たまご、チキン、はちみつバタートースト
おんぷりん
プロローグ
例えるなら、川の底にたまった灰色の砂のような生活だった。
朝なんとなく目が覚めると、薄汚れたカーテンからは細い薄い太陽の光がかすかに差し……けれどそれは決して清々しい朝なんかではなくて、ゴミ溜めのような不用品ばかり積もった部屋を、ますます惨めにさせるばかりだ。
腫れぼったい目、なかなか持ち上がらない瞼、怠い体。かさついた唇からもれる唸り声。
ぼんやりと脳内の輪郭が曖昧なまま時計に目をやれば、それは七時から八時頃だったり、十二時を過ぎていたり、あるいは午後五時や六時といった、そろそろ空の青が消されそうな時間帯だったりもした。
目が覚めたからといって何をするわけでもなく、テレビもない狭いアパートの一室で、布団の中でスマホをいじり、空腹になったらのそのそ起き出して、雑多なものが適当に詰め込まれた戸棚からカップ麺を取り出す。
シンクには汚れた食器が積み重なり、冷蔵庫では適当に買った食材が腐りかけ、ゴミ箱からは紙屑が溢れる。
ゲームをする。
ネットに沈む。
夜を更かし、眠り、起きて、今日も無駄にまた生きる。
着替えるのが面倒で、一日中着古したパーカーとゆるいジャージのズボンで過ごす。
特に生きたいとも思わないが、かといって死にたくなることもない。
大学を中退してから今年で二年目。
典型的な引きこもりで、典型的なニート。
ひたすら自堕落で、世間に顔向けできない、コンビニとトイレと布団と風呂を往復するばかりの生活。
ただなんとなく今日をやり過ごして、いつまでこんな生活が続くんだろうと思いつつ、二秒後にはまあいっかとスマホを開き、眠くなったら寝て、食べたくなったらインスタント食品で適当に済ませて、目が覚めたら起きる。
そんな毎日がだらだらと続いていたある日、人生のスイッチが切り替わる出来事が飛び込んできた。
始まりは、ぼんやりと漂っていたブルーライトを消して、いつものように戸棚を開けた、そのとき。
「……あ。カップ麺、
久方ぶりに出したせいで、がらがらとかさついてひび割れた声が、そう呟いた瞬間に。
色鮮やかな毎日は、決して鮮やかとは言えずとも、ゆっくりと、ひっそりと、しかし確実にカーテンを開けた。
たまご、チキン、はちみつバタートースト おんぷりん @onpurin
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