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土刃猛士

第1話


 その艶かしい肢体に蠱惑的なパフュームを染みこませ、彼女らは真っ白なファウンデーションを纏っていく。


 いままで淑女たらんと寡黙でいた彼女らは、琥珀色をしたプールに身を沈めたとたん、饒舌になる。

 互いに熱い抱擁を交わし身を寄せ合わせると、すぐに突き放すように離れていく。だが次の瞬間また抱き合うと、身体の奥底の方から湧き出だすように喋りだす。


 今日の香りはどうかしら?

 ファンデのノリは?

 ねぇ、今日のはちょっと熱すぎない?

 アソコの殿方、唇がセクシーよ。

 堪らないわ。


 基本、彼女らは寂しがりやなのだ。独りでいることを厭い、いつでも仲間同士身を寄せ合う。そんな彼女らを無情にも引き離すのは僕の仕事だ。


 はじめは皆でより集まり、なんなら溶けて一つにでもなろうと身を寄せ合う。でもお喋りに飽きてくると彼女らは素直に離れていく。


 だが本番前のリハーサルというにはあまりにも賑やかなその嬌声は、どんなに離れようと収まることを知らない。


 無用なトラブルを起こさぬよう、僕は彼女らのソーシャルディスタンスをチェックする。

 僕の仕事は、最高の状態で彼女らを揚げることなのだ。


 間違っても中途半端なコンディションで舞台にあがるなど、お互いにとって良いことは何一つないのだ。


 そんな彼女たちの饗宴は唐突に終わりを告げる。あれほどの賑わいが幻かと思うほど、トーンダウンを始める。


 本番前に疲れてしまったのかって?

 とんでもない。まさに彼女たちは本番に向け、仕上がってきたのだ。


 さぁ、ここかは時間との勝負。大舞台に向け最高に仕上がってきた彼女らのお披露目だ。

 

お客さんの歓声を浴び、彼女らは今宵限りのシンデレラになる。


 琥珀色のプールから彼女らを引き揚げ、蠱惑的な汗を落とす。

 フェロモンをたっぷりの芳香を纏う美しい肢体の仕上がりを確認する。


 うん。今夜も完璧だ。


 真っ白い舞台にグリーンの絨毯。クレッセントムーンを思わせる檸檬は最高の引き立て役だ。

 これ以上なにも加える必要はない。


 白い湯気をあげる舞台の向こうに、目を輝かせたお客さんの顔。


「から揚げお待ちどうさまでした」


 さぁ、マイフェアレディ。行っておいで!





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make up 土刃猛士 @takeshi999

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