第12話 0時

どこからともなく鐘の音が鳴り始めた。

その鐘の音は徐々に大きくなり、世界中の教会の鐘が鳴り響いているようだった。




勇者の体が光に包まれ、瞳の色が変わった。


勇者の証、神の加護を受けた者の瞳は金色になるのだ。




「…久しぶりだな、魔王。」


勇者が魔王に微笑みかけた。



「…ああ…。」


「思えば、今までちゃんと話したことはなかった。」


「そうだな。」


「…俺は、今から人間軍の元へ行く。」


勇者は人間軍を見下ろした。



「話をして時間を稼ぐから、逃げろ。」


「…感謝する…。」


勇者は魔王と握手をした。


「俺も、16年間…楽しかったよ。」







勇者は城から出て人間軍の前に立った。


馬に乗った最高司令官が話かける。


「勇者様、お久しぶりです。まずは、16年前、魔王に連れ去られてしまったことを心からお詫び申し上げます。ところで、魔王との交渉はどうなりましたか?」


「魔族はもはや戦う力はない。魔王本人も戦意はない。もう、戦争はやめよう。」


「ならば、降伏宣言をしないと。戦争の犠牲者は浮かばれませんし、国民が納得しません。」


「俺がちゃんと魔王本人から聞いたんだ。それでいいだろ。」


「100年の聖戦が口頭の約束で終わるわけないでしょう…。」




司令官は手を挙げた。


「交渉は決裂!魔王を探し、とらえよ!」


兵士たちが動き出した。


勇者は即座に魔法を唱えた。

相手の体を麻痺させる魔法だ。

勇者の力ならこれだけの大人数でも余裕で全員に魔法をかけられるはずだった。


ところが、兵士たちは城に向かって走り続けている。



「効いていない…!」


司令官は口を開いた。


「我々の16年間は、勇者様が魔王軍に寝返った時の対策に費やしました。誰でも情はうつります。勇者様とはいえ、人間ですから。誰も責めたりしませんよ。」


勇者は唇を噛んだ。


「今なら勇者様のお力を借りなくても、魔王や残党を狩るのはたやすいことです。勇者様には、『正義と勝利の象徴』として居ていただければ良いのです。100年間、お疲れ様でした。」


勇者は、司令官をキッと睨んだ。


「俺は!戦争をするために生まれてきたんじゃない!平和のために戦ったんだ!」


司令官はキョトンとしている。


「何が違うというのですか?平和のために戦争をしてきたのでしょう?」


「相手は降参しているんだ!もう戦わなくていいだろう!」


「ああ、そういうことですが。これは、けじめです。大人とは、そういうものなのです。」




勇者は踵を返し、城に向かって走った。


「魔王とみんなを助けなくては!」


そう思った時だった。


まばゆい光が放たれ、先に向かった兵士が吹っ飛ばされていた。





彼女とクラスメイトの魔族たちだ。


「ラパス!一緒に行こうよ!俺たちと、暮らそう!」



隊長が兵士を薙ぎ払う。


「私ではあんまり持ちません!ラパス、早く決めてください!人間社会に戻るのか!我々と一緒に行くのか!」



先生が防御魔法で兵士の攻撃を防ぐ。


「ラパスくん!私たちはあなたのことが大好きなのよ!一緒に歴史を変えましょう!」



司令官が追ってきた。


「この!死に損ないどもが!」


大剣を振り回した。

剣撃が飛んでくる。



魔王が魔法を放ち、剣撃を消滅させた。


「ラパス、みんなそういう気持ちだ。お前も、俺と同じように昔の仲間はいないんだろう?じゃあ、もういいじゃないか。俺たちと一緒に行こう。」



勇者は、初めての仲間や兵士たち、恩のある師の顔を思い出した。

みんな、この100年で戦死したか寿命で亡くなった。



「その首もらった!」


司令官の剣撃が魔王に向かって来る。


勇者は魔法を唱え、司令官の大剣を弾き落とした。



「勇者様‼︎まさか、人間を裏切るつもりですか⁈」


「俺はもうあんたたちの勇者じゃない!魔族と共に生きる、ラパスだ!」



魔王は魔法を唱えた。


魔法陣が現れる。


魔族たちは魔法陣の中に入っていく。


「行こう、ラパス!」


魔王は勇者に手を差し出した。


勇者は微笑み、魔王の手を取った。


16年間、何度も繋いだ手だ。






あれから、魔王城跡地は聖戦の歴史館として復元され、平和の象徴としてそびえたっている。


その後、人間の作った歴史の教科書には、


『6回目の転生をした勇者は魔王と相打ちとなった。それにより聖戦は終結し、現在の平和がもたらされている。』


と記されている。

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魔王様の子(勇者)育て奮闘記! 千織 @katokaikou

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