雪より白く

煙 亜月

第1話

 そう。行き倒れてたあんたを見つけた時、てっきり人の子だと思ってね、里まで連れてったの。頬っぺたなんか、真っ白で氷のように冷たかったもの、そりゃあ大急ぎさ。

 ところが寝ても覚めてもあんたは冷たいまんま、あまつさえ縁側でずーっと雪に打たれてるもんだから、こりゃあ村の衆も頭を抱えたさ。


 でも、あんたは歩いて山まで行くでもなく、熱い御御御付もふうふうして啜るしで、訊いたんだ。「あんたァ、本当は里のじゃのうて雪の山の子かェ? あんた、帰りたいのか、それともここがええんか、どっちなんだい?」ってね。したらあんた、「戻りたくない」ってひとこと言ったっきり泣き出して。


 ――そういう暮らしもみとせが過ぎた。あんたはみるみる色づいて、村の若衆も放っちゃおれんと来た。で、また訊いてみたのさ。「あんたも年頃や。ここで決めても決めなくてもいい、あんたは山に――」あたしはその先がいえなかった。この子を里に引き留めてたのはほかでもない、あたし自身だった。


 それを察したあんたは里に留まってくれてたんだ。その場で泣き崩れるあたしに、あんたは「あたい、あね様の縫うたおべべが欲しい。それ着てあたい、山に行く」といって、肩をさすってくれた。 その声と手は、震えていた。

 

 ――ああ、ことしも雪が降りよる。 真白な雪が降りよるよ。

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