第54話 高貴なる護り手  アーティファクトのワンド



村長さんのところでリュトがお話している間にあの子供がみんなにチャイを配ってくれました。

どうやらあの子は村長さんのお孫さんの一人のようでした。

チャイはショウガとシナモンが入ったミルクティーで素焼きの器は飲み終わるとみんな地面に捨てて割っていました。

私は割り捨てるのが忍びなくてクリーンの魔法をかけてからストレージにしまいました。

子供は私を注意深く見つめた後で自分の名前を教えてくれました。

アモーリ。尊いという意味の女性の名前でした。

男の子だと思っていたのですが女性だったんですね。

アモーリ・サラスワティ・アチャーリア。それが彼女の本名でした。

恥ずかしそうに大事な名前を教えてくれたので私も自分の名前を教えました。

少女は30歳になるまでは男の子のような様子で普段は男の名前を名乗り学校に行くそうです。

これを現地の言葉でバチャ・ポッシュと言うそうです。

30歳は私のいた世界での15歳ですからちょうど女性の成人の歳ですね。

面白い風俗だと思いました。

男の恰好の方が何かと安全だからでしょう。


リュトたちの話しが終わると私たちは村長に挨拶して村を離れました。

「あの村こそがオッダンタ・プリの村だよ。

おそらくあの地面の下には古代の遺跡があるだろう。

これから行く大学都市オッダンタ・プリは古代の都市にちなんで新しく作られたんだよ。

っていってももう数百年経つけどね」

なるほど。

「サガルハワーの遺跡は?」

私は聞きかじった遺跡の名前について問いました。

「あの村の近くには三つの遺跡があって調査されている。

一つがサガルハワー。

もう一つがガウティハワー。

そしてラーマグラーマのストゥーパ。

僕はサガルハワーの調査に関わったんだ。

それが20年前。君がこの世界に来る前だね」

考古学的に興味深いエリアであることが分かりました。

「杖はその時に見つけたんですね?」

ちょうど私が質問した時。XX-9は大学都市の正門に到着しました。

「その話は後で詳しくしよう。

さぁ到着だ。オッダンタ・プリにようこそ」



※※※※


広大な大学都市は3つのエリアに分けられていました。

最も内側にあるのがオッダンタ・プリ大学です。

その外側が商業エリア。

最も外周には城壁が廻らされ城壁と商業エリアの間には住宅と果樹園のエリアがありました。

私たちの宿泊するターラナータホテルは住宅エリアにありました。

マンゴーやパパイヤの果樹に囲まれいつも良い香りがしました。

部屋はいわゆる続き部屋で私たちは個室に宿泊する形ですね。そしてそれぞれの個室の間に居間と小さなキッチンがありました。

個室にはトイレとお風呂もあります。

これでかなり快適に暮らせそうですね。

荷物の殆どはもとからストレージにありますし。部屋を空けて清掃してもらうのも何の問題もありません。

まぁ部屋はクリーンの魔法で私たちでも清掃できますし。

魔導師の正装は余りにも目立つので当分は防御性能もあるアウトドアの恰好をすることになりました。

リュトは二人だけで部屋にいる時以外は男性の恰好ですし。

弱い認識阻害の魔法でお顔は良く分かりませんが何しろ元々が超絶美少女のリュティアです。

目立ってしょうがないと思うんですけど村の人々の様子からは別に違和感は無いようですね。

まぁ二人きりの時はリュティアに戻るので私もあまり違和感はありませんけど。

「なかなか似合うわね。アースカラーのアウトドアの衣服」

「リュトも男性用のアウトドアの服装に違和感はありませんよ。でも部屋では女性形でしかも寝間着?」

「だって食事か寝るかだけだもん」

まぁ確かに。それはそうですよ。

すべすべ艶々の美少女が薄着でいるのは目の毒なのか保養なのか?ちょっと考える価値がありますけどね。

「そうだ杖の話だったわね」

遺跡から出たとか。

「発掘中に私が見つけたの。アーティファクトらしい杖だったけど」



※※※



「リュト!」

「何か見つけたのか?」

仲間が寄って来た。

私はサガルハワー遺跡の東南の祠らしき遺構の中。

余りにも規模が小さい遺構だったので任されていたのだ。

建築用の水糸を縦横に張って遺構のスケッチと遺物のスケッチを行う地道な作業。

水糸が交わる交点からそれぞれの距離を測る道具はコンベックスという。

スケッチの重要点に垂直に垂れる錘を使って各ポイントを方眼紙に落とすとそれぞれの点を筆記用具で繋いで絵にする。

時間が無いとクレセントムーンに頼んで写真測量に切り替える。

しかし時間があるなら自分の手でスケッチしたい。

写真はやっぱりレンズの歪みがあるので。本当の測量図としてはちょっと厳しい場合が多い。

私が教えた何人かのエンジニアや測量技師やカメラマンは全員素晴らしい実測図を描くようになっている。

なので私はこの小さな祠に没頭できた。

2層目の実測図を描き上げた私は次の階層を探りながら遺物を精査した。

この遺跡は素材的には全体的にレンガの割合が高い。その為砕けたレンガと完成品のままのレンガが混在している。

実測する時に完成品のレンガと砕けたレンガの質感の差を表現するのが難しい。

大いに絵心が試される遺跡だった。

その杖は完全なレンガに囲まれたちょっとした空間に置いてあった。

薄く光ったような黒いワンド。

如何にも魔力を感じさせる細かい宝玉の飾りが片側にあり反対側はすっきりしていた。

一目でアーティファクトと分かる存在感。

私は駆け寄ってきた友人たちにそのワンドを掲げて見せた。

「おぉ!」

「良いね」

「これが眠ってたとは!」

「早く首都の研究チームに届けたいね」

「大学の金庫にまず入れないとね」

仲間の声が嬉しかった。

ひょっとするとと思っていたこの遺構。大当たりでした。

「記録はとったんだよね?」

リーダーのシェレスタが確認してきた。

「もちろん」

それは問題ありませんでした。

「ならもうリュトはそれを運んでくれ。私らで後始末はするから」

サブリーダーのアラムが言うので私は有難くアーティファクトをセーム革にくるんで運ぶことにした。

「じゃ!宜しく~」

私のクルマ。TATAのXX9のチューンアップされた魔導エンジンも快調でした。

オッダンタプリの村を通って大学への道を長閑に走りました。



※※※



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