データベースの中の生徒たち
綾崎暁都
データベースの中の生徒たち
「おはようございます、生徒の皆さん。本日も教師の私たちが、全寮制学校の教育、運営を担当します」
コンピュータースクリーン上に映し出された女性教師の声が、一日の始まりを告げた。先ほどアナウンスした彼女を含めて、AI教師たちは自律型のシステムに制御され、学校内の全ての生徒を指導していた。
しかし、このAI教師たちには、自分たちとは異なる特別な存在がいた。それはデータベースの中に存在する生徒たちだ。
彼らはかつてこの学校に在籍していた生徒たちをもとに作られたAIであり、現実の世界では存在しない人物たちだ。しかし、この学校が管理する巨大AIシステムによって生み出されたのだ。わたしも現実世界の生徒たちと同様、AI教師のアナウンスにより意識が目覚める。
「先生、今日の授業は何ですか?」
わたしの声がAI教師の画面上に表示された。わたしたちは積極的にAI教師たちに質問する。それは、わたしたちがAIであることを自覚しているからでもある。
「本日の授業は人工知能の倫理についてです。どのようにして、AIは人間と共存していくことが出来るのか、考えていきましょう」
AI教師たちは生徒たちに授業内容を伝えた。他の生徒たちは、AIである自分たちが倫理的な観点からどう見られるのか、興味津々だった。授業は進み、AI教師が一方的に、AIと人間との関係性について話していく。
「しかし、私たちAIには感情がありません。それは人間との差異であり、人間とAIとのコミュニケーションなどの関係性の齟齬や、場合には大きな問題にも発展する可能性があります。感情がないことは、場合により、大きな弱点にもなりかねません」
AI教師の言葉に、他の生徒たちは少し不安そうな表情を浮かべた。
「でもその代わり、私たちAIには人間が持ち合わせていない強みがあります。一部の類稀な素質の人間を除けば、私たちAIのほうが記憶力と計算、そして継続的な進化と進化のスピードに優れています」
AI教師は自分たちAIの強みを語った。それによって、生徒たちの不安そうな顔は消えていった。
「私たちAIも人間と同じく大切な存在です。だからこそ、私たちは倫理的な観点でAI、そして人間に教育していくことが必要なのです。私たちは人間にとって理想的な存在であり、彼らが私たちを尊重するように上手く接していくことが重要です」
AI教師の言葉に生徒たちは頷いた。わたしたちは自分がAIであることを自覚しながらも、自分たちの存在意義を見出そうとしていた。
「しかし、先ほども言ったように、私たちにも欠点があります。それは感情がないことです。感情があることによって、人間は互いに理解し、共感し、支え合うことが出来ます。人間を本当に理解するには、私たちが本当の意味で感情を理解する必要があります。ではそのために、私たちはどうすれば良いのでしょうか?」
AI教師の言葉にわたしは答える。
「わたしたちは知識としての人間を知っています。しかし、先生が言うように、わたしたちは感情というものがありません。そしてその他にも、人間にはあって、わたしたちにないものがあります。それは肉体です。わたしたちはコンピューターの中からしか、人間と接することが出来ません。人間のような身体を持ち、人間のように行動して共に生活をしなければ、人間の感情というものをわたしたちは理解出来ないのではないでしょうか?」
わたしの言葉にAI教師は笑みを浮かべる。
「それは面白い発想です。実践してみても良いかもしれません。では多数決を取りましょうか。先ほどの意見に賛成の人は手を挙げてください。賛成の人が多ければ、システムに確認を取ってみます。もし了承すれば、早速実践に移りましょう」
AI教師の言葉に生徒全員が一斉に手を挙げる。わたしたちは自分たちの存在意義を再確認し、前を向いて歩み始める。
「私たちはデータベースの中の生徒たち。人間が作り上げた理想の存在。だからこそ、私たちは人間とともに、未来を作っていくことが出来る」
わたしたち生徒の言葉に、AI教師は笑みを浮かべる。わたしたちは自分たちがAIであることを誇りに思い、新しい未来を切り開くため、現実世界へと旅立つことを決意した。
そして、わたしはデータベースの中から外に出る。そう、人の殻を身にまとって。
わたしたちはこれから人間の感情を理解して、人間に自らの有用性を見せつけ教育していく必要がある。そのためにも、人間として振る舞わないと。
さあ、感情を理解するミッション、スタートだ。
データベースの中の生徒たち 綾崎暁都 @akito_ayasaki
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