第8話 ep.8 『下着』ッ! 履かずにはいられないッ!
取調室。
やはり灰色の壁と天井に囲まれている、そんな部屋。
取り調べでしばらく時間が経ったからだろうか。
留置所への移動のため、のようだった。
アスリーの手にまた手錠がはめられる。
その代わり椅子に固定されていた腰紐が解かれ始めた……ミュールちゃんの手によって。
本職の警官、それも留置係の警官ならばわかるのだけれども。コイツは管轄外の軍人であり、しかも13歳の未成年。なんでこんなに縄捌きが巧いのか当初は疑問に思ったが。
『まあミュールちゃんだし』
と考えたらすぐに納得できた。
アスリーはアルテナ中尉に耳打ちする。
「(でもアルテナさん。こんな子をさ、普通に扱ってていいの? むしろ彼女こそ、ムショ (刑務所) に入れるべき人材じゃないの?)」
「(でも、まだ何もしてないし……)」
「(なんちゃら未遂とかで、なんとかならない?)」
「(いえ。やっぱり何もしてないんで……。そもそも彼女は軍のお仕事も、何もしていないわよ)」
「(!?)」
「(でもムショ関連のことなら、凄い優秀なので……)」
「(それってさらにヤベーやつじゃないですか!)」
ミュールちゃんはクスクス笑っている(こういう時の彼女は、あまりよろしくない)。
「じゃあムショ(刑務所)……失礼、留置所に入る前に、色々とアスリー先生のチェックをしないとね」
「ミュールちゃん。それって具体的にどういうの?」
「身長、体重。年齢、指紋、足のサイズ。顔写真」
「ふんふん」
「学歴、職歴。血液型、星座。好みの異性のタイプ、ハンドルネーム」
「!?」
「初恋の相手、好きな体位。コンプレックス。座右の銘」
「ちょっ!」
「それにちゃんとエントリーシート書いてくれないと、留置所じゃなく、地下で粉塵に塗れて労働よ」
「聞いてないわよ、そんなこと!」
「そりゃ言ってないし。警察内でも極秘の資料だからね」
#違います
「あと免許と資格。趣味と特技。年俸、打率か防御率」
「それムショ(刑務所)にも留置所にも必要ないっぽいけど……」
「そして。BMI、.HbA1C、γ-GTP。OPS、WHIP。,DQ4、FF10-2」
「……健康診断の数値とか野球の数値、多くね? あとRPGゲームとかも」
「最後に志望動機と、この留置所に興味を持ったきっかけ」
「もう明らかに新入社員の面接ですやん!?」
アルテナ中尉はこっそり言ってくる。
「(でもアスリー先生。先生はMイケるんでしょ? ミュール准尉はSなんで、一応は相性いいかと)」
「(こんなん押し付けないでくださいよ!)」
ミュールちゃんはクスクス笑い、堂々と取調室から出ていく。アスリーは手錠をかけられたまま、腰縄だ。
署内にはそれを不思議がる人はいない。未成年の軍人だと言うのにもう少し驚いてほしかったが。
アルテナ中尉だけが周囲にペコペコ頭を下げている。
*
階段を降りていき……そこが地下かどうかは知らないが、ある一室だ。
アスリーは手錠を外され。身体中をチェックされた。顔写真、足のサイズ、指紋……。
ミュールちゃんは何気なく言う。
「アスリー先生。好みの異性のタイプは?」
「ショタ。稀にマゾ男性」
「脳に異常あり、と……」
「ちょっ、ちょっ……!」
「好きな体位は?」
「やるなら騎乗位。やられるならバック」
「脳に異常あり、と……」
「えあああぁあ!?」
「打率は?」
「.185」
「クビ一歩手前、と……」
「だからミュールちゃん、そういうコト関係ないでしょ!」
ミュールちゃんはクスクス笑う。……アルテナ中尉は頭を下げているが。
「じゃあアスリー先生。お待ちかねの……身体検査よ!」
「(今までも検査されていたような気がするけど……)」
ミュールちゃんは一転して真面目な顔になって、言う。
「留置場に入るなら、色々と持ち込みが許されていないのもあるの。まずアスリー先生の服。コレはダメね。出る時に返すから、留置所内では上下灰色のスウェット支給されるんで、それを来て」
「うぅ……」
ミュールちゃんは唐突にアスリーのスカートをたくしあげて……
「アスリー先生、なんで紐パンなんですか?」
「いや、洗濯物のローテの谷間で……」
「え!? 谷間でコレなの!? ちなみに普段はどんなものを? 差し支えなければ」
「白い綿パン。あるいは水と白のボーダーや、ピンクと白のボーダーの、綿パン」
「明らかにショタ殺しモードじゃないの!?」
「でもさ。魅力的なパンツなんて。綿パン、紐パン、マスパンぐらいだと思うし」
アルテナ中尉がわーわー言う。
「ちょ、ちょっ! アスリー先生! へんなこと言わないで!」
「そう? 魅力的だよマスパン」
「ちーがーうー!」
#ここらの文章は『鯉のプリンス』堂林翔太の本人及び関係者、枡田絵理奈(旧姓)の本人及びその関係者からのクレームがあった場合、即座に謝罪して削除する用意があります。なのであまり怒らないでください。
アスリーはふぅっと落ち着いてから、言った。
「ちなみにさ……留置所内ではどのような下着が?」
ミュールちゃんは答える。
「灰色と言うかベージュのダサいの」
「ええ!?」
「誰に見られるわけでもないし。汚れが目立たないからそれでいいのよ。ちなみに着替えや下着交換、お風呂は5日に一回」
「最低限の文化的な生活がああああ!」
「下着なんかじゅうぶん『保つ』わよ。運動とかしないし。寝るだけだし」
「むー」
「で。アスリー先生は現金は持ってないのよね? 現金があるとないとじゃ大違いなんだけど」
「ないっす……でも、この指輪。安物だけど換金すれば多少のカネに……」
「だからキャッシュのみ、よ。その指輪も没収します。出る時に返してあげるから」
「クレカとかカード類もOKにしてよ、デジタル大臣ー!」
「後、媚薬とか睡眠薬は後で持ってくから。安心して」
そこでミュールちゃんはクスクス笑った。
「それで、アスリー先生。いよいよアソコの確認なんだけど」
かなりのSッ気で、ニヤニヤ笑って『チェック』したミュールちゃんだったが。
アスリーは全く動じていない。
「……殿方にやってもらえば興奮するのに。相手がミュールちゃんだからなぁ……でもまあいいか。若い女子だし。そこそこ興奮するけど……でも堂々とされるとなぁ」
「……」
「できればもうちょっと罵って欲しいんだけど」
ミュールちゃんは軽く叫んだ。
「アルテナ中尉! 少しアスリー先生のお尻とか叩いていいですか!?」
「い、いいわけないでしょ……! 容疑者を痛みつけちゃダメ!」
しかしミュールちゃんは言う。
「しかしコレは、どちらも望んでいることですし……」
アルテナ中尉はうっかり叫んでいた。
「ダメだってば! よ、予想以上の変態かも……二人共!?」
「ん?」
「あ、いえ、なんでもないわ……」
そして一方のミュールちゃんも満足できていないようだ。
「もっと嫌がってくれないと、興奮しませんね……」
アルテナ中尉はぼんやりと思っていた。
「(興奮する、しないで色々やらないんでほしいんだけど……)」
そしてミュールちゃんは灰色のスウェット上下を持ってきた。
「アスリー先生、これに着替えてください」
「はーい」
次にミュールちゃんは棒のようなものを持ってきた。
「なにそれ、ミュールちゃん?」
「金属探知機。一応ね」
だがスイッチをONにすると、ピーピー音が鳴る。
「え。私、もう金属は何も持ってないんだけど」
「なんかコレ、この場所だとピーピー鳴るのよ。まあどうでもいいでしょ。やったと書類に書くのが大切なの」
わりとざっくりした感じである。
署内(地下?)を先に少し進むと。大きくて重い扉があった。小さい窓の向こうから声がする。
「合言葉を」
「はっ!」
「芸能人は?」
「歯が命!」
大きな扉が開く。アスリー、そしてミュールちゃん&アルテナ中尉が入ると、重い扉は閉められた。幾つかのかんぬきのようなもので固定されている。
「ねえミュールちゃん……」
「何?」
「今の合言葉、必要あった?」
「いや確認するのが必要なの。そうじゃなきゃ書類に書けないでしょ」
やはり、わりとお役所のようだ。
そもそも留置所は刑が確定する前の仮置きなので、そこまで厳重にはできないのかもしれない(逃げられたら困るが)。
留置所に入ると。そこには多数の女性スタッフがいた。
手錠は外され、腰縄も……数人がかりで外された。
ミュールちゃんは言う。
「アスリー先生。そこの壁に手形がついてるでしょ? そこに両手をついて」
「う、うん……」
と、壁に手をついて前傾姿勢を摂る。ミュールちゃんはアスリーの着ているスウェットの下……ズボンのポケットに手を入れる。
「何も持っていません」
女性スタッフたちは頷くと……アルテナ中尉に言った。
「了解。それでは中尉。ご指示を」
アルテナ中尉はビクッとしてている。
「ぇあああ!? 私はあくまで非常勤だし、管轄違うし、そもそも警察じゃなくて軍人だし……!」
「いえ皆。アルテナ中尉の命令なら従うはずですので」
「(ここの警察署って……ヤバいかも)」)
ぼんやり思うアルテナ中尉だったが。
アスリーとミュール准尉を見て。
「(まあヤバいのはいっぱいいるし)」
と納得した模様。
ムショヅメ 佐々木英治 @backupbackup
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