51 エピローグ

瞬へ


 お元気ですか。お身体の調子を崩していませんか。ご飯はきちんと食べていますか。母さんは元気です。心配しなくて大丈夫ですよ。

 あれから長い月日が経ちましたね。母さんは、被害者の方々の冥福を祈る日々を送っています。

 伊織さんとも話しました。彼も体調が思わしくないようですね。瞬に会いたい、としきりに言っていました。あなたたち兄弟の絆が母さんの考えている以上に深いことを知りました。

 これは、知りたくないことかもしれませんが、やはり伝えておいた方がいいと思ったので、打ち明けます。

 母さんは、不倫だとわかっていてあなたを身ごもりました。そうでもしないと、父さんを手に入れられないと思ったからですよ。

 若い頃の過ち。そう言ってしまえば簡単かもしれませんが、今では強く悔いています。伊織さんの家庭を壊し、あなたを生み出し、運命を狂わせてしまった。

 あなたの罪は、母さんの罪です。あなたが償いきれないというのなら、母さんがそうします。

 母さんは、一軒一軒、被害者の方々のお宅を回って謝罪しました。とても辛いことでした。罵声を浴びせられ、物を投げられたこともありました。

 梓さんのご一家には、面会を一切拒否されました。手紙を送ることすら許されませんでした。

 瑠璃子さんのところは、わざわざ関西まで来てもらったから、と比較的話を聞いていただけました。

 海斗さんについては、あなたと同性愛の関係にあったということで、酷く動揺されておられました。

 奈々さんのお父さんは、あなたを極刑にすべく運動を起こされましたね。もちろん母さんの話など聞いてはもらえませんでした。

 青木さんは一家の大黒柱を亡くしたということで、ご家族は大層落ち込んでおられました。

 命の一つ一つの重みを、あなたはしっかりと受け止めることができているのでしょうか。そればかりが気がかりです。

 優しい子に育てたつもりでした。動物が好きでしたね。父さんに無理を言ってでも、飼わせてあげればよかった。そうすれば、あなたも変わっていたかもしれません。

 でも、それも全て過ぎたこと。そもそも、不倫の末の子としてあなたは生まれてきました。人並みの幸せを願う方が間違っていたのかもしれません。

 父さんのことは、よく夢に見ます。若い姿で、母さんを包み込んでくれる夢です。本当に素敵な人だった。でも同時に、罪深い人だった。

 そんな人を、母さんは愛してしまいました。あなたの手にかかったと知らされた時、奪われた、という思いでいっぱいになったのが実際のところです。

 あの本なら読みました。やっぱり、あなたの気持ちは母さんにはわかりません。わかろうと思って努力はしていますが、一生無理なのかもしれません。

 どうか、あの六人のことを忘れないで。今のあなたは、話をすることすら難しいと聞いていますから、この手紙も読めないかもしれませんが、それでも伝えます。

 あなたは本当に残虐なことをしました。それでも、あなたは母さんの息子です。母さんはあなたを愛しています。

 いつか、あなたが生まれ変わったら。その時は、伊織さんと同じ家で育つ兄弟に生まれてくるよう、祈っています。


母より



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