第6話 運命のサンタクロース
ディケンズの『クリスマス・カロル』は、主人公の冷酷無比で強欲な商人スクルージが、事務員のボブ・クラチットを薄給で雇いこき使っているという設定の物語。
しかし、3人の精霊によって自分の「過去」、「現在」、「未来」を見せられることによって後悔し、改心していくという流れになっている。
ティム少年というのは、スクルージの見せられた過去において、病気で命を落としてしまう、クラチット家の末っ子の名前だ。
自分の現在の悪行のせいで命を落としたことを知る。
今までの人生における自らの非人道的な行いを客観的に見せつけられたスクルージは激しく後悔し、その人生観は大きく変化する。
クラチット家に御馳走を贈り、人々に愛想よく挨拶し、寄付を募りに来た紳士たちには自ら寄付を申し出た。
何かを変えようとすると最初は笑われるものということをスクルージは理解していた。
だからこそ改心したスクルージは急変した自分を笑う周りの目を気にすることなく善行を行い、ティム少年の未来を救ってみせた。
ケンジの両親の仲がこれからどうなるのかは、それこそ夫婦の問題なのだろう。
でも、どうすれば良いのかということは、ケンジの事を含めてよく考えて欲しい。
もこもこしたダウンジャケットを着た浮気相手をケンジが寝ている間に呼び込んだりする前に。
何かを変えるのは難しいことかもしれない。
でも、自分が護りたいものが何なのかを考えれば、最悪の未来を避けて通ることくらいは出来るだろう。
ケンジが覚えていたのは、スクルージが改心したことで幸せなクリスマスを送っていたクラチット家のクリスマスパーティの記憶。
本物をケンジに見せてあげて欲しいと思う。
何といってもスクルージは「最もクリスマスの楽しみ方を知っている人物」と言われているのだから。
「ハッ!やっぱりお前は嫌な奴だな!!」
そう言いながら椅子にふんぞり返って笑う先輩。
「そうですか?」
「そうだよ!そんなにその子供が心配だったら、はっきり言ってやれば良いんだ!浮気してるんでしょ?ってよ!それをお前は回りくどいやり方で――」
「別に心配なんてしていません」
先輩の言葉を遮るように声を被せる。
「ふん!まあそういうことにしてやるよ」
そう言いながらニヤニヤと俺の方を見ている。
新聞部創設メンバーの1人で、唯一の3年生である
他に2年の先輩が3人と、1年が俺と
そしてその初代部長が何故か俺。先輩4人を差し置いて、何故か1年生の俺が部長になった。
「すぐに卒業する奴がやってもしかたねえだろ?」
目黒先輩のその言葉に、他の2年の先輩も同意した。
いや、あんたたちはまだ1年以上あるだろう。
「で、どこで気付いたんだ?」
別に説明するつもりもなかったのだけれど、そう水を向けられた俺はゆっくりと昨日の事を話し出した。
「最初は――」
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