【短編】無駄にスケールのでかいパーティー追放もの

八木耳木兎(やぎ みみずく)

【短編】無駄にスケールのでかいパーティー追放もの





「断る」

「うっ……!!」




 冒険者の集まる酒場のなかで、俺は、目の前の男の頼みを拒否した。





「俺はもう金輪際、お前たちのパーティーに戻る気はない。悪いなアーティー」


「そ、そんな……なぁ頼むよカミーロ……ちょっとちょっかい出した連中が魔王軍の幹部集団でさぁ、俺のパーティー、今ピンチなんだよ……他のパーティーメンバーも人質にとられてるんだ。冒険者として覚醒したお前さえ戻って来てくれれば、なんとかなりそうなんだ、な? もちろん報酬はうんと弾むから! お前をリーダーにしてやってもいいぜ」

「金や地位の問題じゃない」






 今言われた通り、冒険者の俺はかつて、目の前の勇者・アーティーがリーダーを務めるパーティーに所属していた。


 故郷の幼馴染同士で結成されたパーティーは最初こそうまくいっていた。しかし、パーティーとしての冒険に慣れてきたある日、ある悲劇が俺を襲った。







「お前たちが過去に俺を追放したこと、忘れたとでも思ってるのか?」


 一年前、アーティーたちパーティーメンバーは俺のことを天邪鬼とののしって追放したのだ。


 確かに俺は、あの時のアーティーたちに比べて、パーティーに適合できているとは言い難かったかもしれない。


 だが、助言や警告などを一切せずに、いきなり追放を言い渡されたことで、あの時の俺は深く傷ついた。





 追放を言い渡された時感じた屈辱は、いまでも癒えていない。


 例え思わぬ縁によって、チートスキルに覚醒し、目の前のアーティーすら遥かにしのぐ力を身に付けたとしても。


 心から慕い合えるメンバーに囲まれ、アーティーのパーティーにいた頃よりも遥かに充実した冒険者生活を、今過ごしているとしても。







「なぁ、会わなかったから知らないんだろうけどさ、お前が冒険者として覚醒して、元気でやってるって聞いて、俺すっげー嬉しかったんだぜ……? 幼馴染じゃねーか、また一緒に楽しくやろうぜ……」


「いくら言われても、俺は答えを変える気はない。いいか? パーティーに戻って来いと言われたってな……もう遅いんだよ!」






 俺は静かに、だが語気だけを荒げて言った。


 こいつに与えられた屈辱の過去を、反芻するかのように。






「わかったら、とっとと出てってくれ。もう会いたくない」


「うぅっ………………くそぅくそぅくそぅ…………………勇者として今まで正々堂々と冒険して来たのにッッ……!!!」









 絶望して膝から崩れ落ちるアーティーを見下ろす俺。


 はたから見れば俺が悪者のように見えるかもしれないが、こいつが過去に俺にしたことを思えば当然の報いだ。


 そうだ、俺はかつて。


 

 この男が率いるパーティーから追放されたんだ……
























◆ 1澗4952穣8911𥝱6139垓1144京3079兆9997億1298万3434年前 ◆













◆  どこかの世界線の生物とか酸素とか一切ないどこかの星  ◆













―――お前はパーティー追放だ、カミーロ



 一瞬、言葉の意味を飲み込めなかった。



―――な、何を言ってるんだ……? アーティー



 俺・石のカミーロは、パーティーリーダーである石のアーティーにその意味を問いただした。



―――言葉の通りだ。お前をこれ以上俺たちの石パーティーの一員として認めるわけにはいかない



 火山の河口付近で、俺の向かいに座すパーティーリーダー・アーティーは、固い決意が見える口調でそう告げる。



―――な、なぁ……いきなり追放なんてあんまりじゃないか。考え直してくれよ……


―――自分の【色】を見てからいったらどうだ、カミーロ?



 その言葉に、俺は自分の身体を見返して黙りこくった。

 

 アーティーたち、他のメンバーの石が真っ黒なのに対して、俺は白でも黒でもない、中途半端な灰色だったのだ。



―――今日から【石旅団】はなァ、黒光りの眩い俺たち玄武岩だけで構成されるメンバーになったのさ……お前みたいな灰色安山岩の天邪鬼を、パーティーに入れておけるか



 俺は言い返せなかった。

 玄武岩ばかりのパーティーであるアーティーたちに対して、安山岩の俺は前々から居心地の悪さを感じていた。

 


―――大体俺はな、お前のことが前々から気に入らなかったんだ……せいぜい不遇な石生せきせいを送ってくれ、死ぬまでな。クックック……



 そう嘲るアーティーの言葉に、俺はどうしようもない無力感にかられた気がした。

 そうだ、俺にはわかっていたのだ。

 彼らのパーティーに、俺は最初から居場所なんかなかったんだって。




―――わ……わかったよ。出て行くよ……




 俺は、吹き荒れる風の力を借りて、彼らの元から離れ、火山の坂を駆け下りて行った。

 正直、情けなかった。

























◆ 1澗4952穣8911𥝱6139垓1144京3079兆9997億1298万3415年後◆





◆  あの世の、転生を目前に控えた者たちが集う場所  ◆





「あ、ラッキーね、あなた。今世の人生はチートスキル持ちの冒険者ですって」

「マジっすか! やったー!」


 運命ガチャを引いた女神のその言葉に、俺は心の中で快哉を上げた。


 もう何回転生したかはっきりとは思い出せないが、俺にもついに運が回って来た、ということか。

 そうか、遂にチートスキル持ちの冒険者になれるのか。

 そうなると、前世以前でできなかったことがしたいな。



 ――――――あ、そうだ。



「思い出しました! 今世でやりたいことあります」

「何? 前世までに積んだ徳次第では聞いてあげるけど」

「パーティーを追放されたんです、俺。俺を追放したアーティーって奴にもう一度合わせてください。それで覚醒した俺を見せて、ざまぁ!って言ってやりたいです」

「パーティー追放……?」



 あなた、そんなことされてたっけ? みたいな顔で、見つめ返して来る女神。



「ちょっと、輪廻検索かけてみるわ。【アーティー 追放】……と」  ポチ

 指先一つで、俺の今までの輪廻で起こった出来事を調べる彼女。流石女神だ。



「…………えーと、確かに彼にパーティー追放されてるけどさ……」

 俺の記憶が正しかったことが証明されたのに、なぜか微妙な顔をする女神。



「これ、7000京巡前の宇宙の話じゃん……」

 半ば呆れたような表情を浮かべた女神に、俺は正直少し気分を害した。

 いくら前の話だからって、屈辱で受けた傷は癒えない。

 女神とはいえ、人間として当然の心理くらい理解してほしいものだ。



「大体あなたも、転生1𥝱5000垓回前の人生でしょ、これ。そんな前のことで見返したとしてさ、【ざまぁ!】って思える、これ? 追放した方が覚えてないんじゃないの?」

「理屈じゃないんです。俺の中でどうしても見返さないと気が済まない」



 俺の方の意志は揺るぐことがなかったのだが、女神の方は呆れ気味だった「そもそもあなたのこれってパーティー追放って言うの……?」

 「というか、」と女神は急に話題を変えてきた。



「今調べてて目に入ったんだけどさ、キミ、転生7913兆回前のエルフとして生きてた時期にゴブリンに自分と家族ごと村を焼かれてるよね。そっちの仇は打たなくていいの?」

「それはゴブリンの当然の闘争本能としてやったまでのことですよね」

「じゃあ、転生107垓3463兆0011億回前の小国の王女として生きてた人生で、征服された大国の王に強姦されたあげく魔女として火あぶりにされてるけど、これはいいの?」

「征服した国の王家を辱めたあげく殺すのが当然の時代だってそりゃあるでしょう」

「転生105𥝱回前の、人体型ロボットに乗り込んで宇宙戦争を戦ってた時期に、家族の乗ってた宇宙船を破壊した敵機にビームサーベルで体ごと焼き切られてるけど、それもいいの?」

「兵士が死ぬのも時に民間人が残酷に巻き添えを食らうのも、戦争の運命さだめですから」

「なんでパーティー追放だけ根に持ってるの?」




 おかしい子だねあなた、と言わんばかりの表情で、こちらを見つめて来る女神。

 人間の感情というものは理屈で説明できないのが普通なのに、そんな風に見つめられても困る。




「いや、ちょっとふと思い出したら、腹立って来ましたから」

「【ちょっとふと思い出したら腹立って来た】のスケールがそんな無駄にでかいことある?」



 相変わらず訝しげにこちらに突っ込んでくる女神。

 「無駄に」って失礼な人だな。

 記憶力がいいならそれは長所だろうに。

 まあ他のことはつい前世すらろくに覚えてないけど。 



「あなたも7穣回分人生を生きて来てさ、やっとチート冒険者として生きられるわけでしょ。幸せな人生っていうのはえてして短いんだから、もっと今世でどう生きるかを考えた方がいいと思うな」

「いや、どう生きるかを考えたからこそ、一番根に持っている恨みを晴らしたいんです。だから、俺を追放した石が今どうしてるか見せてくれませんか」

「うーん、一応調べてみるけど……あー、彼ね、16穣5700𥝱回分人生生きてるんだけど」

「俺に内緒でそんなに生きてきたなんて、ますます許せない。すぐにでもあいつの下に行って、ギャフンと言わせたいです」

「でもうち15穣回分の人生が石なんだけど、彼」

「関係ないです」

「何がそうさせてるの……?」



 最早不気味なものをみるような眼で見て来る女神。

 後でクレーム入れようかな……接客がなっていない気がする。


 なお後で聞いたが、アーティーは15穣回分石の人生のうち14穣回分の人生が安山岩だったらしい。

 玄武岩だった時はさんざっぱら安山岩の俺をバカにしたくせに、調子に乗っているとしか思えない。




「あなた今4210正ポイント分徳がたまってるけど、今言ったみたいな頼みごとをしたいってなったら、来世以降、例えば過去世で恋人だった人ともう一度出会いたいとかを叶えようとしたら、5690恒河沙ポイントくらい徳を積まないといけなくなるかも……」

 関係ないですよ、と言おうとした時、女神の座っているカウンターに置かれていた電話が急に鳴った。

 会話内容から言って部下の天使と話していた女神の表情は、会話中急に変わった。




「……あれ? マジ? あ、そうなの? わかったわー、どうもありがとうねー!はいー……ガチャ……あなたラッキーが重なるわね」

「何があったんですか?」

「今部下に調整を頼まれたんだけど、貴方を追放したそのアーティーっていう石……じゃなかった人、次の人生では中級程度の平凡勇者らしいわ。今世の貴方ならざまぁって思わせられなくもなさそうよ」

「マジっすか!!! やったーあいつのことを見返せるぞ!!」

「……ほとんど石な時点で報い受けてる気がするけど……」





 女神が何か言ったことにも構わず、俺は今まで積んだ徳ポイントを使っていいから、そいつのすぐ側に生まれさせてくれ、と頼み込んだ。





「……まあ私も7268×10    96年輪廻を管理してるわけだからさ、わりと懐は深い方なの。あなたがそこまでお願いしてくるなら、考えてみましょう」

「ありがとうございます!!!」

 そう言うと俺は握手を交わし、女神に感謝を告げた。

 彼女の笑顔が綺麗だったので、接客態度の悪さも水に流せた。





 早速意気揚々と今世を始めようと思っていた矢先。

 視界を今にも人を殺しそうな表情の男が通り過ぎて行った。

 まるで、積年の恨みを今こそ晴らしてやる、と言わんばかりの。







「あぁ彼、前世で恋人を金持ちに寝取られちゃってね。それで今までの徳を使って、今世ではその金持ちと元カノに復讐がしたいんですって」

 俺が彼を視線で追っていることに気付いた女神は、そう説明してくれた。

「へー、ちっさい男っすね」

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【短編】無駄にスケールのでかいパーティー追放もの 八木耳木兎(やぎ みみずく) @soshina2012

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