第4話 忘れられた過去

ある絶望していた少女の話。

少女の家庭環境は最悪なもので毎日のように両親が喧嘩をしていた。

そして、その腹いせに少女は殴られる。

ある日は巻き込まれ少女が悪いという結論になり殴られ、ある日は仲直りと言って自然と少女を殴る。

ギャンブルに負けたとか愛人に逃げられたとかなんとなくとか気分とか殴られる理由は最早なんでもありだった。

親としてはいいストレス発散グッズ。

だから、何かあれば少女に八つ当たり、何もなくても何かと言いがかりをつけて暴行。

親は殴れたら何でもいいと思っていたことだろう

はっきり言ってそんなおかしな親が嫌いだった。


しかし、暴力されると怯えていたから何も助けを求める行動を起こせなかった。

それほど恐怖支配は絶大な効果があるのだと小さいながら理解したのだ。



数年後、少女に転機が訪れる。

両親が何をしたのかは知らないが犯罪を犯したらしく少女を連れてどこかも知らない場所に移動した。逃げたという方が正しい。


数日間外に出ず、なにかから隠れているような生活だったため幼いながらも悪いことをしたからこうしていると察していた。


そして、ある日

少女は前日、瀕死になるまで殴られ、気絶するかのように眠っていた。

少女が目を覚ますと目の前には知らない男が座っていた。


「お、目が覚めたか」


「え…だれ…ですか?」


「あーと、馴れ馴れしすぎて驚かせちゃったかな…」


「あの……」


「あ、ごめんごめん、俺の名前はノボル」


「ノ…ボル?」 


「そうノボル。ミスミ・ノボル」


「ミスミ…ってはっ!」

寝起きでぼーっとしていた頭が冴えた。

やばい、思いっきり顔をあげたから傷が…

と思ったものの痛みは引いていた


「あれ…痛く無い…」


「あぁ…俺が応急処置しておいたから少しマシになったのかも」

彼は温かい笑顔を私に向けてくれた。

彼の笑顔は私の人生で一番幸せな気持ちになれたものだった。


❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇


これが私、アヤカの過去。


ご主人様…ノボル様が私を見つけてくれたおかげで人として生きることができるようになった。

私の時間を動かしてくれたのがノボル様であるのと同時にノボル様の時間を止めてしまったのが私。


そう。この両親が隠れている間、ノボル様は捜査のために数日間家をあけていた。

そして、ご両親は殺されてしまった。

これは、私のせいだ。

私が…助けを求めていれば…覚悟を決めていれば…もっと勇気があれば、変わっていたかもしれない。


しかし、ノボル様は優しい。

だから

「お前は悪くない、悪いのはこのクソみたいな社会…世界だ」

と言ってくれる。

私は寄辺がないからとこの使用人職も与えてくれた…。

助けてくれたときから思っていた。

この方に全てを捧げると…

ノボル様の命令であれば何でも応える、

死ねと言われれば死ぬし、夜のお相手だって構わない。寧ろ喜んで体を捧げる。


この方に捧げるものが汚くてはならないから、毎日、肌のケアからにおい、髪型、服装の乱れがないか、歩き方、佇まい全てを綺麗にし、胸を張ってミスミ家の使用人だと言えるように能力だって日々磨いている。


しかし、記憶を失ったノボル様は私の過去を知らない。だから、言わなくてはならないが、なかなか言い出せない。

私の決意から考えると自殺ものだが、ノボル様に命令されたわけでもないのでそれはそれで忠義がない。

前に言いかけで終わったときに、ちゃんと言っていれば……。

後悔だけが、私の思考を支配している。


❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇


「おーい、アヤカごめんって」


さっきから声をかけているのだが、アヤカは一点を見つめたまま何も反応を返さない。 

う〜これ機嫌直るの時間かかるやつだ…。

そう思いどうしたものかと、困っていた。


すると、アヤカの瞳からなにかが流れ落ちた。

それは涙だった。


「え、あ、え、だ、大丈夫か?」

やばい状況が読み取れない。


「ごめん…なさい…ごめんなさい」


「え?」


「私…ずっと、隠してました…すべてを捧げると決めてたのに…なのに……」


「ちょ、ちょっと待て、落ち着いて、な?ゆっくりでいいから話してくれ」


「はい…」


・ ・ ・ ・ ・ ・


「そっかー」

アヤカの過去から懺悔まで全て聞かせてもらった。日は沈もうと動き、月は自分が主人公だと言い張るかのように輝きながら上ってくる。


アヤカの話に出てきた昔の僕はそんなイケメンなことをしていたんだと思うと今が情けなく感じるな…。


「すみません…私のせいで…」


「違うでしょ、なんで被害者が罪を背負わなくてはならないんだよ、そんなのおかしい」


「う…うぅ…」


さらに泣き出すアヤカ。 

しまった、ありきたりなことを言ってしまったかと思ったが、どうやらそれが理由ではなさそうだ。


「優しい…優しすぎます…」


「君に優しいのは、君がアヤカだからだ」

うわぁぁ、カッコつけすぎたぁぁ、後から恥ずかしくなるやつぅ………。

でも、泣いてる女の子の前ではカッコつけたくなるよな…そうだろ?


❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇


アヤカが泣き止んだ頃、僕はふと疑問に思ったことを尋ねた。


「なぁ、アヤカ」


「なんでしょう?」


「全てを捧げるって言ってたけど…」


それですべてを察したのかアヤカは頬を赤くし照れくさそうに

「はい…ノボル様がお望みならば、いい…ですよ」


「はぶっ」


クリティカルヒット。

大ダメージ。


今のは破壊力ありすぎだよ…。


しかし、今手を出せば、色々と不味いような……。

グラグラと気持ちが揺れ動く。


確かに?アヤカは大きすぎず小さくないいい感じの胸だし、優しくて穏やかな性格だし、僕と話しているとき凄く楽しそうだから一緒に居て楽しいし、第一可愛いし、僕に尽くしてくれている。

しかし、だ。だからといって手を出していいわけではない。

アヤカはああ言っているが、僕はミスミ家の当主。上に立つ者として、責任を持った行動をしなくてはならない。

今は我慢のときだ。

そう、もう少し…なり


「今は…遠慮しておこうかな」


「そう…ですか」

少ししゅん…となるアヤカ。

もしかして期待してたのか?


「もしかしてアヤー」


喋ろうとする口を遮るかのように合わせられたアヤカの唇に僕は驚きのあまり声も出なかった。

アヤカはさらに強く唇を押し当ててきた。


わずか数秒のことであったが、二人にとってはもっと長く感じるような口付けであった。


「これは、お礼ですっ」

そう言って僕に抱きついてきた、色々な部分が当たって僕の下半身が苦しいことになっていた。




「あっ///…ご主人様の苦しそう…」

アヤカは完全に興奮に染まった顔で舌なめずりをした。

ゆっくり服を脱ぎながら僕をベッドへと誘導し下着姿でさっきよりもさらに密着してきた。


あぁ…僕の決意は何だったのだろうか…

そのまま流されるように長い夜を過ごした。

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記憶消失した俺が記憶を取り戻すまで キサラギ @novelsriteskamise

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