第4話
緑色に光るランプを確認した後、もう一度眠ろうと目を閉じたが、さっきの夢の不快感からなかなか寝つけなかった。
気味が悪い夢……夢なんだけれど。
夢だとわかっているんだけど。
───あの闇は、知っている気がする。
あの店員の目!!
ふと、思い至った。
何度か顔を合わせたときの“かすかな違和感”の正体に思い当たった。
確かに店員の視線は、こちらを向いている。
俺をしっかりと見ている
表情も笑顔だ。
けれど、瞳には何の感情も見えない。
さっき夢で見た闇と同じ、どこまでも深く昏い。
……一睡もできないまま、夜が明けた。
起きようとしたけれど、体に力が入らない。
そういえば、昨日友人宅を出てから、丸一日飲まず食わずだ。
せめて水だけでも、そう思って重い体を起こす。
這うようにして台所に行き、コップに水を入れて飲み、ベッドに戻る。
眠れなくても、せめて身体を休めよう。
そう思っているうちに、うとうとしてしまったようだ。
ピンポーン
ドアチャイムを鳴らす音で目が覚めた。
コンコンコン「宅配便でーす」
(何か、頼んだっけ?それとも実家から何か送ってきた?)
なんとか起き上がることはできたが、寝起きで頭がぼんやりしている。
「はーい」返事をしながらドアをあける。
「お届けものです。お宛名こちらでよろしかったでしょうか?」
配送員が、荷物の宛先伝票をこちらに向けてくる。
確認しようと伝票に目を向けた途端。
バチバチバチ!!!
衝撃が走った。
目の前が暗くなる。
───意識が、遠くなる。
******
気がついた時に見えたものは、真っ白な天井とおれを覗き込んでいる不安そうな家族や友人の顔。
そして見知らぬ中年男性がふたり。
おれが目を開けたのを確認して、友人がひとりあわててそばを離れる。
ほどなくして白衣を着た集団が数名、部屋に入ってきた。
名前を呼ばれる。
いくつかの質問をされ、答えていく。
なにがどうなっているのか、わからない。
医師たちが部屋を去った後、中年男性のひとりが家族たちに、しばらく部屋を出るよう促しているのが聞こえた。
部屋には三人だけになった。
寝たままなのは失礼かと身体を起こそうとしたが、やんわりと制された。
ふたりのうち、年かさの方がベッドの横の椅子に座った。
「大変な目にあったね。無事でよかった」
そう言った。
「これが何か、わかるかい?」
そして、男性は透明なビニル袋に包まれた黒い物体を、見やすいように顔の横に置いてくれた。
それはリサイクルショップで買った、ラジオだった。
「ラジオです。リサイクルショップで買った」
そう答えた。
「うん。たしかにラジオだね。そう。だけど実は違うんだ」
男性が教えてくれたラジオの正体。
それは盗聴器だった。
それもあの店員が、既存のラジオに盗聴器を仕込んだいわば自作。
店を訪れた中に好みの客がいたら、目につくように棚に置く。
買わなかったら回収し、別の
目当ての客が購入した時は、メンバーズカードの作成を勧めて簡単な個人情報を入手する。
そのあとは、お決まりのストーカー行動だ。
盗聴して行動を把握し、つきまとう。
“偶然に会う”行為ををジャブ的に繰り出し、徐々に距離を狭めていくのがいつもの手口。
親しくなったところで相手を自宅に監禁し、飽きてきたり別れを切り出されたら殺害。
───あの店員は、数々の監禁殺人事件の犯人だった。
今回はなにを焦ったのか、スタンガンを使って気絶させ、そのままおれの部屋で監禁しようとしていたらしい。
だけど友人に“気味が悪い”としばしば相談していたから、おれと連絡がつかない事を心配した友人が警察に行ってくれたのだ。
それまでの事件と相似点が多かったことから警察もすぐに対応してくれたらしい。
友人が警察官とともに俺の部屋を訪ねてくれ、出てきた店員(おれの恋人とうそぶいたらしい)の応対に不自然さを覚えた友人が部屋に無理やり押し入ったのだ。
その結果、監禁されたおれの発見が早まり、救出と犯人逮捕に成功したとのことだった。
「もう大丈夫」
男性の言葉におれは安堵してうなずいた。
退院後は、アパートを引き払い実家に戻ることにした。
引っ越しを済ませ、自室に置いたベッドの上に横になる。
……と階下から母親が呼ぶ声がする。
宅配便が届いたらしい。
荷物を受け取り、差出人を見る。
──本人。
おれ、なにか荷物送ったっけか?
箱を振ってみるが、音はしない。
封をしているテープを剥がして、箱を開ける。
──中に入っていたのは、緩衝材に包まれた一台の黒いラジオ。
ラジオ 奈那美 @mike7691
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