第7話 クリスマス・カロル

「最初は空き巣かと思いました。家から飛び出して逃げたと聞いたら普通はそう思うでしょう。でも、空き巣にしては不用心です。母親が在宅だったんですから」

「空き巣が不用心てのは変な言い回しだな」

「まあ、それでも無いとまでは言いきれないですから。この時期にサンタの恰好で空き巣をする奴が多いという話も聞いたことがあります」

「あちこちに同じ格好の奴がいるからバレにくいってか?住宅街だったら余計に目立つと思うんだけどなあ」

 その意見には同意する。


「でも、母親はその部屋の中にいたというんですから、このサンタは母親の浮気相手で間違いないでしょうね。父親が何かの間違いで帰ってこないとも限らないので、履いてきたブーツを部屋まで持ち込んでいて、ケンジが起きてきたことに気付いた浮気相手は慌てて窓から飛び出した」

「子供がいるってのに大胆な浮気だな」

「小さい子は一度寝るとなかなか起きないって言いますから、ケンジは多分そのタイプだと母親なら理解していたでしょう。そしてケンジは窓を開けて飛び出した浮気相手の後姿を見てサンタだと錯覚した」

「その浮気相手はそんな派手なダウンを着てたのか?」

「いえ、多分緑、または浅葱あさぎ色に近い色のダウンジャケットだと思いますよ。さすがに真っ赤で目立つ服を着て浮気相手の家に行く勇気はないんじゃないですかね」

「そこで色覚異常か」

「ケンジは商店街の飾りつけを見て、クリスマスは暗いから嫌いと言っていました。赤と緑で派手に飾り付けられているのにです。おそらく、赤と緑が認識しづらくなる赤緑色覚異常でしょうね。年齢的にも先天性のものでしょう」

 鮮度が低く見える為、ケンジにとって赤と緑に飾り付けられた商店街は、枯葉に覆われた街に見えていたのかもしれない。


「緑系統の服を着てブーツを履いている男を見たケンジは、それを赤い服を着たサンタだと認識した。ケンジはずっとサンタに願い事を伝えたいと思っていたので、特にそう見えたのかもしれませんね。そして夢中で後を追いかけた」

「で、お前と出会ったと。その浮気相手とは今後どうなると思ってるんだ?」

「さあ?そこまでは知りませんよ。俺には関係ないことですからね」

「ハン!変なところで冷たい奴だな。気にならねえのか?」

「気にしても仕方ないでしょう?所詮俺は他人なんですから」

「――まあ良いさ。そう言うなら俺はもっと他人だからな」

「謎の裏側に踏み込んでも良いことなんてありませんよ。俺たちはその表面の謎だけを解けば良いんです。誰が何の為にやったかなんて興味はありませんし。その後どうなったかなんて余計にどうでも良いですよ」

「なんだよそれ?名探偵気取りか?」

 目黒先輩は呆れたような顔でそう言った。


「気取ってなんかいませんよ。俺は昔から――名探偵ですから」





「ねえ、健治くんの手袋温かそうだねえ」

 幼い少女は健治のはめている手袋を見て羨ましそうにそう言った。


「良いでしょう!サンタさんに貰ったんだよ」

 両手の手袋を少女に向けてくるくると見せびらかすように回した。


「良いなあ。私はサンタさんに頼んでいたのと違うお人形を貰ったの」

 少女の父親は細かい人形の違いが分からず、少女の希望していたものとは違うものを買ってしまっていた。


「あのね、サンタさんに直接お願いすると良いんだよ!」

「直接って……。ケンジ君はサンタさんに会ったことあるの?」

「あるよ!」

「うそっ!ねえ!サンタさんてどんな人?やっぱりお爺ちゃん?」

「ううん。サンタさんはねえ――


 ――若いお兄ちゃんでえ、赤いダウンジャケットと白いマフラーをしててえ、ちょっと怖い顔をしてるけど凄く優しくてえ」


 ケンジは公園で出会ったサンタクロースの顔を思い浮かべる。


「お父さんとお母さんが喧嘩しなくなりますようにってお願い事を言ったら、本当にお父さんとお母さんが仲良くなって、凄い楽しいクリスマスになったんだよ!」


「――あれ?じゃあその手袋は?」


「これはサンタさんの忘れ物!来年取りに来るまでは僕のもの!それまでは大事に使うんだ!」





― Merry Christmas♪ ―

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