第55話 高貴なる護り手 大学都市
「そのアーティファクトは無事に届いたんですか?」
オッダンタ・プリ大学都市にリュトが用意した部屋は白壁の瀟洒なターラナータホテルにありました。
本体は回廊のような構造になっていて美しい中庭がありました。
中庭には良い香りの花が咲く大木が一本あって名を“鳳凰樹”とリュトが教えてくれました。
私とリュト(リュティア)の続き部屋は本館3階の奥にあります。
東向きの窓からは周囲のパパイヤなどから良い香りの風が吹きました。部屋を出て廊下の西側の窓からは鳳凰樹の花の香りがしました。
「アーティファクトは“夜のワンド”と呼ばれるようになったんだけど。とりあえず大学の金庫室に納められたのね」
リュティアが続き部屋の居間のソファで話を継ぎました。
「機能は分かったんですか?」
「夜のワンドというのは機能から来てるのね。闇系の強力な魔法付与が為されていたの」
私は良く冷えたマスカットを口に入れて先を聞いていました。
「闇系とするとドレインとかインヴァリッドとかハイディングとかですか?」
リュティアもマスカットを食べながら応えました。
「そうそう。闇の要素が必要な魔法の能力を増強する機能があったわね」
「闇ギルドや闇カルトが所有したら危険ですね」
「それは言えてる。すっごい危険だと思う。まぁアーティファクトは何でもそうですけどね。なのでグプタの首都の帝国魔導科学院に送る必要があったの」
「送れたんですか?」
本来の姿のリュティアは弱い視覚阻害を解いているのでニコニコ顔が艶やかです。
「それがね。大変だったのよ」
リュティアの大変ってどんなだろ?私は興味深々でした。
※※※
オッダンタプリ大学の当時の学長だったクリシュナ・リジャール教授に頼まれた私は長距離転移でグプタ帝国の首都アウランガバードに跳びました。
正確にはアウランガバードの城壁の外にね。
アウランガバードはこのオッダンタプリをうんと大きくしたような構造なのね。
中央には皇帝陛下の居城であるアウラ城。赤の城と呼ばれて最も大きいのよね。
他に皇族全員の居城とかマリア教の大聖堂とかあるの。
帝国魔導科学院は黒の城と呼ばれるカーラー城にあるの。
またアウランガバードの外には大貴族の居城が32あってそれぞれ城塞都市になってる。
私はまずアウランガバードの東城門の前に跳んだのね。
そしたら俄かに黒い雲が現れて真っ暗になったの。
空に数人の魔導師が現れて囲まれてたのね。
まぁ闇ギルドや闇カルトの魔導師はイマイチ恐く無いから私は緑のリュトのままで落ち着いてたの。
そしたらまず心話が大ボリュームで聞こえてきたのね。
『お前が運び人か。アーティファクトを素直に渡せば良し。さもなければ私の召喚獣が相手になる』
そして空間転移の輝きがあって巨人が召喚されたわ。
腕が10本あるヘカトンケイルでした。
周囲の人たちは避難してたから邪魔も無くて割と都合が良かったわ。
私はグリーンジプシーとラストローズを左右に従えて攻撃に備えたの。
もちろんシールド関係は3重に張ってました。
ヘカトンケイルが10本の腕を上げて咆哮すると気候変異があって特大の雷が降ってきたの。
とんでもない強力な雷だったけど私はクレセントムーンを顕現して全ての雷のエネルギーを吸収してやったの。
ドレインは私の得意な魔導ですから。
そして周囲の魔導師たちに打ち返してやったのよ。
彼らは慌てて帰還したわ。
全力の初撃を防がれてそれ以上のパワーで返されたら逃げるしか無いわね。
そこに騒ぎを感知した近衛防衛軍の人たちが駆け付けたの。
おかげで私は速やかに皇帝陛下にお目見えを果たせたしアーティファクトは帝国魔導科学院の長官に届けることができたわ。
だから私はこの国では何処でもリュトのままが都合が良いのよ。
リュティアになれば「あんた誰?」と言われてしまうかも。
だから私がリュティアでいるのはあなたの前でだけ。
宜しくお願いしますね。
※※※
リュティアの独白のお陰である程度の様子が分かりました。
右が銀。左が深紅のオッドアイは美しい少女の顔に不思議な威厳を与えていました。
リュトになると右が銀。左は碧眼に変わる上に認識阻害の魔法のおかげでちょっとコミカルな印象になりますね。
それでも健やかですんなり伸びた指や脚のしなやかさは私の大切な友人ロザリンドと同様な武術の強者のただならない雰囲気さえ有しています。
ロザリンドや私たちの武術の師匠であるクラリセ教授はリュティアの強さを高く評価していました。
きっとリュトの姿でも相当強いのでしょう。
リュティアの変身能力は身長まで変えてしまうようですから男性形の場合はイフィゲーニア教授とかわらぬ長身であることが多いです。
それでも私は本来のリュティアの姿の方が落ち着きますね。
一日目はホテルに落ち着いてしまいましたが明日からは大学に行って手続きなどが必要な様子です。
私は大人しいWLIDのクトネシリカと明日の予定を考えていました。
まず美味しい食堂を見つけたいものです。
全く新しい土地なので味覚を開拓したいですね。
ましてやこの国は美食で有名ですし。
そしてグプタ帝国に来るに際しリュティアはある助言をくれました。
「この国は一見多様な文明が入り乱れた国のように見えるけど。実際は違うわ。文化のレベルではもちろん多様ですけどね」
「どう違うんですか?」
「文明は共生できないということよ。文化のレベルでは多様でも言語はほぼ単一ですし。料理も似たようなものを食べているの。宗教も多様に見えて実はガネーシャ教団の教義で全て解釈されている」
リュトはその姿の時は普通は緑の帽子で緑の服の旅人の姿です。
でも考古学の立場の時はアウトドア系の衣服を着こなしています。
これは恐らく仕事柄便利だからでしょう。
今回は私もリュトに倣ってアウトドア系の衣服を纏うことにしました。
恐らくオッダンタ・プリ大学の中ではイシュモニア風の白魔導師の姿よりも目立たないでしょう。
しかし巨大なグプタ帝国を統一する文明の姿とは?かなり興味深いですね。
リュトによればオッダンタ・プリ大学はまさにこの国の縮図だそうです。
その意味でも楽しみですね。
※※※
次の更新予定
星わたり時わたり夢わたり アルディス夢乃サエルミア @yumenoardis
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