想したのかもしれない。"なんでそうしないんだ!"って読者が文句言って、作者がそれに後押しされれば、今の僕たちは存在するだろう?この未来が選択され導かれたんだ。」


「……だとすると私たちは幸せ者だね。」

「あぁ、逆に作者は、あの外の僕らのようにする事もできたんだ。そう、ありえたし、そうして完結させることもできた。でも僕たちはこうして存在している。

僕も君も、神様でさえそれが良いと選んだんだ。」


◼️◼️◼️

「さぁ。薪は還元した。さあ……。」


次の薪を取りに森へ行こう。

と、そうコノヨに言いかけた瞬間。


『多くの者が持つ備え付けの善悪感情は真実を曇らせる。』

『祈りこそが大いなる意志、神の意志。我らの意志なのだ。』

『私はひとまずの答えを出すためにここにいる。それが私の使命だ。』


どこかの記憶。誰かの言葉。

どこまで行っても嘘か本当か不明な声が僕の脳内を走った。

湧き上がる何かによって脳天に電撃が走った。


塔の外側に映る自分達の姿をふと見た。依然として悲惨な結末が繰り広げられている。僕達はもう一度この塔から出て、様々な事を忘れて一からやり直すのか。


それが使命だというのか。


だが、何のための使命だ?誰のための使命だ?何故あんな悲惨な結末しか映さない?


━━━塔を丸ごと根っこから切断していた。

僕の右手にはコノヨが使ったあの黒い斧が握られ、それを上に振りかざしていた。


塔は音もなく真っ二つに割れ崩れて、森に溶けていく。


「やっと終わった……。長かった。」

「そうだね。」

「脱出しよう」


身体の声に従った。もうお前が居るべき場所はここでは無い。そう受け取り、この罪の世界を破壊した。


森も徐々に消滅を始め、白くなっていく。僕たちの身体も白に、光に溶けていく。

━━━塔と、森の世界は崩壊を始めた。

そして、真っ白で、なにも見えなくなった。

















そう、丁度こんな感じに真っ白だ。














 少しずつ断片的ではあるが、この世界に来た経緯を思い出し始めた。僕たちは、とある手段を用いてこの世界に逃げてきていたのだ。


 敵から僕たちは逃げてきた。そしてこの世界の夢に罹った。この世界では何もかもが順調で、いつの間にかここは僕達のユートピアとなっていた。


 9千億年という長い期間を経ても僕達の肉体は滅びない。永遠に終わらない。ここで永遠に幸せで居たかった。


 でも結局、真相に辿り着いた僕たちは、夢から醒めざるおえなくなった。それでも良かったのかもしれない。


 僕はコノヨを大切に、愛情を与えることに喜びを感じていた。そして、彼女の温度の乗った言葉に何度も救われてきた。手のひらの警告文を見てから、先ほどまでのやり取りだって、ほんの一端にすぎない。もっと沢山助けられて愛された。


 それがいまこうして、分かったのだ。あのままであれば、そういう繋がりの喜びすら見出せなかっただろう。


 ……さて、もうすぐ目覚めの時が来る。世界は色付き、確かな肉体の感触を以って、次の理想郷を目指すことになるだろう。


 果てのない世界を巡り巡って、満足するまで歩みが止まる事はないのだ。


■■■


 僕の名前は、愛結崎 カズヤ。proto01というとある研究の実験体として産まれ、後にハカセという呼び名で呼ばれた男だ。


 紆余曲折あって今こうして覚醒の時を迎えた。


 立っていたのは、白く硬い不思議な材質の上。キタァン…キタァン…と不思議な足音が空間を反響するタイル状の真っ白な不思議空間だった。


 そして目の前にあるのは、立方体を縦半分に切ったかのような不気味な半顔のバケモノ。


 その半顔の断面からは、ドロドロとした黒いモノが流血のようにあふれ出し、その中から今度は黒いどろどろと蠢くバケモノが出てきた。赤く不気味に光る双眸がこちらを捉えている。


 目の前の半顔の事は直感が知ってる。脳の海馬がイカれてもこの世界の痕跡達が知らせてくれる。


━━━99.99%の純度で顕現した極めて純粋なる悪魔の中の悪魔。


 アレはこの果ての時を終わらせるために産まれた存在。僕たち観測存在に対する暗闇の役割を持つ存在。


 僕はこの悪魔に打ち勝たなくてはならない。でないと先へは進めないのだ。


 終焉の次には、すぐに始まりがあるのが道理だ。今はその始まりの前の前座。終わりの始まりが、始まり前の終わりの始まりが、いま始まろうとしていた。

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