第12話
約束の日――慰霊碑に供えるための花と、ゆきの本を胸に抱き、アリサは待ち合わせ場所に向かった。
15分前だというのに、一条さんが慰霊碑の前でしゃがみ手を合わせていた。
気配を感じたのか、一条さんがアリサの方に顔を向けた。
アリサは深く頭を下げる。
一条さんが立ち上がり、礼を返した。
「DMを送らせてもらったアリサです。今日はありがとうございます」
そう言ってアリサは、再度深く頭を下げた。
そして丁寧に礼を伝え、本を手渡した。
一条さんは「時間はかかるかもしれませんが必ず読ませてもらいます」と言ってくれた。
「お花、供えさせてください」
そう言ってアリサは慰霊碑にそっと花を供え、目を閉じ、手を合わせた。
「妻と娘のためにありがとうございます」
膝に頭がつくようにして一条さんは言う。
「本を書いたゆきも、私も、そして多くの人も、一条さんを応援してると思います。頑張って下さい」そう伝えた。
「では失礼します」
一条さんに背を向け、アリサは歩き出した。
ゆき、見てる? やったよ。一条さん、ゆきの本もらってくれたよ。きっと読んでくれると思う。これがゆきが一番望んでた事だよね?
そう心の中で、ゆきに語りかけ歩いていると頬に冷たいものを感じ、空を見上げた。
すれちがう幼稚園児ぐらいの女の子が、嬉しそうに母親に語りかけるのが聴こえる。
「あーママー、ゆきだよ、ゆき、ゆき」
見上げると空から静かに、はらはらと粉雪が舞い落ちてくる。
なんだよ……ゆき。親父のダジャレじゃないんだからさ。もっと上手に伝えなよ。喜んでくれてんだね。アタシに伝えようとしてくれてんだよね。勝手にそう思っとくかんね。しめっぽいのは苦手なんだから勘弁してよ。
目元に降りかかったままの粉雪を、アリサはそっと指でぬぐった―――。
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