秘密の道

かすみそう

秘密の道

〜プロローグ〜


金木犀の香りが私の心を癒す、この道が好きだ。秋になるといつもこの道に来る。

幼い頃からいつも。あの人との約束を守るために…。


〜空白の日々〜


冷たい風が私の心をさらに冷やす。社会人になってもうすぐで3年が経とうとしている。

最初は靴擦れだらけでなれなかったパンプスも今じゃ走れるくらいだ。満員電車もなんのその。寝不足なんて当たり前の毎日で頭がぼーっとする。

「おつかれさまです!紅葉(いろは)さん!」

「おつかれぇ梨央(りお)ちゃん」

梨央ちゃんは可愛い後輩だ。

「今日は、やけに化粧が気合い入ってるねぇ」

「今日はデートなんです!」

「デートかぁ!いいねぇ」

「紅葉さんは今日どんな予定ですかー?」

「特にないなぁ、スーパーよって、帰って、夕飯作って、いつも通りぼっちで夜を明かす」と笑ってみた。

「えぇーもったいないですよぉ!紅葉さんこんなに可愛いんですから!なんで彼氏作らないんですかぁ?あ、椋太(りょうた)先輩とかどうですかぁ??前にお食事誘いたいけど紅葉さんそういうの嫌いかなぁ?っていってましたよぉ!」

「まぁ、別に今は彼氏とかいらないし、食事なんて何話せばいいかわからないし」

「はぁ全くですよぉ〜そんなんじゃ女性ホルモン分泌されずにお肌ガサガサになりますよぉ〜?」

「うるさい!余計なお世話だ!笑」

「じゃ!私お先失礼しますね!」

「はーい!またね!」


街は煌びやかに光っていて、目がしょぼしょぼする。早々クリスマスの準備のようだ。

周りを見ればカップルばかりだ。

「はぁ。」思わずため息が出た。

まだ11月なのに。そんな早く準備しなくても。

クリスマスなんて嫌いだ。寒いし。ガヤガヤしてるし。眩しいし!

私は早足で帰った。


〜幼き頃の記憶〜


「金木犀すきなの?」

それは突然だった。

5歳の頃、引っ越した先の公園で、1人で金木犀をじっと見ていたらそう声をかけられた。

「…うん」

「金木犀が綺麗に咲く場所知ってる?」

「ううん、しらない」

「じゃあ僕が教えてあげる!きて!」

「ほら!みて!ここだよ!」

「…すごい…っ!」

そこは金木犀がたくさん咲いた一本道だった。

「だろ!ここは人がほとんど通らないよ、僕が見つけたんだ!だからここは君と僕だけの秘密の道だ、みんなには内緒だぞ?」

「…わかった」

「僕、楓雅(ふうが)!きみは??」

「…紅葉」

「紅葉!よろしく!」

それから私たちは毎日のように遊んだ。

冬は雪だるまを一緒に作ったり、一緒にクリスマスを過ごした。春は桜の並木を見に行ったり、夏はプールに行ったり、祭りに行った。

そしてまた秋になり、金木犀を見に行ったた。最高の日々だった。



小学生になってもずっと私たちは仲良しだった。

いじめから助けてくれたり、笑わせてくれたり、ずっとそばにいてくれた。

「今年も綺麗に咲いてるな」

花がキラキラとする電気のように舞って、辺り一面がいい香りに包まれる。

「うん」

「ここに来るといつも自分の悩みがちっぽけに思っちゃうや」

「悩み??」

「あー、なんでもないよ」

「そっか」

「よしあっちまで競争だ!」

「あ、ずるい!待ってよー!」


〜金木犀の香りがする頃は〜


そして私たちは中学に上がった。

中学になっても楓雅は私と仲良くしてくれた。部活が忙しくなり会えない日の方が多かったが、秋になるといつもの場所に集まった。

【今日3時に秘密の道に集合!】

私は言われた通り秘密の道に行った。

「紅葉ー!こっちこっち!」

「今年も綺麗に咲いたねぇ」

「うん、あのさ!もみじ!もし、もしだよ!何かあって離れ離れになっても秋になったらここに集まろう!」

「うん、わかった」

「約束だ!」

「うん約束」私たちは指切りをした。

私はその時はまだ知らなかったんだ。

この約束がどんなに悲しいことだったか。


冬になり楓雅は急に学校を休むようになってしまった。

楓雅は白血病らしい。こんなにずっと一緒にいたのにわからなかった。わかってあげられなかった自分を責めた。

「どうして…」


年が越え、お正月になると楓雅は入院をしてしまった。

私は毎日お見舞いに行った。迷惑かもしれないけれど会いたくてたまらなかったから。

「紅葉だ〜!また来てくれたんだね!」そう言いながら微笑む楓雅の顔を見ると安心する。

「今日の学校はどうだったぁ?」

「うん、楽しかったよ。楓雅は体調大丈夫?」大丈夫なわけないのに、いつも聞いてしまう。

「うん!大丈夫だよぉ。心配ありがとうぉ」

しばらく話して楓雅の夕食が来ると私は帰るようにしていた。

「ありがとう、またね!」「うん、また」

またねが今の1番の安心の言葉だった。



春が来て私は高校に入学した。勉強はなんもわからないし、周りの友達とは壁を作ってしまう。

楓雅の容体は一向に良くならない。

でも楓雅は一切そんなそぶり見せなかった。

お見舞いに行くといつも明るい笑顔で紅葉と名前を呼んでくれた。


桜の花が散りゆき、夏になった。

ジリジリと照り尽くす日差しに蝉の声が響く。あつい。

そんな中、楓雅に一時退院ができると言われた。少しずつ良くなっているのかな。思いがけぬ朗報に暑さが吹き飛んだ。

【土曜の夏祭りに一緒にいこ!】

一緒に遊ぶのはいつぶりだろうか。少し緊張するな。どうしよう浴衣着ようかな。胸のドキドキが止まらなかった。


「紅葉!おまたせぇ!」

浴衣姿の楓雅はいつも以上に輝いて見えた。

「浴衣、似合うね」

「え?ほんと?!嬉しいぃ!紅葉もすごく似合ってる!可愛いね!」

思わず頬が赤らんでしまったので俯き、必死に夕日で紛らわした。

金魚すくいをやったり、射的をやったり、わなげをやったり、焼きそばやたこ焼きなどを食べたりと最高に楽しかった。花火が上がる前に私たちはいつもの秘密の道へ行った。もちろんまだ金木犀は咲いていないが。

「間に合ったねぇ!」

「うん」

ピュ〜〜バーーーーン。

最高に綺麗だ。

「ねぇ、いろは」

振り向くと綺麗な顔が目の前にあった。

「…っ!?」

唇に柔らかいものが当たる感触がした。

すごく心地が良かった。このまま時が止まって欲しかった。しかし、急に恥ずかしくなってきて離れた。

「あ、ごめん。急にしちゃって。すごく可愛くて、我慢できなくて、」慌てる姿が愛おしくて微笑んでしまった。

「大丈夫だよ」

「俺、絶対病気治して退院して、それから… 」

「絶対ね。」

その後もずっと彼の腕の中で花火を見た。

とても幸せな時間だった。

このまま時が止まればいいのにと何度も思った。

だけど、花火が終わると楓雅は病院へ戻っていった。


夏休みが終わる頃、楓雅の容体が悪化してしまった。

面会もできなくなってしまった。

会いたくて会いたくて仕方がなかった。

しかし、楓雅が秋を迎えることはなかった。

寂しくて。立ち直れず、何日も学校を休んだ。秘密の道には何度も行った。現実を信じたくなくて、きっと会えるとおもって…。



〜秘密の道〜


「おつかれさまです!紅葉さん!」

「おつかれぇ昨日のデートはどうだった?」

「最高でしたぁ!イルミネーションが綺麗なところ連れてってくれてー!」

「そーなんかぁよかったねぇ」

「はい!あれ?紅葉さん今日はもう帰る準備してるんですね!」

「うん、今日はちょっと寄りたいところあって早めに」

「そうなんですね!いってらっしゃいませ!」

「うん!またね!」


また今年も来てしまった。10月は忙しくて来れなくて11月になってしまった。まだ咲いていてよかった。素敵な香りに包まれ、錆び付いていた心が清められる気分だ。

「はぁ。今年も来たよ楓雅。楓雅はいつになったら来てくれるかな。つらいよ。寂しいよ。」泣きながらその場にしゃがみ込んだ。ふいに顔を上げると木陰にキラキラと光っているアルミでできた空き箱が隠されるように置いてあった。

「なんだろ」

気になって開けてしまった。

「…!?」

そこには紅葉へと書かれた封筒に手紙が入っていた。



   紅葉へ


やっと見つけてくれたんだね?笑

きっと、紅葉のことだから5年くらい?かかったのかな?笑ずーっと見つけてくれるの待ってたんだから笑

きっと僕はもうとっくに死んでいるよね笑

病気のことずっと言わなくてごめんね、心配させたくなくてさ。


ねぇ覚えてる?僕たちが出会った時のこと

あの時ね、白血病の入退院で全然友達がいなかったんだ。そんでいつも公園でぼーっとしたり散歩したりしてて、そしたらさ、1人の女の子を見つけた。金木犀ガン見してて、あ、この子なら友達になれる!って思ったんだ笑

勇気振り絞って話しかけたのに紅葉ったら、ちょーー塩対応でさ笑

でも秘密の道に案内したら目キラキラ輝かせてさ、すっげーかわいくて5歳ながら一目惚れしたよ笑

そっからの日々はもうほんと最高だった!!

自分が病気って忘れるくらいに楽しかった!!

中学になって紅葉が部活入って、会えるの少なくなって少し寂しかったけど、秋に会えるのが楽しみだった!

だけど、中学上がってからは容体が悪くなる一方でさ、良くなることはもうないって医者に言われてさ、待ち構えてたはずなのに、紅葉と出会ってからは死ぬのが怖くなったんだ。だって、紅葉を1人にさせちゃうし、もっとずっと一緒にいたかったから。

怖くなってあの約束を言ったんだ。約束をすれば体も元気になると思ったから。だけど違った。

入院しなくちゃいけなくなって…。だけど、毎日お見舞いに来てくれたよね!

毎日体調大丈夫?って聞いてくれたよね!すごく嬉しかったよ!


夏を迎えようとしてる時に医師から、もう治ることはないこと、これから悪化し続けること、今年の秋は迎えられないことを伝えられた。何よりも秋が迎えられないことがつらかった…。僕たちの約束の秋を。


だから僕は死ぬなら入院ばかりじゃなくて残りの人生楽しみたいといった。もう一度、紅葉とどこかへ行きたかったから。1日だけ許可が降りたんだ。


あの祭りの日だよ!

浴衣姿の紅葉がいつも以上に可愛くて、直視できないくらいだったよ笑

胸がドキドキして、この気持ち伝えたくて、花火が上がった時に君にキスしたんだ。

今でも鮮明に覚えているよ。忘れられない素敵な思い出だ。

その時僕は一生分の幸せを味わえたと思い、死を受け入れられた。最高に幸せな日だったよ!

ずっと続いてほしいなんて贅沢言えないくらいに幸せだった。


きっとそれから僕は死んだのだろう。

ずっとずっと寂しい思いさせたよね。ごめんね。つらかったよね。約束守れなくてごめんね。約束ずっと守ってくれててありがとう。

僕のことを気にしてくれてありがとう。

でもね、この約束ももう今日で終わりにしよう。

だって大好きな紅葉には幸せになってほしいから!!

もっといろんな人と出会って、恋して、幸せな日々を過ごしてほしいんだ!!

だからさ、僕と次の約束しよう。いい?

僕の分まで、たくさん幸せになって!!

わかった?約束ね??


素敵な思い出をたくさんありがとう紅葉。


P.S誰かと結婚して、子供も生まれたらみんなで秘密の道に遊びに来てね!!


            楓雅より



涙が止まらなかった…。声を上げて泣いてしまった。私のために手紙を残してくれてたなんて…。ありがとう…楓雅…。



〜君との約束〜


「忘れ物ないかなぁ?出発するよぉ」

今日は散歩日和のいい天気だ。

「ママ〜これからどこいくのぉ?」

「着くまで内緒だよぉ」

「えーーパパはしってるー?」

「パパも知らなーい」椋太がキョトンとしながらいった。

「ママがね、昔仲良かった子に教えてもらった秘密の道なんだぁ。だからねぇ大好きな2人を連れて行きたくて」

「ひみつのみちー?」

2人がこちらを見て首を傾げる姿が可愛い。



「さぁ、もうすぐ着くから2人とも目閉じて」

目を閉じた2人の手をリードしながら秘密の道へ入った。

「目あけて!」

「「わぁ!!!すごぉぉぉい!!」」

2人とも目をキラキラ輝かせていた。

「紅葉、すごい綺麗だね!ありがとう!連れてきてくれて!」

喜んでくれてよかったぁ


楓雅、私ちゃんと新しい幸せ見つけたよ。

楓雅のおかげでちゃんと一歩踏み出せたの。

約束ちゃんと守れたよ。

私ね、今すっごく幸せだよ。

大好きな2人に毎日癒されてるんだ。

私たちね、引っ越すんだ。だからここに来るのは最後にするね。

本当にありがとう。さよなら、楓雅。



「ママー!」「紅葉ー!」2人から呼ばれた。

2人がこちらを向いて微笑んでる姿が私の今の最高の幸せだ。

「はーい!今行くよー!」



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