終わりの演技

 翌日、音葉和咲は死んだ。僕が朝起きると、静かに息を引き取っていた。


 幸せそうな微笑みに昨夜の綺麗な笑顔がオーバーラップする。何度か声をかけて、頬に唇を寄せてみたが二度と起きることはなかった。


 私はすぐに、過去、恋人が演技でやっていたように、脈を測り胸に耳を押しつけて心臓の音を聞いてみたがどちらも反応は返ってこなかった。


 家中を歩き回り、朝食に好きなフルーツを並べ、映画を流し、本を広げた。それでも彼女は目覚めなかった。


 私は急いでお風呂を沸かし、湯船の中に飛び込んだ。息を限界まで止めて苦しくなってもそのまま潜っていた。体の細胞一つ一つから酸素が消えていく。我慢し切れなくて僕は湯船から飛び出してしまった。


 私はお風呂から出ると和咲の元へと向かった。やはり彼女は同じ姿勢のままで眠っていた。ようやく僕は、死を理解した。


 私は濡れたままの手で彼女の手を握る。僕は額にキスをして彼女の匂いを嗅いだ。


「私の役は終わった。私の演技は終わった。音葉和咲。永遠に幸せでありますように」


 僕は立ち上がると、ベッドルームのドアをそっと閉じてベランダへと向かった。

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