エピローグ

 レジに向かった女性が会計を終え、出口に向かうのを見届ける。


 ゆき――あんた生きてたら、ベストセラー作家で金持ちだったよ。

 

 アタシはなんだ。まあ頑張って自分で稼ぐよ。知らなかったからさ。ゆきや一条さんみたいな人が世の中にたくさんいるって事。知ろうともしなかったからさ。


 ねえ、聴こえる? ゆきの人生に意味はあったんだよ。


 そう心の中で語りかけると、また鼻の奥が熱くなった。

 

 泣くな――アリサは己に言い聞かせる。

 

 これから出勤だ。こんなメイクで泣いたら、パンダどころじゃない。


 さあ、今日も稼ぐぞ! 


 己にはっぱをかけ、アリサは書店フロアを偉そうなくらいに胸を反り返らせ、歩き出した―――。


 

 

 ―――当初、本の売れ行きは微々たるものだった。

 

 しかし、ある事でその潮目は劇的に変わった。


 アリサが本を手渡して数カ月後、一条さんがツイッターで紹介してくれたのだ。

 

 そして――本の表紙に添えられていたこの一言も、爆発的な売れ行きにおそらくは貢献したにちがいない。


 「この本による収益はすべて交通遺児奨学金の会に寄付されます」



                 (完)


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幽霊のゴーストライター まるっこ @marumarunomaru

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