ツンデレで有名な釘宮さんが、僕にだけツンの部分が機能していない問題

九傷

ツンデレで有名な釘宮さんが、僕にだけツンの部分が機能していない問題



 僕の学校には、ツンデレで有名な釘宮 理香くぎみや りかさんという女の子がいる。

 小柄で髪は金髪ツインテールという、まさにツンデレっ娘のテンプレートのような見た目をしている美少女だ。

 もちろん見た目だけでツンデレと言われているワケではなく、中身も完璧にテンプレート通りなことから、釘宮さんは学校で知らぬ者がいないほどの存在となっている。


 残念ながら僕とはクラスが違ったため直接本人と話す機会はなかったのだけど、2年のクラス替えで目出度めでたく同じクラスになることができた。

 しかも、僕の苗字が釘抜くぎぬきだったことが幸いし、釘宮さんの席は僕の隣になるという最高の展開に。


 僕は前々から釘宮さんに興味津々だったため、初日からここぞとばかりに声をかけた。

 しかし、彼女の反応は僕の想像していたものとは少し違っていたという……



「釘宮さんおはよう!」



 少し遅めに登校してきた釘宮さんに、クラスの女子が声をかける。

 釘宮さんは基本的にいつもツンツンしているが、男女問わず人気者だったりする。



「フン! ……おはよう」



 そっぽを向いて挨拶を拒絶するように見えてしっかり挨拶は返してくれるので、みんな嬉々として釘宮さんに声をかける。

 一通りの挨拶を終え、釘宮さんが自席に座った。

 このタイミングで、ようやく僕も声をかけることにする。



「おはよう、釘宮さん」


「フ、フン! おはよう!」



 釘宮さんは今日も元気そうで何よりだ。



「あはは、相変わらず元気いっぱいだね」


「ハァっ!? 当たり前でしょう!? 今日も朝からアンタの顔を見れたんだから!」


「「「「……」」」」



 釘宮さんの大きな声に、一瞬教室が静まり返った。

 それにハッとして、釘宮さんが慌てて訂正を口にする。



「か、勘違いしないでよね! アンタのことなんて少ししか気にしてないんだから!」


「う、うん……」



 とりあえず頷いておくと、釘宮さんは口をモニョモニョとさせながら机に突っ伏してしまった。

 釘宮さんと隣同士になって今日で三日目だが、実は初日からこんな感じだったりする。


 僕としては噂のツンデレがどんなものか是非体験したかったのだけど、最初からずっとこんな感じなのでイマイチ体感できてないのだ。

 口調はツンデレっぽいのに、内容はほとんどデレに近い状態なのである。

 厳密にはデレてはいないのだと思うのだけど、なんで最初から好感度が高めなのだろうか……







「あっ!」



 授業中、釘宮さんが消しゴムを落としてしまう。

 丁度僕の足元に転がってきたため、拾ってホコリを落とし、釘宮さんの机に置く。

 それを黙って見ていた釘宮さんが、プイっとそっぽを向く。



「か、感謝はするから! 綺麗に梱包して家宝にするから覚悟しなさい!」


「え、いや、消しゴムなんだから使ったほうがいいんじゃ……」


「ふざけないで! そんなことできるワケないでしょ!? ……安心なさい! 予備の消しゴムはあるんだから!」


「あ、うん、それなら、いいかな?」



 正直家宝にされても困るし、普通に使って欲しいのだけど、予備の消しゴムがあるというのなら本人の好きにさせても問題ない……ような気がする。



 その後は時折熱い視線を向けられつつも、特に会話もなく昼休みに突入した。

 僕はいつも購買でパンを買って食べるので、混雑を避けるため速やかに教室を出ようとする。



「待ちなさい!」


「ん? 何? 釘宮さん」


「コレ!」



 そう言って釘宮さんは、可愛らしいデザインの包みを胸に突き付けてくる。



「これは?」


「お弁当に決まってるでしょ!? これから毎日作ってくるから、感謝しなさいよ!?」



 なんと、釘宮さんは僕にお弁当を作ってきてくれたらしい。

 物凄く嬉しいけど、いいのだろうか?



「貰っていいの?」


「そんなもの、自分で考えなさいよ! アンタ、頭いいでしょ!」



 頭の良さは何も関係ない気がするけど、この状況で貰ってはいけないということには流石にならないだろう。

 僕としても、とりあえず流れで確認しただけであった。



「わかった。じゃあ、ありがたく頂きます」


「い、言っておくけど、たまたま暇だったから作っただけだから! でも勘違いしないでよね! 愛情はたっぷりこもってるんだから!」



 毎日作ってくると宣言しているのに、たまたま暇だったから作ったでけで、愛情はたっぷりこもっている……

 釘宮さん、もしかしてバグっているのかな?



「えっと、それじゃあ、一緒に食べようか?」


「し、仕方ないわね! 折角だからこれから毎日付き合ってあげる!」



 お、今のはツンデレっぽい気がする。

 まあ、内容は完全にデレてるけど。





 そんなこんなで、一週間経つ間もなく、僕らはクラス公認のカップル扱いを受けるようになってしまった。

 実際にはまだカップルが成立しているワケではないのだけど、昼食だけでなく登下校も一緒にするようになっている以上、誤解するなという方が無理な話だろう。


 釘宮さんの気持ちは誰が見ても明らかなので、あとは僕がどう応えるかにかかっているのだが……、正直少し悩んでいる。

 あ、別に僕の気持ちに自信がないというワケではない。

 最初こそ好奇心の方が勝っていたのは確かだけど、あんな可愛い子に猛烈な好意を寄せられて平気でいられるハズないじゃないか。

 手を繋いで下校した瞬間から、僕の気持ちは完全にLOVEになっていた。


 問題なのは、それを伝えて釘宮さんが壊れてしまわないかという点である。

 釘宮さんは現状でもかなりバグっており、ツンデレのツンの部分がほとんど機能していない。

 辛うじてツンの名残はあるけど、実質ほぼデレデレだ。

 この状態で僕の気持ちを伝えたら、何かの化学反応が発生してヤンデレやメスガキに進化したりしないか心配なのである。

 無用の心配とは思うが、釘宮さんは既にツンデレという属性を持っているので何が起きてもおかしくはない。



「ん?」



 校門の方を見ると、何故か釘宮さんが他校の男子に絡まれていた。

 それも、今時珍しい長ランのコッテコテの不良に。

 既にバレバレなのに恥ずかしいという理由から校門で待ち合わせをしていたのだけど、こんなことなら一緒に教室を出るべきであった。

 急いで駆け寄ると、不良達の声がハッキリと聞こえてくる。



「噂通りのツンデレじゃねぇか! 俺は気のツエー女は大好きだぜ!」


「放しなさいよ! アンタなんか、ぜ、全然怖くないんだからね!」



 どうやら、あの不良達は釘宮さんの噂を聞きつけてウチの学校にやってきたようだ。

 流石は天然物のツンデレ。校外にもその噂は広まっているらしい。

 少し感心してしまったが、今はそんな場合ではないので、とりあえず釘宮さんを後ろに庇うように体を差し込む。



「なんだァ? てめェ……」


「彼女が嫌がっています。手を放してください」



 僕は口でそう言いながらも、釘宮さんの手を掴んでいる不良の腕を強く握りしめる。



「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁっっ! 俺の腕がぁぁぁぁぁっ!」



 不良は僕に掴まれた箇所を手で押さえながら転げまわる。



「テメェ! 何しやがった!」


「ちょっと強く掴んだだけですよ。ただ僕、かなり握力強いので痛かったと思います」



 トランプ52枚を引き千切れる握力が、僕のちょっとした自慢だ。



「ナンパの邪魔しやがって! テメェなんのつもりだ!」


「なんのつもりって……」



 そんなのは釘宮さんを守るために決まっているが、僕はこの場合どういう立場なのだろうか。

 少なくとも現時点で僕は釘宮さんの恋人でもなんでもないワケで、彼らが本当にナンパをしていただけだとしたら止める権利はないだろう。

 いやでも、釘宮さんは明らかに嫌がっていたし、助けるのが普通か?



「よ、余計なことしないで! アンタに何かあったら、絶対に許さないんだから!」


「っ!」



 相変わらずバグっている釘宮さんだが、その目には涙が溜まっていた。

 それを見た瞬間、僕の中で今まで悩んでいたことが全て吹き飛ぶのを感じる。



「なんのつもりかお答えします。それは彼女が、僕の恋人だからですよ」


「っ!?」



 僕がそう言った瞬間、釘宮さんは目を見開いて驚愕の表情を浮かべる。

 一体彼女の中でどんな化学反応が起きたのか気になるが、たとえヤンデレやメスガキになっても受け入れる覚悟は完了している。



「へ? お前、この子の彼氏なの?」


「一応そのつもりです」


「な、なんだよ、それならそうと早く言えよ! 俺達は硬派だからな。人の女に手は出さねぇ!」



 不良達はそう言ってダッシュで去っていった。

 意外と話せばわかる相手だったようで、腕を握った彼には悪いことをしたかもしれない。



「ア、ア、ア、アンタ! どどどどど、どういうつもりよ!?」



 驚愕による緊急停止から立ち直った釘宮さんが、僕に人差し指を突き付けながら言う。

 とりあえず、現状はまだ怪しい進化はしていないようだ。



「いや、単純に僕が釘宮さんのことを好きで、恋人になりたいというだけの話だけど?」


「なっ……、なななななな、なんですってぇぇぇぇぇっ!?」


「いや、そんなに驚くことかな? そもそも好きじゃなきゃ手を握って仲良く下校なんてしないでしょ?」


「え……、そ、そう……、なの?」


「うん」



 釘宮さんは自分の感覚がバグっていることに気づいていなかったようで、これまでの行動を一つ一つ僕に確認して身悶えしている。

 もしかしたら、これでバグが修正されるかもしれない。



「それで改めて確認するけど、僕たちは恋人同士ってことでいいよね? 僕は釘宮さんのこと凄く好きだし、僕の勘違いじゃなきゃ釘宮さんも僕のことを好きなんだと思うんだけど」



 これで勘違いだったら引きこもってニート化する自信があるけど、流石にないと信じたい。



「そ、そんなの……」


「そんなの?」



 僕が急かすように尋ねると、釘宮さんは顔を真っ赤にしながら睨みつけてきた。



「す、好きで悪い!?」


「いや、嬉しいよ」



 釘宮さんのバグは解消され、無事(?)ツンデレに戻ったようだ。

 今後はツンの部分に悩まされることもあるかもしれないけど、それはそれできっと楽しいに違いない。

 何と言ってもツンデレの醍醐味は、デレデレになるまでの過程なのだから……





 ~おしまい~




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ツンデレで有名な釘宮さんが、僕にだけツンの部分が機能していない問題 九傷 @Konokizu2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ