第15話 そっと
(ばっかでい)
竹が生えている辰博の庭の前で膝を抱えている和音の、その小さな背中を少しの間見続けていた笙斗はやれやれと思いながら近づき、和音の隣で胡坐をかいた。
和音は立ち去ろうとはしなかったが、笙斗を見ようともしなかった。
笙斗は気にせずに口を開いた。
「別に、特別な微生物が腹の中にいるわけでもないし、竹が特別好きなわけでもない。竹を食べていたのは、貴重で高価な植物で、困らせるのにちょうどよかったから。あんたを含めたこの国への、ただのいやがらせだっての」
「………半分本当で、半分うそだね」
「辰博の入れ知恵か?」
「ううん。私が笙斗を見ていてそう思っただけ。だから、間違っているだろうけど。でも。笙斗は本当に、竹を食べるのが好きだと思った」
「………………間違っているかどうかは、おしえねー。まだ。和音が自信をもって俺に言ったら、おしえてやる」
「………うん、私、頑張って、また、笙斗の育て人になるから。絶対。なるからね」
「ばっか。りきむな。辰博を見習って、もう少し肩の力をぬけっつーの」
「ううう。まだその領域に行けないよー」
肩を落とした和音に、笙斗は時々はそんぐらいでいろと背中を強く叩いた。
「笙斗。痛い」
「痛くしたからな。シッタゲキレイだ。有難く受け取っておけ」
「うん。ありがとう」
「肩が上がったぞ。おろせおろせ」
「うえええ。もう無理だよー」
和音は笑った。
笙斗はその顔を見て、そっと、微笑を浮かべたのであった。
(2023.12.12)
パンダリュウ 藤泉都理 @fujitori
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