かなり珍しい王道和風ファンタジー
所謂なろう系や外国のファンタジー類に見られる高速詠唱後付け系ではない、まさに王道。
一番上の力がここだと決められており、良くある敵が強い、強くなって打倒、敵が強い、強くなって打倒という不毛極まりない少年雑誌系ではないのもかなり良かったです。少々間誤付くのが玉に瑕ではありましたが。
日本の物が使われているために先行した勘違いを、良い意味で騙してくれているのも中々に面白い書き方でした、素直に脱帽です。
ただ、惜しむらくはフラストレーションを発散させてくれないところでしょうか。
この作品は追放から始まり、百話を超えて遂げる、つまるところざまぁをするのですが。
その手法は小出し少し溜まる小出し少し溜まるの連続で、さらに一端の終わりを迎えても今まで募った苛立ちを解放するほどでもなかったのが実に残念でした。
納得は出来るけど、釈善としないと言った所。
ただ、所々にあった何故?をちゃんと話数は大分跨ぎますがちゃんと答えをくれる所は本当によかったです、最近は結局そこまで掘り下げないのかってなる作品は多いので、これからもその答え合わせが頂ける作品だと信じれるものでした。
長大な作品になるでしょうが応援したくなる、良作でした。
ニコニコで漫画版を読んでいましたがここからというところで早々に終了してしまい、続きが気になったので原作も読み始めました。
舞台は蒸気機関が発展したやや近代的な和風な国 高天原。五柱の神を奉る三宮四院が統治し、全ての生命に精霊が宿り、穢れと呼ばれる魔物との戦いが繰り広げられます。
作品の特徴として神道をもとにした要素が強く、やや難しい漢字や古風な読み方が使用されるのでとっつきにくく感じる人も多いかと思いますが、要素だけ取り出すと「一族郎党に迫害されていた無能スキル持ちの主人公が実は最強だった」という割とよくある設定です。さらにいわゆる古典的な「漢字仮名まじり文」のリズムが非常に良く、古くは琵琶法師、現代でも講談師の語りを聞いているかのような名調子で話がテンポ良く進んで行くのが和風モノとしての大きな魅力です。
例として主人公がうどんをすするシーンの描写を引用しますー
ほ、ほ。太く短い息を繰り返し、腹の底を灼く熱を外に逃す。
考えてみれば、一日どころか二日ぶりのまともな食べ物に、身体中が喝采を上げた。
うどんの次に、油揚げの端っこに噛り付く。
甘辛く煮られた油揚げが、僅かに香る山椒の香味と共に喉を滑り落ちた。
このように一つ一つは短い文章で読みにくい構造になる事が全く無いため、実際は非常に読みやすい作品です。和風ファンタジーモノを探している人で、神道文化について一般常識的な知識が全く無いという人で無ければ、かなり楽しめる可能性が大きいでしょう(あまりに専門的な用語などはありませんし、調べながら読むのも楽しいかと思います)。戦闘シーンが多く、陰陽道の五行運行の原理を元にして精霊技というスキル(必ず技の名前を声に出して発動)で戦うなど、「ゲーム的お約束要素」も強いです。
特に主人公の生来の素質の秘密が明かされる4話 「伽藍に在りて、少女は微笑む」のくだりから加速度的に面白くなる印象ですので、興味があったらとりあえずそこまで(18話分)読んでみることをお勧めします。