私の身体にはえんぴつが埋まっている

kayako

誰だって、傷の一つや二つ。

 

 私には、人に見せられない傷跡がある。


 そう――あれは幼い頃、工作をしていた時のことだ。

 厚紙を組み立て、えんぴつを柱にして家を作る。よくある子供の流行り遊び。

 みんなが得意げに工作を完成させている中、不器用だった私は全く出来なかった。

 特に厚紙にえんぴつをうまく刺しこめず、四苦八苦。


 そのうちに――

 何と勢い余って、えんぴつを左手に刺してしまったのだ。

 正確には、左手の人差し指と親指の間。

 痛みに当然大泣きして、駆けつけた親に即刻医者に連れていかれ、大事には至らなかったものの


 ――それ以来、私の左手には黒い傷跡が残った。えんぴつの芯の炭素が、執拗に皮膚の内側を染めたまま。

 痛みは全くないが、十年以上が経過しても、指の間にはホクロに似た黒い傷がくっきり残っている。

 それが何だか恥ずかしくて、私は学校でも左手を隠しがちだった。



 でも、そんな私にちょっとした変化が起きた。

 新学期の席替えで、指田さした君という男子と隣同士になった。イケメンだけど少し不愛想な男子。

 最初は、ろくに話も出来なかったが。


 ある日の授業。

 少しどもりつつ、「ごめん。教科書忘れた」と呟く指田君。

 右隣りの私は、躊躇しつつ教科書を出す。

 こういう時もやっぱり、左手をちゃんと見せることが出来ない。恥ずかしくて。

 何とも不自然に教科書を見せる私だったが、その時。


 あれ?

 指田君の右手。

 親指と人差し指の間に、見覚えある黒い跡が――


「あの、指田君、それ……?」


 思わず尋ねてしまった。

 すると彼は呟く。頬が赤い。


「小さい頃、弟と喧嘩してさ。

 刺されて、埋まってるんだ……えんぴつが、俺のここに。

 バカだろ? ずっと恥ずかしくてさ」


 嘘――

 私だけだと思っていたのに。


 思わず私も、自分の左手を差し出した。

 頬がほんのり熱くなっているのが自分で分かる。


「あ、あのね……

 私も、あるよ。だから――!」

「えっ?」


 仲間だね。

 そう言おうとしたけど、言えなかった。別の意味で恥ずかしくて!




 十年後。

 私にも夫の身体にも、未だにえんぴつが埋まっている。

 でももう、恥ずかしくなんかない。

 子供がもしえんぴつを埋めたとしても、堂々としていなさいと教えるつもりだ。

 傷の一つや二つ、誰にでもあるのだから。




 Fin

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私の身体にはえんぴつが埋まっている kayako @kayako001

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