第13話 食卓

「ちょっと、2人とも大丈夫?ご飯後にする?」


父と娘の空間に母が申し訳なさそうに入ってくる。

私は、だいぶ父に慰められ元気になった。

そして、父も言いたいことが言えたからなのか安堵の表情になっていた。


父は、私の頭からそっと手を離し一言。


「飯食うか」


笑顔でそう言ってくれた。

父のこんなに輝かしい笑顔を見たのは何年ぶりだろうか…。

顔は私だが…。


私は、まだ瞼に残った涙を手で擦りながら返事をする。


「うん」


そう言うと、母は笑顔で食事の盛り付けをしてくれた。

今日の、晩御飯のメニューは春巻きとサラダ。

母の料理は、いつも香りが立ち今日もダイニングいっぱいに春巻きのいい香りがしていた。

私は、その匂いで食欲がゼロだった体が回復していき食欲のバロメーターが一気に上がる。


「さあ、お父さん、咲希準備できたよ。椅子に座りなさい」


母の、その言葉で私と父はダイニングの椅子に座る。

そして、3人手を合わせる。


「いただきます」


早速春巻きに箸を伸ばす。

噛むとパリッと音を立てて中からは肉汁と具が溢れ出てくる。

やはり、母の料理は逸品だ。


みんな、無言で食べ進める。


食器の音が鳴り響く。

沈黙の、食事の時間に父が笑顔で喋り出す。


「咲希、今日お前と入れ替わって思ったんだけどお前も大きくなったな」


何年も沈黙だった食事の時間が破られた瞬間だった。

すかさず、私は反応する。


「そうかな…」

「うん、成長してるんだな」


父にそう言われたことがとても嬉しかった。

心の海底で眠っていた、認められたいという感情。

私は、その感情が刺激されることを望んでいたのかもしれない。


「咲月、ビールを持ってきてくれないか」

「お父さん、その体でビール飲めるの?」

「あ、忘れてた。この体じゃ飲めないのか!」


今日の食卓には昔のように会話がある。

私が、求めていたのはこれだった。

この景色だった。


また、思わず涙腺が緩んでしまう


「どうした、咲希」


父が真っ先に反応する。


「いや、なんでも…」

「停学の件は、本当に申し訳ない。でも、この件は父さんに任せてほしい」

「うん…」

(お父さんって結構頼もしい人だったんだな)


これほど、頼もしい父を見たのも久しぶりだった。


そんなこんなで。食事を終える。


「ごちそうさまでした。お母さん今日もおいしかったよ」

「何、急に笑。ありがとう」


母は笑顔でそう答えながら食器を片付ける。


食事を終えると、久しぶりに部屋には直行せずリビングでテレビを見ようとソファーに座った。


久しぶりにテレビを見る。

バラエティがやっていて、見慣れない芸人がトークを繰り広げている。

(いつぶりだろう、こんなにじっくりテレビ見たの)


「隣、いいか」


その声がしたので、横を振り向くと父がマグカップを2つ持って立っていた。


「いいよ」

「はい、失礼します。ほい、ほうじ茶」


父は、隣に座ると私にほうじ茶を渡す。


「ありがとう」


そのほうじ茶を飲むと味がイマイチで苦かった。

料理系が苦手な父らしい味だった。


しばらく、2人無言でテレビを見続ける。

すると、母が皿洗いを終えて私たちのところにやってきて一言話す。


「お父さんも、咲希もお風呂どうするの?」


「あ」

「あ」


私と父は口を揃えて同じ言葉を発する。

私と父は2人揃って唖然とした。

(すっかり忘れてた!どうしよう…)


父は、先に意見言った。


「俺は、別に構わないから咲希がどうするかだな」

「入るのも入られるのも嫌だし、入らないのは汚いし…」


メリットとデメリットを天秤にかけじっくり考える。

でも答えが出ない。


「どうしよう…」


私が、焦っていると母が提案する。


「とりえず、お母さん入ってくるからその間じっくり考えてなさい」

「うん」


そして、母は浴室に行ってしまう。

父とリビングで2人きりになる。

少し、緊張した。


少しの沈黙を父が破る。


「本当に、咲希の好きにしろ。じっくり考えろ」

「うん」


(やっぱり入ったほうがいいかな。お父さんは明日学校に行かないからいいとしてもお父さんと入れ替わってる私は明日普通に仕事あるからな)


じっくり思考を巡らす。

すると、父が真剣は顔つきで口を開く。


「咲希、俺が今日学校であったことを詳しく話す」


私は、緊張で息を呑んだ。

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女子高生の私が父親と体が入れ替わった件 一ノ瀬シュウマイ @syuumai5533

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