7章

アサミが回復薬の効果に驚きながらも、楽しそうに話している姿を見て、僕は少しだけ心が和んだ。


こういう普通のやり取りが、なんだか新鮮で、少し前に感じていた緊張感が和らぐような気がした。


「ほんとにすごいな、この回復薬。これなら、傷があっという間に治るわね」


アサミは回復薬をもう一度手に取って、口元を緩める。僕もその様子に、何となく嬉しくなってきた。師匠が作った薬のレシピが、こうして誰かの役に立つことに、少しだけ誇らしい気持ちを感じていた。


「まあ、師匠も言ってたんだよ。『薬は命を救う、だからこそ心を込めて作れ』って。だから、こうやって役に立つと、少しは安心するよ」


「なるほど……」


と、リリスが静かに頷く。


「アクくん、あなたは本当に多才ですね」


その言葉に、僕は少し顔を赤らめる。別にそんな大したことじゃないんだけどな。でも、リリスの純粋な賛辞に対して、なんだか照れてしまう自分がいる。


「それにしても、あなたが師匠の教えを受けていたことに驚きました。まさかそんな凄い人だったなんて……」


「うん、まあ師匠は確かに普通の人じゃなかったからね。でも、僕もまだまだ未熟だよ」


そんな話をしていると、アサミが突然、顔をしかめて立ち上がった。


「ん? どうしたんだ、アサミ?」


「いや、ちょっと気になることがあってな」


アサミは目を細めて、周囲を見渡す。リリスと僕もその視線を追うが、何もおかしなことは見当たらない。


「どうしたの?」


とリリスが尋ねる。


「なんか……気配がする。魔物、じゃないけど、ちょっと不自然な気配だな」


その言葉を聞いた瞬間、僕の体が一瞬で警戒態勢に入った。アサミの言葉に反応する形で、周囲の空気がピリッと引き締まったような気がする。


「この村に魔物の気配が?」と僕が聞くと、アサミは頷いた。


「いや、魔物じゃない。ただ、誰かが近くにいる。でも、何かが違う。普段の気配じゃないんだ」


その時、リリスが急に顔色を変えた。彼女の瞳が鋭くなり、口元が引き締まる。


「アクくん、アサミちゃん。私たちの周りに誰かがいるのかもしれません。気をつけてください」


彼女の言葉に、僕たちはすぐに警戒を強める。リリスの目が真剣で、彼女自身も何かを感じ取っているようだ。


「わかりました」


とアサミが答え、すぐに武器を手に取る。僕も一緒に剣を抜き、身構えた。


しばらく静寂が続くが、その後、遠くから不自然な足音が聞こえてきた。まるで風に乗ってくるように、音が不規則に響く。


「来た……」


とアサミが低く呟く。


その時、視界の隅に一瞬、影が横切った。何かが素早く動いている。僕たちはその動きに反応し、足音が近づいてくる方へと目を向ける。


「誰だ!」


と僕が声を上げたが、返事はない。


その瞬間、突然、前方の木々から誰かが飛び出してきた。身軽な動きで、僕たちに向かって突進してくるその人物――いや、正確には人間ではない、なにか不自然なものを感じる。


「魔物……?」


とアサミがつぶやく。


だが、それは明らかに人間の姿をしていた。しかし、その目が、まるで獣のように鋭く、金色に光っているのを僕たちは見逃さなかった。


その人物が飛び込んできた瞬間、リリスが一歩前に出て、身構えた。彼女の目が鋭く、すでに戦闘態勢に入っている。


「アクくん、アサミちゃん、気をつけて。これはただの人間ではありません」


リリスの言葉が、空気をさらに張り詰めさせた。


僕たちはその人物をじっと見つめ、緊張感を高めていった。


その正体は一体――?

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Dランクの冒険者である僕、どこか遠い場所でのんびり暮らしたいとAランクの自惚れた幼なじみと絶縁して生まれ育った辺鄙な村を出たら、実は最強クラスの剣士でした。 鏡つかさ @KagamiTsukasa

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