できるだけ丁寧に恋をしよう

ブロッコリー展

恋➖ラブコメ🟰0

僕とハニーは素敵なことが載ってる地図を広げて語らう。


夢のような行程を夢見て。


付き合いたてって何をしても楽しいものだ。


ねえそうだろ?ハニー


「ねえハニー、ワクワク館でワクワクしようよ」


「しあわせロードをまっすぐ行きたいわ」


「安らぎ処で安らげればいいね、ハニー」


「ほら、見て、ここ、ウキウキショップとキラキラマーケットが並んでてとても便利よ」


「ウキウキしたあとにキラキラできるなんて、ハニー、ハニー」


「ほのぼのスポットがあったら二人でほのぼのしたいわ」


「ルート的にはほっこりワールドでほっこりしたらだねハニー」


「ゆとり橋を渡ると早そうよ」


「うん、ゆとり橋を渡ってゆとりを手に入れようハニー」


「ああ、なんて素敵なんでしょう。待ちきれないわ」


「ああ、僕もだよハニー」


── 僕も待ちきれないよ、『恋検』が。


たぶん、無用のスパキュレーションを避けるためのことを何もしていないので、聞いている人はなんだかわからないと思う。


世の中のSDGsの流れで、恋愛も持続可能なものにしていこうということになって、


恋愛にも、車検みたいな恋検制度が法整備された。


カップルは2年に一度恋検を通さなくてはいけない。


僕らがこうして楽しく眺めていたものは、その恋検をテーマパーク感覚で周りながら受けられる『恋検ランド』のパンフだった。


記念すべき第一回目の予約はもう済ませてある。


この恋が安心安全に持続していけば嬉しい。


そんなこんないろいろ盛り上がっていたらもうこんな夜遅い時間だ。


僕らは部屋の明かりを消す。


「おはようからおやすみまでおやすみハニー」


「ふふ、お口の恋人のお口にキスをちょうだい」


とにかく当日が楽しみだ。



🔸 🔸 🔸 🔸



当日。いい天気だ。恋検日和。


僕とハニーは付き合いたての雰囲気を過積載気味に車に積んで出かけた。


世界中のレディーファーストよりも常にコンマ何秒か早い。僕は常に心がけてる。ハニーのために。


到着


車に乗ったまま回れるみたいで、僕らは事前の打ち合わせ通りに各セクターを回って楽しんだ。


ただ単にテーマパークで遊んでいるだけみたいになっちゃってるけど、そういう感じをいろいろ検査してくれてるんだど思う。


恋愛を色々な角度から見る機械とかがきっとあるんだろう。


さんざん遊んで、いざ結果判定場へ。


まあ、問題ないはずだ。なにせ付き合いたてなんだから。


恋愛整備士の茶髪のお兄さんが出てきて、いろいろ説明してくれた。やっぱりツナギは着るみたいだ。


3Dプリンターで再現した僕らの“恋愛”を実際に見ながら説明を聞く。


恋愛の形を見たのは初めてだったけど、なんて言っていいかわからなかった。大きさは車くらいだ。


お兄さんはいろいろ首を傾げながら渋い顔だ。


なんか僕らの恋愛に問題箇所があったんだろうか。


整「ちょっと、このままじゃ、恋検通らないですねー」


僕「えーなんでですか?」


整「いろいろ、消耗してたりとか錆び付いてたりとかあるんで……、あれですかね、これ、中古で恋愛されたんですかね」


僕「なんですか中古って、失礼ですよ。付き合いたてなのに」


“ひどーい”とハニーのほっぺも膨らんでしまっている。


整「冷却装置が忘却起こしてたりとかもあるしなー、あと計測してみたら、ちょっと恋圧が高めですね。高恋圧の症状があります」


僕「とにかく整備うまくしてもらえないですかね」


整「まあ、まれに低恋圧でもラブラブな人いますけどね。恋愛もエンジンも生き物なんでねー」


僕「あの、もうちょっとわかりやすく言ってもらえませんか、素人なもんで」


整「あ、すいません。そうですね、例えば、好きな人にキャブレター書いて渡したりしないですよね。そんな感じなんですよねー」


僕「……」


わざとなのかな。彼は文句は国に言ってくださいみたいな顔だ。


ハニーは泣き出してしまった。僕らの恋愛をこんな角度から否定されるなんて、僕だって泣きたい。まったくひどい制度だ。


整「あの、お二人の恋愛コミットメントラインの設定の書類見せてもらっていいですか?」


僕「そんなのないですよ。なんですかコミットメントとか、設定とか、僕とハニーは心が通じ合っているんですから」


僕らの恋愛は純愛と純愛を足して2で割ったものなのだ。


整「まあ、努力義務なんで、なくてもいいんですけどね、でもこのままではねー」


僕「検査、通らないとどうなるんですか?」


整「まあ、いったん別れてもらうしかないんですけどもー」


僕「そんな無茶苦茶な」


“そんな無茶苦茶な”っていうドラマのセリフでしか聞かないようなのを初めて言ってしまった。


すると恋愛整備士のお兄さんはなんか不貞腐れた態度になってこう言った。


「こっちだって彼女いないのに毎日ラブラブな人ばっか見なくちゃいけないんですから、やってらんないですよ。ラブラブじゃない人ははなから通しに来ないですから『廃恋』にしちゃいますから。ラブラブばっかですよ」


確かにちょっと同情はするけど、でも仕事なんだからちゃんとやってもらわないとだ。


この先の僕とハニーの恋がかかってるわけだから。


お兄さんは「とにかく手の施しようがないとか半導体が不足してる」とか言って、ポッケに手を突っ込んで職務を放棄するかのように口笛を吹き始めた。


もしかしてこれはチップ的なものを要求されているんだろうか。


料金は事前にきっちり振り込んである。


ても、まだ国から認定された恋愛整備士が彼とあと一人しか国内にいなくて、しかももう一人の人は恋愛中のため仕事ができないらしい。


ハニーと相談して、仕方なくチップを渡した。


途端にガラリと態度が変わるお兄さん。


道具を手にテキパキ動き回る。


整「いまぐるっとお客様の“恋愛”を総ざらいしてみたんですけど、ギリ行けそうですね」


僕「ギリじゃなくて完璧にお願いします」


── チップ。


整「完璧に行けます!」


こうして無事に僕らの恋愛は恋検を通った。


なんだかすごく疲れた。次が2年後で本当に良かった。


ところが帰り道、


僕らの恋愛にまさかの不具合が発生して、ストップしてしまった。


恋愛がうんともすんとも言わなくなってしまったのだ。


仕方がないので、恋愛ロードサービスを呼んだ。


「どーもでーす」


「あーっ、さっきのお兄さんじゃーん」


「さっきってなんだですか?」


「とぼけないでよ、整備士のお兄さんでしょ」


「バレましたか、テヘヘ。実はこっちでバイトしてまして」


マッチポンプかよ。


「あ、もしかしして、今マッチポンプかよって思いました?恋愛ってマッチポンプ的な要素あるじゃないですかー?」


「そういうのもういいですから、なんとかしてください」


「うーん、これは、恋愛レッカーかなー」


「えー、恋愛がレッカーされたらどうなるんですか?」


「まーいったん別れてもらうしかないですねー」


例の口笛が始まった。


ハニーと相談してまたチップを渡す。


お兄「毎度でーす」


サクサク作業終了。


お兄「サービスで恋愛リミッターカットもしといたんで、それじゃあ、失礼しまーす」


僕らは直った“恋愛”でまた家路についた。


確かに彼の言う通り、二人の恋愛がすごいスピードになっていて、


僕とハニーはそのまま結婚してしまった。





    

                  めでたし

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