第6話 緊急

「じゃあ、気を付けてがんばれよ」


ザジのパーティはマオとエリザに手を振って別れる。


「つ、疲れた……。まさか、まだクエストもしていないのに疲れるとは思わなかったわ」

「クエストを受ける前でよかったとも言えるが。まあ、クエストももうほとんど残っておらんがな」


マオの見る先にはクエストボードがある。そこには、今日新しく出された依頼、塩漬け依頼、常設依頼と分けられて張られている。王都だけあって冒険者の数が多いのか、新しく出された依頼はほとんどなくなっていて、残っているのは依頼料に対して仕事が割に合わない「とりあえず受けてくれる人が居たらいいな」的なものだけだ。塩漬け依頼は、遠方に行く必要のある物、見つかるかどうか分からないものなど条件が難しいものばかりだ。常設依頼は、薬草採取やゴブリンの討伐など初心者向けの物が多い。これをこなさないとランクが上がらないのだから、仕方がない。


「塩漬け依頼でもいいんだけど、場所が分からないのよねー。マオの魔法で分かるかしら?」

「さすがに、見た事もない魔物を探せといわれても、どれがその魔物か分からんから無理だ」

「だよねー」


例えAランクの依頼であっても倒す事は出来るが、その魔物がどこに居るのかすら分からない以上簡単に受けることは出来ない。受けました、ダメでしたでは済まない。最悪、キャンセル料やクエスト失敗のペナルティを受ける事になる。Fランクがそう言う事をやらかした場合、ギルドカードの剥奪もありえる。


「それじゃあ、大人しく常設依頼をこなしてFランクマで上げるしかないかな。はぁっ、思っていたのとなんか違うー」


明らかにやる気をなくしたエリザ。しかし、テンプレの世界でただの薬草採取クエストなんてやることはないのだ。


「た、大変だー! 魔物の群れが攻めて来るぞ!」

「本当!?」


エリザが、バッと顔を上げてギルドの入口を見る。息も絶え絶えに入ってきた男は、膝をついて息を整えようとする。その間に、最初の一言を聞いた受付嬢は、ギルドマスターを呼びに行った。


しばらくすると、ギルドマスターが慌てて走ってきた。


「魔物の群れだと! どこからだ! どれくらいだ!」

「北の方から、少なくても数千匹はいる! ここへ到着するのに、1日も無いはずだ! 急いで対応をお願いします!」

「北だと? 北の方角は今、魔王と勇者が戦っているはずだ。他を攻める余裕なんて無いはずだが」

「だけど、実際に来ているんだ、信じてくれ!」

「……分かった。すぐに緊急招集と、住民の避難を行う! 手の空いている者は、この事を他の奴らに知らせてくれ!」


ギルド内が慌ただしく動き始めた。受付嬢は緊急依頼書の作成を、ギルドマスターは近くの領主や他のギルドへの手紙を書き始める。休憩中だった職員や、ギルド内に居た冒険者達は住民や他の冒険者へこの事を伝えに走っていった。


「魔物の群れだって! 腕が鳴るわね! ギルドマスター、偵察に行ってきてもいい?」

「馬鹿野郎! Gランクになったばかりの奴が何を言ってやがる。お前達は弓や魔法が使える様だから、魔物が来たら城壁の上から魔物を倒してくれればいい! 時間まで、城壁で待機しててくれ」


ギルドマスターは、マオやエリザがこの街にまだ詳しくないことを知っているため、住民の避難にあてることはしなかった。それよりも、少しでも戦力になればと城壁へと向かわせる。だが、魔物の群れは予想よりも早く到達するのだった。

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