おまえん家行ってみたい

ギブミーアイデンティティ

おまえん家とおれん家

「そうだ、諒くん! 観葉植物にお水やった?」

「あー、今あげてきます」

「よろしくね!」

二時間目の後に、先生に言われた。

おれはクラスの植物係だから、学級文庫の本だなの上のはち植えに水をあげないといけない。水道でじょーろに水をいれて、はち植えに水をあげる。


「あっ」

本だなと教室のかべの間にはすき間がある。そこにえん筆が落ちてる。

 こういうの見ると、おれはすぐ「ラッキー」って思うんだよ。えん筆を拾ってポッケの中にいれた。


「りょう! おまえ早く来て! ゴール取られる!」

れんによばれた。そうじゃん! サッカーできなくなる!

「いまいく!」

じょーろの水を全部あげて、げた箱まで走った。


「なあー、サッカーゴールっていっつも六年生が取るよな。うおっ」

れんの近くにボールが飛んで来た。

「うん」

「おかしくね? 六年生のきょう室三階でしょ? おれたち二階じゃん、なんで?」

「たしかに。なんで?」

「今おれが聞いたんじゃん」

また来たボールをよけて、こっちを向いてきた。

 ゴールが取られたから、てきとうにかかとで線引いてみんなでドッチボールすることにした。

「おわ、おいジュンぶつかってくんなよー!」

「いやわざとじゃない! ってかこんなきついんだからぶつからないのむりだろ」

全然スペース取れなくて、めっちゃぎゅうぎゅうでやってる。

「うわ! やべーやられた!」

「おれもしんだ」

「マジ? ダブルアウトじゃん!」

「ぎゅうぎゅうやばいな! めっちゃ早く終わる」

どん、どん。ってあっという間に内野がへってく。外野からのこうげきがすげえ。

「おっ」

れんにボールが来た。

「れんいけ!」

「ぶっつぶせ!」

外野がめっちゃ言ってくる。

「やべえ! れんはやばいい!」

てきが笑いながらびびる。れんはボール投げるのが超速くて、れんが投げたらいっつもだれかが死ぬ。

「よっしゃ、くらええ!」

スピードえぐ!

「うおぉ!」

「いって!」

「やべえ!」

「うわ!」

すご。何人当たった?

「四人当たってんじゃん! やば!」

「えーすげえ!」

すご!

「おまえ強すぎだろ」

「だろ? おれ天才だわ!」

れんが笑顔を見せつけてきた。


キーンコーン、カーンコーン。

「あ、中休み終わったじゃん」

「もどろうぜー!」

声をかけて、校しゃにもどる。急いで内ばきをはく。

「あ、そうだ、りょう」

「なに?」

「今度さ、おまえん家行ってみたいんだけどどっかで行けたりしない?」


え。

れんを見る。ふつうの顔をしてた。

「……いや、多分むりだと思うー」

げた箱にくつをしまう。

「あーマジ? でも一応お前のお母さんに聞いてみてくれない?」

かいだんを走ってのぼってく。

「聞くけど、多分むりだよ」

きょう室に入った。

「はい、皆早く席に着いてー」

先生にいそがされる。

「むりならいい! おれいっつも自分家にだれか入れてるからさあ、なんとなく行ってみたかっただけだから」

席にすわって、話はおわった。


キーンコーン、カーンコーン。

「はい、皆六時になったから、帰るよー」


うわ。なんか今日あっという間だったんだけど。

ふつうにしてたのに、いつもとちがう感じがしてる。ランドセルを取って、学童を出た。通学路を歩く。うわ、たばこの吸いがらめっちゃ落ちてる。きったねー。いつもはどうでもいいことが、気になってくる。


 ガチャ、ガチャ。ガラガラ。

「ただいま」

時計をみる。六時二十分か。あと一時間でお母さん帰ってくるなあ。


家を見てみる。おれは三回くらいれんの家に行ったことがある。

うち、タタミなんだよな。れんの家はフローリング。

物多くて、おし入れに入らないんだよな。れんはいちいち箱の中にゲームしまってたけど。


うち、あんまりきれいじゃないんだよな。この間気になって、がんばってそうじしてみたんだよな。ぞうきんでタタミふいて、物そろえたりしてみた。そしたら、いつもより良くなった。帰ってきたお母さんに、めっちゃほめられた。お母さんは笑ってくれた。おれも笑った。けど、やっぱおれ一人じゃきつい。

お母さんに「むり」って言われたって、明日言おう。


「おはよー」

「りょう! おはよ」

れんの声。なんか、まっすぐれんの顔を見れない。

「れん、おれん家に来たいって言ってたやつさあ」

「あー、それなんだけどさ、やっぱいいわ」


え?

「え、なんで」

「いやさ、昨日俺のお母さんに『りょうの家に行ってみたいんだよね』って話したんだよ、そしたらなんか」

「うん」

「『お母さん夜までいないみたいだし、迷惑になるからあんまり諒君ん家に行かないの!』って言われてさー」

「あー」

りょうくん家、か。

「だからいいかなーって」

れん、けっこうおれのことお母さんに話してたんだ。れんの家に行ったとき、れんのお母さんしっかりしてたしなあ。


「わかったー、いったんランドセルおいてくる」

おれの席に行く。


あっ。

急に思い出した。

ポッケに手をつっこんだ。きのうのえん筆が出てきた。


かべと本だなのすきま。

おれとれんにも、なんか、すき間がある。

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