一通の手紙

 ベンチに腰掛ける。涙が急に溢れてきた。毎日ここで過ごしてきた記憶が鮮明に蘇ってくる。一年、二年、三年と繰り返す四季は彼女の笑顔とともにあったことを思い知らされる。


 私は演技をしていた。けれど僕は感じていた。『全ては演技の上で』。そのはずだったのに、いつの間にか僕は僕として和咲に接してしまっていた。別れが来るのが遅すぎたのだ。


 風が吹き、ヒラヒラと花びらが舞った。


 けれど、僕は役を果たした。和咲は心残りだった恋人と最期の最期まで共に過ごし旅立った。穏やかな旅路だっただろう。いつもと変わらぬ微笑みを浮かべていたのだから。


「よし」


 僕は手の甲で涙を拭うとベンチから勢いよく立ち上がった。視界の端でカーネーションが揺れていた。


「これは……」


 近付いて見てみればそこには一通の封筒が置かれていた。風で飛ばされないように、輪ゴムで複数のカーネーションの茎にくくりつけている。僕と彼女以外、ここには誰もいない。だからつまり、彼女の仕業だ。


 封筒を開けると手紙が入っていた。恐る恐る開くと、彼女の少しくせのある可愛らしい字が綴られていた。

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