塩結び
タヌキング
塩が結ぶ縁のある
俺の名前は西山。ちょっとガタイの良いだけの平凡な男子高校生である。
俺のクラスに少々変わった女が居る。
塩田 井生(しおた いお)なんて名前の女なんだが、俺はその女と最近まで話したことすら無かった。だがしかし、今日になってその女の悪評を耳にすることになった。
何でも名前の通り塩対応の女で、挨拶や親切をされても素っ気ない態度をすると言うのである。一説によると体が本当に塩で出来た塩人形とか、雨の日はナメクジに塩を擦り込んでいるとか噂があるらしい。三白眼で目付きも悪い容姿も相まって、印象が悪くなっているのだろうが、俺から言わせれば塩対応ぐらいで悪く言うなんて人間なんて底が浅い。挨拶や親切なんてものは見返りを求めてやることじゃないんだよ。
何となく気になったので、暇つぶし程度に塩田のことを観察してみることにした。すると授業中、塩田の消しゴムが床に落ちて俺の居る方向に転がって行った。とはいえ結構距離が離れているので他の奴が拾ってあげるかと思ったが、皆見て見ぬフリを決め込んでいる。大方、消しゴムを拾ってあげても塩対応されると思っているのだろう。あぁ、なんてこった。冷たい奴らだねぇ。
仕方ないので俺が拾って塩田の席まで持って行った。前で教鞭を振う先生は何事かと俺のことを見ていたが、さしてこの程度のことで話すこともあるまいと、俺は塩田の机に消しゴムを置いた。
「これ落ちてたぞ。」
そう言ってみたが、どういう反応をするのか気になるところである。さぁさぁ塩対応とやらを俺に見せてくれ。
「・・・。」
ほぉ、俺の方も向かずに黒板の写し書きをやめる様子もない。これが塩対応というヤツか、やるねぇ。
そこから俺は無言で自分の席に帰って行った。「西山ドンマイ」とか「西山君可哀そう」とかクラスメート達の声が聞こえてきたが、何をそんなに憐れんでいるのか理解に苦しむ。
まぁ、塩田に興味が俄然湧いて来た。
そこから俺は一週間、塩田の監察を続けた。そして観察して分かってきたんだが、あの女どうやら極度のおっちょこちょいらしい。
よくコケそうになるし、移動教室は違うところに行きそうになるし、危なっかしいことこの上ない。消しゴムが床に転がった回数が50を超えた時点で俺は数えるのをやめた。
これはこの先コイツが生きて行けるか心配なレベルである。
だから満を持して言ってやることにした。
「なぁ、お前さん。もう少しだけしっかりした方が良いぜ。危なっかしくて見てられねぇよ。」
俺がこう言うと、塩田は俺のことを睨みながらこう言うのだ。
「なんでそんなこと西山君に言われないといけないんですか?」
確かにそうだな。余計なお節介だったかもしれない。
だが、お節介焼は俺の性分でね。それから先も塩田のことを気に掛けていた。そんなもんで、そこからの高校生活は割と塩田と一緒に居ることが増えたな。
~八年後~
「パパと遊ぼうか?」
自宅のリビングにて五歳になる娘に俺がそう言うと、娘は笑顔でこう言うのだ。
「パパは足臭いから嫌♪」
おっとっと、娘からの辛辣コメントがこんなにハートに突き刺さるとはな。これは泣きたくなるな。
「コラッ、パパにそんなこと言わないの。」
嫁がそう言って娘を叱るが、娘も言い返す。
「ママだってパパにいっつも冷たいじゃん。」
「むぅ。」
何も言えなくなる嫁。確かにいつも塩対応だけに痛いところを突かれたな。ここは俺がフォローに入るか。
「ママは不器用だから、いつも冷たい態度しか取れないんだよ。でも本当は優しい人なんだ。」
そう、自分のおっちょこちょいに人を巻き込まない為に冷たい塩対応していた、なんともまぁ健気で可愛いじゃないか。まぁ、そのせいか今も塩対応する癖が抜けないわけだが。そこも含めて可愛いよ。
「も、もうパパ、変なこと言わないで。」
恥ずかしそうに顔を赤くする旧姓塩田さん。全くもって憂い奴よ。
ちなみに俺に塩対応は最初から逆効果。何でか気になるかい?
だって俺のフルネームは西山 瓜太郎(にしやま うりたろう)。
西瓜に塩をかけても甘くなるだけってもんだ。
おあとが宜しい様で♪
塩結び タヌキング @kibamusi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます