カーネーションに思いを託して
落ち着いたはずの涙がまたぶり返す。僕は言葉を出すこともできなくなって、その場にしゃがみ込んでしまった。
最初から最後まで騙されていた。そのことは悔しさと同時に不思議な嬉しさをも与えてくれた。台本のはずの僕が、役者に負けてしまったのだ。
素直に負けを認めると、体が変化していく。恋人だった体は縮み、色褪せた本のような皮膚になっていく。着ていた服は大き過ぎてブカブカだ。
ただの付喪神に戻った僕にはやりたいことがたくさんある。なんたって三年間も一つの役を演じ切った名優だ。いろんな役に化けて、面白おかしく暮らしたい。
ただ真っ先にやらないといけないことは、わかっていた。
僕は手紙を広げると、彼女の二択の答えに太い指で大きく丸をつけた。
一際強い風が吹き、白とピンクのカーネーションが仲良く風に揺れた。
◆◆◆◇◇◇
最後まで読んでいただきありがとうございます。
短い話の中に二人の想いを詰め込んでみました。
付喪神と女優のちょっと変わった恋愛譚、いかがだったでしょうか。
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全ては演技の上で フクロウ @hukurou0223
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