6.5章
アク・リナンが【果ての地】と呼ばれる、自分が生まれ育った村を出るその一方で。
彼の幼なじみであるプリシラは大変混乱している。
数分前に起こったことが忘れたくて気を紛らすために依頼を受けることにしたので、彼女はいま【果ての地】にある唯一の冒険者ギルドへと向かっている。
幼なじみのアクについて考えながら……
「まったく。何考えてるか全然わからないわ、あのバカ」
溜息をつき、独りごちるプリシラ。
プリシラの中では、アクは
しかしそれは彼女にとっては別に欠点ではなかった。
……にもかかわらず、彼を護りたいと思っているのだ。
なのでもっと効率的に護れるために、自分の
それなのに、彼が愚かにもそれを拒んだ、という解釈が成り立っている。
「ふん! ばかアク!間抜け! 素直にあたしの下で働けばよかったのに!何が村を出るって! きっとすぐ泣きついて帰ってくるわ! ま、そのときは土下座してくれるなら、考えてあげてもいいわね~」
と、口ではああ言っているが、内心では――
【もうぉー!なんでそんな冷たいことをあたしに言っちゃったの!! あたし、やさしく扱うつもりだったのにっ!! もうあのバカ! 信じられないわ! でも大好き! だいしゅきすぎてたまらん! あぁ〜 早く帰ってくれないのかしら! 帰っていっぱい甘えちゃおう。いや。でも、もし帰ってこなかったらあたし……あたしはどうしよう! もし……いやいや、それだけは考えたくない。ほかの女にとられるなんて考えたくはない!!】
そう。
これが、プリシラの本心だ。
アクが思っているキチガイガキても冒険者界隈で知られている超有名なAランクの冒険者である《剣姫のプリシラ》でもなく、アクにベタ惚れしているこのプリシラが本物のプリシラだ。
実はプリシラはずっと前から、アクのことを端的に言えば幼なじみじゃなくて恋人として見ていた。
――自分のモノとして見ていた。
しかし彼女はあまりにも自惚れすぎるせいで、それを素直に認めない。
いや…………
――素直に認められないって言ったほうがもっと正しいか。
そしてその結果としては、いつもアクのことを下に見えているような発言をしてばかりでいた。
…………けれどそんな大好きなアクが急に村を出るとは、彼女が思いもよらなかった。
非常にイライラしていたのは言うまでもない。
「ちぇ。アク。あんたはよくもあんなバカなことをしたのわね。次会ったらぶん殴って反省させちゃおうかしら」
……ちなみに本心に訳せばこうなる。
【……アクくん。どうしてあたしを置いて勝手に村を出ちゃうの? そんなのひどくないか!? 反則だ! あたし、めっちゃぷんぷんしてるんだけど】
と。
――どうやらプリシラの表も裏も、ある意味でアクに夢中しているようだ。
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