第3話 進展
「お待たせしました」
応接室の扉を開けながら言うと目の前には、髭を生やし少しふくよかな体系をした中年男性が座っていた。
「いえいえ、チャンスが来るまで待つのも商人として必要ですよ」
立ち上がり、開口一番ジョークをかましてきたことに苦笑しながらなんとか動く口で
「お座りください」
と言った。
「では、改めて失礼して」
と男は座った。
「では、用件をお伺いしても?」
「はい、まずは私は商人をしております。エオルド・ノース。ノース商会の会長をしております」
「ノース商会といえば、王都を中心に展開している商会じゃないですか、どうしてここに?」
「はい、まずはこちらをご覧ください」
手渡された分厚くて重い書類の束のような本を渡された。
それを開くとそこには見覚えのある文字列が並んでいた。
「これは…」
「文字のことは私もさっぱりですが、分かることが一つだけあるのです」
「それは?」
「これはミスミ家が関係しているものであると」
「どうしてそれが」
あの本たちのことを知っている者はこの家の外にはいないはずだ。
「これが発見されたのは旧王国軍最高司令部の建物で、元帥室だったそうです、つまりあなたのお祖父上がお持ちになっていたものである可能性があるのです」
「寧ろそれ以外の可能性は考えられないよな…」
「おっしゃる通りです」
「で、この品をいくらで買えばいい?」
見え見えの下心に少しイラついたせいか敬語が抜けてしまったがエオルドは気にすることもなく
「話が早くて助かります」
嫌な笑顔で言った。
「今回は特別に割引しておきますよ」
「分かった、払おう」
商人というものはあまり好きになれそうにないな。
❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇
あの男が帰ってから僕は黙々と買い取った本を読み込んでいた。
しかし…
「まっっっったく分からん…」
まだまだページは残っていたが、諦めてパラパラと適当にめくっていた。
「ん?」
不自然なページを見つけた。
それは一番最後のページで一見遊び紙のように見えるが、どこか不自然だ。
気になるが、どう見てもただの白紙だ。
は〜ぁもう寝ようかな〜
と体を伸ばしていると
足が机に当たってしまい照明用のロウソクがぐらついた。
「あ、やばい」
倒れるロウソクが本に当たる直前になんとかロウソクを掴むことができた。
「あ、熱っ!っ……ん?んん!?」
なんとさっきまで白紙だったはずの紙の一部に文字が浮かび上がっていた。
「そうか、炙り出しか」
紙を燃やしてしまわない程度にロウソクの火を紙に近付ける。
すると、紙全体に文字が浮かび上がってきた。
「なになに…『子孫へ』か」
ここには未知の文字を翻訳する方法が記載されていた。
大発見だ。
僕がこれまで数週間もかけて解読しようとしていたものがこの一瞬で解決してしまうのだ。
今までの努力は何だったのかと虚しくなる気もするが、それも必要なものだった…と信じたい。
「解読…するとしますか」
まずは僕が一番最初に手に取った本にすることにした。
「なになに………
【あの日、私は死んだ。死んでいたらこんなことを書けるはずがないと思うが本当に死んだのだ。死んだはずだ。しかし、気付けば目の前には自分の知らない世界が広がっていた。服装も違う、顔立ちも建物も移動に使うものも何もかも違う。何をすればいいのか分からない、ここが何なのかも分からない、分からない…分からないことしかない。………………】か……」
これが祖父のものだとすると、これはどういうことだろうか。
あの日死んだ?
そんなことあるはずがない……あってはならない…。死人が生き返るなどあり得ない…。あ…そうか、これは祖父がてん“そういうお年頃”のときに書いた黒歴史なのかもしれない。そうに違いない!
というふうに僕の頭の中はカオスなほどにパニック状態である。
……………………。
とりあえず、落ち着くために目を閉じて深呼吸しよう。
目を閉じると、ある記憶が蘇る。
最初はボヤけた感じであったが、次第に鮮明なものへとなってゆく。
これは僕が記憶を失って初めての記憶の一部となったもの…夢だ。
あの夢…あの夢は確かにこの風景とは違ったものだったと思う。
あの夢が祖父の記憶だと仮定するのならば、なぜ僕はそれを見たのだろうか。違う世界とは何なのだろうか。
謎はまだまだ多い何なら謎しか残っていない。
あぁ…眠いな…一気に眠気が押し寄せてきた………。
僕は深い眠りに落ちた。
❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇
「ハッ!」
目を開けると僕は立っていた。
これは…何が起こっている?
自分が着ている服が違う。
ここは王都か?
さっきから人の行き来が激しい。
これも…祖父の記憶…?
服装という点ではまさに記述通りだ。
しかし、その他は分かりようがない。
このあと祖父はどうしたっけ?
【少し、呆然としていたが我に返った私は少しでも生きのびるために大きな城のある南方向に歩いた】
「よし、南だ」
南に向かって歩いていく。
【そして、少し歩いた先に見える小さな路地で女性が殴る蹴るの暴行を受けていたため助けたそこで、私は言葉だけは通じることを知った】
その記述通りの路地に入ると物音が聞こえてきた。よく耳を澄ませ様子を見ることにした。
「や、やめっ…やめてくださぃ……」
「あん?聞こえねぇなぁ」
女性は完全に虫の息だ、骨を数本は持っていかれているだろう。
「おい、そろそろやめた方がいいんじゃないか」
「あ?誰だお前?」
「誰だろうな」
祖父の記憶を見ている自分を少し皮肉りながら言った言葉に男は少し腹が立ったのか暴行する手を止めこちらに向かってくる。
「あまり調子にっー」
男が言葉を言い切る前にみぞおちに一発入れて足を払い、顔面に一発拳を入れた。
男は完全にノックダウン。
「大丈夫ですか?」
女性に声をかけた。
「は………い………」
これはちょっと不味いかもな…
「救急車を呼ばないと」
……救急車って何だ?
僕は何を言っているんだ?
女性を背負い男を引っ張りながら路地を出た。
ここで何故か記述は途切れている。
何が起こるのだろうか。
辺りを見回していると突然白い光が視界全体に広がり視界を奪ってくる。
「な…なんだ?」
………………
……………
…………
・・・
「ご……様」
「…主…様」
「ご主人様!」
「うわぁぁ!」
「おはようございます」
ニッコリと微笑みながらアヤカが僕に言った。
「おはよう?あれ、あの女性は?」
「はい?女性…ですか?」
少し眉を吊り上げながらも笑顔は保ったまま高圧的に言った。
「い、いやなんでもない…夢の話だ」
「夢ですか、ふーん」
「え、なにその反応」
「ふーんだ」
「えぇ…」
「別に?疲れて机に突っ伏して寝ているご主人様を想って起こさずロウソクの火を消したり毛布をかけたりしたのに、起きて一番に違う女の話をされて少し良い気分がしないだけで大したことではありません」
「はい、ごめんなさい」
「別に大したことじゃないですから」
「本当にごめんって」
その後アヤカの機嫌が良くなるのに結構時間がかかったのであった。
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