第14話 うそ




 和音の師匠である辰博たつひろが、笙斗の竜の育て人になって一か月が経った。


「おいこら意味不明竜の育て人」

「どこが意味不明竜の育て人なの。おいちゃんほど、竜をわかろうと粉骨砕身している人間はいないでしょうが。竜とのびのび暮らしている人間はいないでしょうが」

「のびのびっつーか、放置な」


 笙斗は冷めた目つきで辰博を見た。

 動く時と動かない時の落差がひどすぎる上に、動く時がほとんどない。

 竜のことで動く時なんて、産卵の時と竜の玉を加工する時だけじゃないのか。

 あとは放置だ。

 なのに、辰博が育てる竜は、ほかの竜の育て人が育てる竜のように、とうもろこし石を食べて、立派な竜の玉を創造して手渡している品行方正な竜たちばかりだ。

 なぞだ。なぞすぎる。


(まあ、好き勝手できるし。確かに、和音より、いらいらしねえけど)


 余裕があるからだろう。

 竜の育て人として、人間として。

 動いていない時のだらけた姿はダメダメそうに見えるが、それでも、不安感がなく、安心感がある。

 竜たちを信頼していてくれる、守ってくれると思わせてくれる、なぞの包容力。

 和音には備わっていないものだった。


(竜の育て人は確かに降りたけど、竜の育て人補佐にはなってんだろ。なんで、姿を見せないんだよ)


 いや、正確には、姿は見ている。

 ちらちらと。

 一緒に暮らしているのだ当然だ。

 けれど、以前のように、やかましく接してこない。


「そんなにイライラするなら、笙斗から会いに行けばいいだろーが」

「別に会いたくねーし。むしろ、会わなくてすっきりしてるし」

「和音。笙斗が竹好きだって信じ切って、おいちゃんの庭の竹を一生懸命調べているんだよ。けなげだねえ」

「………ばっかでい。今の俺を見てたら、竹が好きじゃないってわかるだろっ」

「そうだねえ。ミント類かドクダミを食べまくってるね。どっちも、いっぱい蔓延ってる植物だ。昔の竹みたいに」

「とうもろこし石よりかはめっちゃうまいからな!」

「うそつき」

「うそじゃねーし」

「ふふ。しょうがないねえ。そーゆーことにしといてあげるけど。身体に悪いと判断したら、即、とうもろこし石を食べてもらうからなあ」

「………ふん」

「あと。和音に会いに行ってあげな。あなたの方が和音より、おとな、でしょう?」

「………ふん」


 ドシドシと、わざと大きな音を立てながら家の外へと歩き続ける笙斗に向かって、辰博は横になったまま、ひらひらと手を振って見送ったのであった。











(2023.12.12)



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