封印されていた最古の魔王。――外伝――

斉藤一

第1話 エリザの暇つぶし

天上界へ向かうための修行を続けていたマオ。しかし、そんな毎日に飽きてきたエリザは新しい暇つぶしを思いつく。




「よし、ダミーコアを使って遊ぼうっと!」




マオが休憩時間で居ない間に、ダミーコアに繋ぐ異世界転移装置を作る事にした。そして、完成した。




「マオ、ちょっときて」


「なんだ? 我はまだ修行で忙しいのだぞ?」


「ほら、そろそろ一度実力を見たいかなって。私とのスパーリングだけじゃ、自分がどれくらいの強さになったか分からないでしょ?」


「いや、ダンジョンが生成するモンスターである程度は分かるが……」


「いいからいいから、付いてきなさい!」




エリザは、マオを強制的にダミーコアのある階層まで連れて行った。




「何かこそこそやっていることは知っていたが……何だこれは?」


「異世界転移装置よ。私が楽しめ――こほん。私が指定した世界へ一時的に行くことが出来る装置よ。動力源にダミーコアを使ってね」


「新しい修行の場か? 一体どのような所へ行くのだ?」


「ふっ、よくぞ聞いてくれました。それは――テンプレの世界よ!」


「テン……プレ? 何だその言葉は。聞いたことがないぞ」


「いいからいいから、付いてきなさい!」


「またそれか!」




エリザは、見た目が12歳くらいのマオに合わせて、見た目が15歳くらいに見える少女の姿に変身する。変身後の服装は、シーフかレンジャーに見えるような、布の服に重要な場所だけ皮を当てたような軽装だ。マオは魔法使いなので、布の服にマントとさらに軽装だ。むしろ、ただの旅人の服にしか見えない。




「異世界転移装置、起動!」




エリザが起動と唱えると、ダミーコアに繋がれた異世界転移装置が低い唸り声を上げて起動する。その起動音が高くなったところで部屋全体が急に明るくなった。あたりは、うっそうと茂る森の中に変わっていた。雰囲気自体は元の世界とそれほど変わらない。




「何だ! 急に森の中に転移したのか。魔法陣が発生しないとは、どういう原理だ?」


「起動成功ね。あっ、装置を壊されないように結界を張っておかないと。原理は企業秘密よ!」


「……企業とはなんだ?」




転移の成功を確認したエリザは、ダミーコアと転移装置にバリアを張る。万が一壊されてしまったら、元の世界に戻るのに時間がかかる。まあ、それも面白いかもとエリザは思ったが、マオの反発が強くなると思われるのでやらなかった。企業について説明されても、マオにはどちらにしろその意味はあまり理解できないだろう。色々な知識を得ているエリサにしか分からない発言が多いので、慣れているマオはあえて返事は求めていない。




「よし、これでいいわね」


「それで、これからどう――」




ヒヒーンッ。わあああ。




「来たわ、イベントよ! 行くわよ、マオ!」


「一体、何がどうしたというのだ! 説明しろ、エリザ!」


「もちろん、テンプレのイベントが起きたのよ! さあ、襲われたのは誰かしら? 助けに行くわよ!」


「あ? ああ」




状況を把握しきれていないマオではあったが、エリザの「助けに行く」という言葉から、緊急性があると判断しとりあえず向かう事にした。




「あっ、この世界の状況がまだ分からないから、魔法はまだ使っちゃだめよ?」


「何だと? くっ、これも修行のためだ」




マオはそれを修行と捉え、肯定的に従う。身体強化魔法を伴わなくても、マオの体は世界樹を使った最高の素材であるユグドラシルの枝だ。大抵のことでは傷一つつくことは無い。ただ、走力は魔法を使った時と比べて段違いに遅いが。さらに言えば、空を飛んだ方が絶対に早い。




「見えたわ!」




二人が森を抜けて見た光景は、盗賊に襲われる馬車の姿だった。到着まで約5分。その間に、2人の護衛が重傷を負って戦闘不能に。そして、盗賊の方は3人がすでに死んでいた。護衛の方は重軽傷を含めて死者は居ないが、それでも盗賊の方が圧倒的に人数が多い。囲んでいる盗賊だけでも10人。護衛は残り2人。商人と思われる男性も、短剣を持っているがその手は震えていた。これでは、戦力には換算できないだろう。




「あー、商人の方だったか。お姫様が良かったなー」


「何を言っている、助けるぞ。武器を寄越せ」


「これは私のよ。マオはその辺に落ちてる盗賊か護衛の武器を使えばいいじゃない」


「っ、仕方ない」




エリザは、いつの間に持っていたのか、弓を構えて矢を放った。それは狙い通りに、護衛を斬ろうとしていた盗賊の右腕に刺さる。




「いてえっ! 誰だ?!」


「加勢する!」


「はっ、丸腰な上にガキ2人だけじゃねーか。お前ら、そっちは任せるぞ!」


「ほぉ、見た目は上玉だ。捕まえて売り飛ばすぞ! 出来る限り傷つけるなよ!」




マオに向かって3人の盗賊が向かう。その一人が、素手でマオを捉まえようとするが、するりと躱された。次の盗賊2人は武器で脅し、通せんぼしようとしたが、ジャンプで頭を飛び越えられる。マオはそのまま護衛の方へ向かう。




「大丈夫か?」


「助力感謝する。しかし、そちらこそ大丈夫か? 特に君は武器を持っている様には見えないが」


「そうだな……この剣を借りる」




マオは重傷でうずくまっている護衛の剣を拾う。マオの身長に不釣り合いな剣ではあるが、マオは重さを感じさせない様に軽々と持つ。




「ずいぶんと力もあがったな。いくぞ!」




マオは、非力だった初期の人形の体に比べると格段に力が強くなっている。盗賊と斬り結んでも、簡単に勝てるくらいに。魔法を使わなくても、この程度の盗賊ではマオの力に敵うものは居なかった。


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