全ては演技の上で
拝啓。いつもお世話になっております。音葉和咲です。
この度は
こうして、あなたに手紙を書くのは初めてのことですね。記憶の中のあなたもそうですが、本当のあなたにも初めてのことです。
嬉しさと同時に寂しさも込み上げてきますね。だって、散々悩んだんですよ? 直接伝えようか、手紙で伝えようか。早く言ったほうがいいのか、終わったあとに言ったほうがいいのか。
私は結局、後者を選びました。悲しんでいるようでしたら、すみません。悲しんでいてほしい気持ちもあります。
本当のあなたが悲しんでくれているのだとすれば、それはきっといくばくかでも私のことを「好き」な気持ちでいてくれたのだろうと思うからです。
さて、あなたと出会った三年前、私はあなたの正体に気がついてしまいました。あなたは確かに役者です。私の役者人生を共に歩いてきたのですから、当然のこと。
だけど私もやはり役者なのです。あなたがかつてのあの人ではないことは最初からわかっていたのです。だって、あの人の割に、あなたは優しすぎるから。
あなたが演技をするのであれば、私も受けて立とう、そう思うのもまた当然のことです。私も恋人となり、最後まで演じ切ることを決めたのです。そう、『全ては演技の上で』。その証拠に、私はあなたの名前を一度たりとも呼んだことがなかったでしょう? あなたの本当の名前を知らないからです。
……でも、最後の日は失敗しましたね。どうしてもあなたと過ごしたいと思ってしまった。
あなたの方から何かミスを犯さないかどうかとあれこれ試してみたくなりました。その中でも最後のキス。感情が高ぶってしまって思わず涙が溢れ出てしまいました。それを隠すためのキスでもありました。
さて、最後くらいは本心でお話しましょう。
私はあなたが好きです。大好きです。心の底から愛していると言ってもいい。だからこそ、聞くのがずっと怖くてしかたがありませんでした。
最後まで臆病な私ですみません。もし、もっと早くに尋ねていれば、本当のあなたと最後のときを過ごせたかもしれません。
でも、たとえ全ては演技の上だとしても、私の心はあなたの中のあなたを捉えていました。そう、信じます。
それでは、最後にぜひこの二択を選んでください。
あなたは、本当は私のことが「好き」ですか? それとも「嫌い」ですか?
P.S. この手紙を読んだら、どうぞ役を降りていただいて結構です。私ではなくあなたのために。二色のカーネーションに想いを託して。
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