第2話 目視していた性癖 榎田若葉との出会い
「えー、それでは今日の授業はここまでです…お疲れ様でした」
チャイムの5分前に終わった講義、受けていた生徒達はチャイムより前に講義終了を伝えた教授に対して多少の感謝を持ちつつ、各々次の場所へ向かった。
「終わった…あーあ、家に帰って少し纏めないと…」
そんな事を呟きながら文字の大きさがバラバラの決して綺麗とは言えないノートを眺める。
基礎単位として受けた統計学の授業は、まだ基礎であるが頭が痛いほどにちんぷんかんぷんで松嶋翔は溜息をついた。
もし、この授業に友達でもいれば知恵を出し合い協力して課題に取り組めたのだろう。しかし、文系の彼が適当に履修した授業に友人の顔など存在する訳もなく、彼は自力で課題解決するしか無かったのだ。
「とりあえず、カフェにでも行こうかな〜今日はバイトもないし。それに…」
今日の夜はこの前買ったあのロリータチックな洋服を着て外を散歩しようと決めていたのだ。
家に届いたあの日は、とりあえず家で着用しただけど満足していたけれど、やっぱり洋服を揃えたのなら着替えて外に出てみたい。
今の見た目なら、たとえ昼間は難しくても夜の遅い時間であれば、バレることはない。
それに、決して犯罪をしたい訳じゃないのだ。自身の性をオープンにする、自分がなりたい姿へ変身をして街へ出る。最も言葉では簡単に意味表せる行動なのに、勇気が出るまでに時間が掛かったのはやはり異性装へ少しばかり恐怖を感じていたのだろう。
(やめだやめだ。考えすぎると碌な事がない)
気がつけば教室にいる生徒の数はまばらになっていた。時計は授業が終わって本当の終了時刻から5分ほど経過していたのである。
彼もノートやスマホなどをポケットに仕舞い、教室を出ていき、学校内のカフェへと向かったのだった。時計は午後の4時5分を示している、まだ日が暮れるには少しばかり早い時間帯だった。
・・・・・・・・
放課後のカフェスペースは少しばかり混在していた。やはり、放課後という時間帯も関連しているせいだろう、固まって友人たちと談笑をする声が聞こえる。会話内容はきっと、講義のことについてか恋愛、バイトといった内容だろう。
ちらほら聞こえる会話を耳にしながら彼はカフェラテを購入し、窓際のカウンター席に座った。
唇が火傷してしまうほどに熱い飲み物をゆっくりと体内に摂取していく。開いたスマホの画面と帰宅する生徒を眺めたりなど、目は忙しなく動き続ける。
(あ、あの人可愛い…どこで買っているんだろう…)
11月の季節になれば、女性たちの服装も必然としてガードの硬い服装となるのだが、松嶋翔にとっては夏よりも好きな季節であった。
服のコーデというのは、多く着用する事になればなるほど難しくなる。色合い、その日の気温、流行などをオシャレとして着飾る女性たちは考えないといけないのだ。さらに合うメイクともなれば、考える項目を増えていく。未だ、ファッションサイトにてモデル女性のコーデを参考にして女装をしていたのだ。
(あ、そうだ…新しい下着を見てみようかな、もうだいぶ壊れてきたし…)
カップの形が崩れたり、ブラの紐部分がよれている下着が頭に浮かび彼はスマホのブックマークから下着の通販サイトを眺めていく。新作やセールなどが小さい画面に写る。モデル女性の綺麗に着飾った姿は、購買意欲がそそるのと同時に男性としての肉体であるが故、彼女たちのような綺麗な姿に変身することはできないのだと、ちょっとばかり気持ちが落ちてしまった
「……あれ、松嶋くんじゃん」
スマホの画面に集中していたせいか、あたりを確認することができず自分の名前を呼びかける声にようやく反応を見せた。呼びかけられた方向に顔を向けると1人の女子大生が立っていた。
榎田若葉
明るい茶髪の長髪にグレー色のショートレザーパンツを履木、タートル状の白ニットの上から黒のダウンジャケットを着用している。真っ白な生足の爪先は黒のレザーショートブーツで着飾られており、細身の肉体は男子生徒の目の的になるほどであった。C〜D程度の胸は白のニットによってより、大きく見える。ピンクのリップとアイシャドウによって綺麗に塗られたメイクは冬の寒い時期においても、華やかさを感じさせる。
「え、榎田さん。久しぶり…あ、あれ?今日って授業は…?」
「え、私も松嶋くんと同じ統計の授業とっているんだよ?知らなかった?」
「まぁ、私って普段後ろの席に座っているから気づかないよね〜。それに大体、松嶋くんの座っている列の後ろあたりに座っているからかな?」
知らなかった、彼女が同じ授業を履修しているなんて。しかし、彼が知らなくても当然ではあった。なんせ、彼は同じクラスの榎田若葉とは属性が違っていたのだ。15名ほどのクラスであるが、彼は少しばかり影の人。所謂、インキャという所属なのである。かたや榎田若葉は見た目と関連して、イケイケの陽キャ系のグループで学生生活を送っていた為、関わるとしても挨拶をする程度であった。
「ねぇ、隣座っていい?なんか席いっぱいだからさ、ここしか空いてなくて」
「あ、あぁ!どうぞ!」
ありがと、小さく微笑んで彼女は隣に座る。ふと、香ってきたのは彼女の香水だった。化粧の匂いに慣れているためか、彼女がつけている香水の匂いがどういったブランドか頭に思い浮かぶ。変態かと思うかもしれない、けれど異性装をしている身としては、そういった香りがつけて街を歩くことが目標でもあった。
「松嶋くんはここで何をしてたの?統計のまとめをしていた訳ではなさそうだけど…」
「え、あー…通販サイトを眺めていた感じかな?その、消耗品を買おうと」
「ふ〜ん、でも松嶋くんって男の子だよね?ブラジャーとかは必要ないんじゃないの?」
「えっ……?」
言葉が出なかった、なぜ彼女はそれを知って……もしかして……!?
「ごめんね〜チラッと見えちゃったからさ。でも、教えてよ?松嶋くんがなんで女の子の下着の通販サイトを眺めていたことをさ」
これが奇妙な2人の関係の始まりである。
恋煩いの荒療治 かきこき大郎 @kakikok-taro
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